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第二章

バーベンス公爵邸にて ザッカリーSide

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 王宮でバーベンス公爵らと近衛騎士団が剣を交えている頃、ローゼン公爵邸へ向かう筈だったザッカリー・バーベンスは自分の邸内で剣を構えながらタクト・ローゼンと対峙していた。これからローゼン公爵邸へ乗り込むぞ、という時に逆にローゼン公爵家の私設騎士団たちを引き連れたタクトから襲撃を受けたのだった。

 父親が集めた強者揃いの武装兵士たちはタクトが率いてきた私設騎士団に全く歯が立たず、赤子のように一瞬で地に沈められた。どういう事だ、ローゼン公爵家の武力は高いとは知っていたがこんなに強いだなんて聞いていない。

「お、おかしいだろう! お前らがこんなに強い筈がない、いや、強くあってはいけないだろう! これじゃ近衛騎士団の連中よりも強いではないか」
「はあ? 何を訳の分からない事をほざいてるんだ、お前。近衛騎士団の方が強いに決まっているだろう」
「そんな訳あるか! オレが近衛騎士団の練習風景を見てないとでも思っているのか。あいつらはもっと弱かったぞ」

 王城で何度も近衛騎士団の訓練する姿は目にしている。オレの目から見てもあいつらはこんなに素早くなかったし、こんなに化け物みたいに強くはなかった。

「……あのな、誰が見ているか分からない城での訓練で本気を見せびらかして練習すると思うか? 本当の訓練は公の場ではしないんだよ」
「ひ、卑怯だぞっ」

 オレがそう叫ぶとタクトは大きな溜息をついて、さも面倒臭そうな顔を見せる。こいつは昔からいつもこうやってオレの事を見下した態度を取って来るんだ。ちょっと自分の方が顔がいいからって、ちょっと自分の方が婚約者から好かれてるからといって、本当にムカつく。

「お前がいくら顔が良くても、婚約者からベタ惚れされてても、王太子の側近に選ばれていい気になっているとしても、全然羨ましくなんてないんだからな」
「また意味の分からない事を……」
「お前なんて、ローゼン公爵家なんて消えてしまえばいいんだ! 今頃父上達が城を制圧して、お前の大事な王太子おともだち諸共跪かせている筈だ」
「はっ、期待させて悪いが今頃向こうで跪いているのはお前の父親たちの方だろうな」
「ははははは、馬鹿め。こっちにはアーサー殿下が付いているのだ。陛下とアルスト殿下の寝首をかくなんて簡単なんだよ」

 余裕ぶって反論して来るタクトにオレは更に追い打ちをかけてやった。城の内部からと外からは手練れたちを引き連れて攻め込んでいるのだ。近衛騎士団が強いのなら、それはそれで騎士団の一部はアーサー殿下が動かせるのだから逆に良い事ではないか。

「……はぁ、つくづく頭悪いなザッカリー」
「な、なんだとっ!」
「アーサー殿下がお前側な訳ないだろう。王族としての意識の高い二人が恋愛ごとで決裂するなんて普通に考えたら有り得ない話だ」
「へ…………? だが、アルスト殿下なんて恋に浮かれた馬鹿王子じゃないか!」
「恋に浮かれてはいるが婚約者ティアナ相手限定だし、政略結婚の相手をただ愛しているだけだ何も問題はないだろう」
「ア、アーサー殿下だって……」
「そもそもお前がロメリアンヌ嬢を蔑ろにしていなければ、例えアーサー殿下が心を寄せていても気持ちを表に出しはしないと思うが?」

 頭の奥がサーっと冷えていくのが分かる。オレのせいだと言うのか? オレがあの女を適当に扱っていた事でアーサー殿下が動いたと?

「オレを利用した、のか……利用される振りをして、まんまとロメリアンヌを手に入れた……?」
「全てアルストの計略だよ、残念だったなザッカリー」
「アルスト殿下の…………」

 これまでの経緯の全てがあの馬鹿王子の計略だっただと……そんなバカな話があるもんか。そりゃ、よく父上がアルスト殿下の事を曲者だとか、腹黒だとか色々言ってはいたが……オレが知ってるアルスト殿下は婚約者にデレデレしているだけのただの男だ。

「し、信じるものか。オレは、オレたちは王権を握るんだ。そして、お前たちを消し去ってティアナをオレのものにするって、そう決めたんだ……」
「あ⁉ なんだって?」

 急にタクトから聞いた事のないもの凄く低い声が聞こえた。と、思った時にはオレの剣は弾き飛ばされて身体が地面に抑えつけられていた。全く剣さばきが見えなかった事にも驚いたが、気が付いた時にはオレの心臓の真上にはタクトの剣先が突き付けられていた。その頭上にあるのは黒いオーラを纏ったタクトの姿――――。

 な、なんだよ、どこかの魔王かの様な雰囲気で怖すぎるんだが。

「誰が誰をものにするって?」
「うひぃぃいいい……」

 今にも心臓を貫かれそうで口をパクパクさせるしか出来ない。学園の武術大会や剣技の授業とかでは見せた事のないタクトの気迫と、あまりにレベル違いな武力の差に圧倒されていた。タクトってこんなに強かったのか、嘘だろ。

「お前ごときがティアナの名を口にするだけでも汚らわしいんだよ、二度と口にするんじゃねぇ! 分かったな」
「はっ、はふ、ひっ」

 恐怖で上手く口が回らないので必死に首を縦に振る。オレの返事を見てタクトは後ろに控えていた騎士に「縛り上げろ」と命令し、ようやくオレの身体の上から剣をどけて腰に差した鞘に納めた。
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