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第二章
陛下の御前にて②
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「な、なんだこれはぁああああ!」
バーベンス公爵がカショカショと情けない音を立てるだけの豪華な剣を放り出しながら叫ぶと同時に部屋にいた近衛騎士団の面々が、公爵と共に来ていた貴族連中を次々と拘束していった。勿論公爵自身も抵抗する暇も無いほどの一瞬で腕をひねり上げられてその場へ膝を着く形となった。その隣では息子のダナンが同じ様に腕を後ろに縛り上げられて、床へと転がされている。
「……馬鹿としか言いようがないな、バーベンス公爵」
そう言いながらゆらりと立ち上がったアルスト殿下の姿を見たバーベンス公爵たちは悲鳴を上げた。
「ぎゃーっ! 死体が動いたっ」
「あわわわわ、アルスト殿下が黄泉の国から戻ってきたぞ」
「ひぃいいいいい! 生ける屍がっ、た、助けてくれっ呪わないでくれえ」
首筋と口から真っ赤な血をドポドポと垂れ流しながら、にんまりと微笑むアルスト殿下の姿に公爵らは真っ青な顔をして震えあがる。そんな中、アーサー殿下がどこから出したのかタオルを一枚アルスト殿下へと手渡した。
「兄上、気味が悪いから早く拭いて下さい」
「そうだ、すぐに拭き取れアルスト」
「気味が悪いのに美しさに拍車が掛かって神々しいとは、我が息子ながら不思議ですわ……」
アーサー殿下に同調して首を縦に振りまくる陛下と王妃。二人もいつの間にか縛られていた筈の縄が消えて、騎士に用意された椅子へと腰掛けていた。
「酷い言われようだな、アーサーなんて足で私を蹴とばすし……」
「あれは兄上が目を見開いて仰向けに倒れていたからでしょう! 打ち合わせと違い過ぎて焦りましたよ!」
「せっかく血糊も用意してリアルさを追求したのに……」
とても残念そうに拭き終わったタオルと汚れたシャツを従者へと渡し、代わりに真新しいシャツを手に入れて手早く着込むアルスト殿下。その姿を呆然と見ていたバーベンス公爵が口を開いた。
「ちのり……とはなんだ? 怪我もしていない様だし誰かの血を身体に付けていたのか、恐ろしい男だな」
「うえっ、そんな気持ち悪い事する訳ないだろう。血糊っていうのは血液に見える様に作った絵具みたいなものだよ、公爵。演劇とかで使うと便利なんだ」
アルスト殿下からの説明を受けて公爵だけでなく、この部屋に居る誰もが「ほぉ~」とか「殿下は博学でいらっしゃる」とか感嘆の声をあげた。その反応にアルスト殿下は少し苦笑いをしながら公爵の方へと近づいて、拘束されて跪いている公爵と彼の計画に加担した複数名の貴族連中を見下ろした。
「さて、バーベンス公爵。それに……これはこれは、キューバレー伯爵にワードナ―伯爵まで。あとの皆も黒い噂のある方々が勢揃いですね。わざわざお越し頂き手間が省けました」
とびきりの笑顔を見せるアルスト殿下の姿に、城に集まった貴族の面々は一斉に冷や汗をかいたり気まずそうに俯き始めた。
◆◇◇◇◇◇◆ ◆◇◇◇◇◇◆
【あとがき】
近況ボードにある様に更新お待たせしており、申し訳ありません。
少しですが続きをUPさせて頂きました。
暫くの間、かなり亀ペース更新になるとは思いますが
宜しくお願いいたしますm(_ _)m
バーベンス公爵がカショカショと情けない音を立てるだけの豪華な剣を放り出しながら叫ぶと同時に部屋にいた近衛騎士団の面々が、公爵と共に来ていた貴族連中を次々と拘束していった。勿論公爵自身も抵抗する暇も無いほどの一瞬で腕をひねり上げられてその場へ膝を着く形となった。その隣では息子のダナンが同じ様に腕を後ろに縛り上げられて、床へと転がされている。
「……馬鹿としか言いようがないな、バーベンス公爵」
そう言いながらゆらりと立ち上がったアルスト殿下の姿を見たバーベンス公爵たちは悲鳴を上げた。
「ぎゃーっ! 死体が動いたっ」
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首筋と口から真っ赤な血をドポドポと垂れ流しながら、にんまりと微笑むアルスト殿下の姿に公爵らは真っ青な顔をして震えあがる。そんな中、アーサー殿下がどこから出したのかタオルを一枚アルスト殿下へと手渡した。
「兄上、気味が悪いから早く拭いて下さい」
「そうだ、すぐに拭き取れアルスト」
「気味が悪いのに美しさに拍車が掛かって神々しいとは、我が息子ながら不思議ですわ……」
アーサー殿下に同調して首を縦に振りまくる陛下と王妃。二人もいつの間にか縛られていた筈の縄が消えて、騎士に用意された椅子へと腰掛けていた。
「酷い言われようだな、アーサーなんて足で私を蹴とばすし……」
「あれは兄上が目を見開いて仰向けに倒れていたからでしょう! 打ち合わせと違い過ぎて焦りましたよ!」
「せっかく血糊も用意してリアルさを追求したのに……」
とても残念そうに拭き終わったタオルと汚れたシャツを従者へと渡し、代わりに真新しいシャツを手に入れて手早く着込むアルスト殿下。その姿を呆然と見ていたバーベンス公爵が口を開いた。
「ちのり……とはなんだ? 怪我もしていない様だし誰かの血を身体に付けていたのか、恐ろしい男だな」
「うえっ、そんな気持ち悪い事する訳ないだろう。血糊っていうのは血液に見える様に作った絵具みたいなものだよ、公爵。演劇とかで使うと便利なんだ」
アルスト殿下からの説明を受けて公爵だけでなく、この部屋に居る誰もが「ほぉ~」とか「殿下は博学でいらっしゃる」とか感嘆の声をあげた。その反応にアルスト殿下は少し苦笑いをしながら公爵の方へと近づいて、拘束されて跪いている公爵と彼の計画に加担した複数名の貴族連中を見下ろした。
「さて、バーベンス公爵。それに……これはこれは、キューバレー伯爵にワードナ―伯爵まで。あとの皆も黒い噂のある方々が勢揃いですね。わざわざお越し頂き手間が省けました」
とびきりの笑顔を見せるアルスト殿下の姿に、城に集まった貴族の面々は一斉に冷や汗をかいたり気まずそうに俯き始めた。
◆◇◇◇◇◇◆ ◆◇◇◇◇◇◆
【あとがき】
近況ボードにある様に更新お待たせしており、申し訳ありません。
少しですが続きをUPさせて頂きました。
暫くの間、かなり亀ペース更新になるとは思いますが
宜しくお願いいたしますm(_ _)m
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