完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな

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第二章

思いがけない事実

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「いらっしゃい、どうぞお座りになって」

 マイリ―に案内されて部屋へと通されたアスチルゼフィラ様とジュディを、あたしは笑顔で迎え入れた。お茶の準備が整う間、他愛のない話題を軽く交わす。マイリ―が部屋から退室したと同時に、ジュディが早速話を切り出した。

「ティアナ様、本日お邪魔したのは……殿下とお兄様方の件についてお話したい事がありまして」

 その言葉にあたしは正直驚かされた。先ほどマイリ―から聞かされた三人の失踪をこの二人は知っているという事だろうか。しかしまだ公にされていない話を知っているとは限らない。他の内容かもしれない。

「あら、一体何のお話かしら?」

 動揺する胸の内を気付かれない様に平静を装う。友人とは言え、簡単に話せる内容では無いのだ。
ジュディとアスチルゼフィラ様は互いに顔を見合わせ、戸惑いを見せる。

「もしかして……まだご存知ないのですか?」
「何の話?」
「……お三方が行方知れずになっている件です」

 あたしはその返答に大きく息を呑んだ。そして二人と視線を絡め合い……確信した。この二人は殿下達の失踪を知っている。

「……どこでその話を? わたくしでさえ先ほど聞いたばかりですのよ」
「それは……何と説明したら良いのか……実はわたくし達は少々独自の情報網を持っているのです」

 アスチルゼフィラ様の方を見るとジュディに賛同して首を縦に振っている。

「タクト様達を助け出す為には、どうしてもティアナ様のお力をお借りしなければならないんです! どうか、協力して頂けませんか」

 ジュディ以上に必死の形相で懇願するアスチルゼフィラ様。タクトお兄様と相思相愛なのは知っているし、自分の婚約者が行方不明なのだ。あたしの様に心配で堪らないのがよく分かる。だけど……。

「……助け出す、って殿下達は誰かに捕らえられているという事? 状況がよく理解出来ないわ。もっと詳しく教えて頂戴。何故貴方達がそんな事を知っているの、他に何を知っているの?」

 そこから話された内容は色んな意味で衝撃を受ける事ばかりだった。にわかには信じがたい話ではあったが、どれも辻褄が合っていて容易く否定も出来ない。だが、以前にミンスロッティという少女が起こした事件を経験しているだけに信じて受け入れるのが一番納得いく答えだった。

◆◇◇◇ ◇◇◇◇ ◇◇◇◆

 ジュディとアスチルゼフィラ様の話を纏めるとこうだ。自分達は思い出した時期さえ違うが前世の記憶を持っている事。そしてこの世界が二人が前世でよく遊んでいた『乙女ゲーム』という物語の世界が現実として再現された状態なのだそうだ。

 その物語の中では殿下やお兄様達を含め、どうやらあたしも登場人物の一人との事。そしてミンスロッティ様が本来はその物語の主人公で彼女も前世の記憶を持っているらしい。あたしはそのライバル役の悪役令嬢という役割だそうな。確かにミンスロッティ様と関わりがあったあの時期、彼女からあたしは悪役令嬢の務めを果たしてくれないから困ると言われていた。

 アスチルゼフィラ様が言うには、前世の記憶が戻った時には既に色々とその物語の設定とは違う状態になっていたらしい。

「貴方達の知っている世界ではどんな感じだったの?」
「えーと……お気を悪くされたら申し訳ありません。例えばですね、タクト様で言えばもっと脳筋だったりとか」
「のうきん?」
「鍛える事しか頭にないお馬鹿さんて事ですわ、ティアナ様」

 アスチルゼフィラ様の言葉だけでは分かりにくい部分をジュディが補足してくれる。

「一番驚いたのはティアナ様と殿下が仲睦まじい事ですね」
「あぁ、それはわたくしも大変驚きましたわ」
「え……物語では違うのですか?」
「はい、いかにも政略結婚って感じで。特に殿下の方がティアナ様を避けておられました」

 一瞬、ミンスロッティ様の居た頃を思い出した。あの頃は芝居だったとは言え、殿下はあたしを冷遇する態度を取られていた。今思い出しても辛い記憶だが、物語ではあれが本来のお姿だとはとても信じられない。

「不思議ね……何故色々と違うのかしら」
「ハッキリとは分かりませんが、殿下がティアナ様をとても大切に思われている事が一番大きいと思います。それによって周りも影響を受けたんじゃないかと……」
「そういう細かな変化はありますが、それ以外の所でのシナリオは基本的に物語通りに進んで行ってるんです」
「と、いう事は……今回の事件は」
「はい、物語の中でもクーデターの件も含めて起きています」
「ですが起きる順番が違うんです。失踪事件を皮切りにクーデターが起きるんです」

 物語では主人公が協力者と共に両方の事件を解決へと導くのだが、今の現状ではそれが困難な状態にあるという。

「まず、主人公ミンスロッティが表舞台から消えてしまってます。そしてクーデターを殿下が解決してしまわれた……」
「恐らく色々な積み重ねを修正する為に、物語の強制力が働いて失踪事件が起きたのだと思われます」
「そんな……では、どうやって殿下達を救出すれば良いの?」

 パッと頭に浮かんだのは一つの案しかない――。

「まさか……」

 あたしの問いかけに二人は頷いた。

「ミンスロッティ様のお力を借りる……のね?」
「「はい」」
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