完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな

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第二章

バーベンス公爵家の企み ザッカリーSide

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 時は少し遡る事数ヶ月前――。

「父上! あの二人に文句を言うなって、どういう事だよ!!」

 オレは父上の執務室へと押し掛けた。あの屈辱の夜会からというものの、オレの婚約者であるロメリアンヌはやたらとアーサー殿下と一緒に居る。学園だけでなく、あちこちの夜会でオレのエスコートを受けずにアーサー殿下を連れて参加しているという。

 だから二人で居る所を見掛ける度にオレは文句を言っているのだが、その行動を父上から止められる事態となってしまっていた。オレは婚約者だ。何故文句を言っていけないのか理解が出来ない。

「ロメリアンヌが悪いのだから、オレは正当な権利を主張しているだけだ」
「いいから落ち着いて話を聞け、ザッカリー」

 父上はあからさまに眉間にシワを寄せて溜息をつきながら、従者に茶の用意を指示させてソファーへと腰掛けた。オレも向かい側のソファーへとふんぞり返って座る。ああ、最近は何かと苛ついて仕方がない。茶の用意が整い、互いにカップに口を付ける。

「いいか、ザッカリー。これは我が家を揺るがす重要な事案なのだ。お前とロメリアンヌ嬢との婚約は破棄する」
「は? 何をふざけた事を……」

 オレはロメリアンヌと結婚してエマーソン公爵家を継ぐ話になっていた筈だ。ロメリアンヌ自体には興味は無いが、エマーソン公爵家は手に入れたい。これからも大貴族として贅沢で自由な生活をしていくにはエマーソン公爵家へ婿入りしなければならないのに、父上は何を言っているのだ。

「アーサー殿下がロメリアンヌ嬢と懇意にしているのを利用するんだ、分かるかザッカリー」
「……分かんねぇよ!」
「そうだろうな……では、今からお前にも分かる様に説明してやろう。アルスト殿下とアーサー殿下が仲違いをしている話は知っておるな?」
「あぁ、学園でもその噂で持ちきりだ」

 アルスト殿下とアーサー殿下が喧嘩しようがオレはどうでも良いが、その噂で学園中が揺れているのは事実だ。

「このままアーサー殿下がアルスト殿下と決裂したとする。すると、どうなる?」
「どうって……オレには分かんねぇよ」
「王家が二つに分かれるという事だ」
「二つ……?」
「そうだ。今まではアルスト殿下、アーサー殿下、そして第三王子のアレク殿下の三人は非常に仲が良く結束していた。このままいけばアルスト殿下が王座に就いた後は弟王子二人がアルスト殿下を支えて行かれる事だろう」
「……それが? 何も問題ないだろう」

 父上の話している内容がよく分からない。王家が安泰ならオレたち貴族たちの将来も明るいという事じゃないか。何か問題があるのだろうか。

「まだ青いなザッカリー。王家が二つに分かれたとすると、派閥もアルスト殿下派とアーサー殿下派の二つに分かれる。これがチャンスだというのだ」
「益々意味が分からねぇ……」
「ここでアーサー殿下がロメリアンヌ嬢と懇意にしている事が意味を帯びてくるのだ。ロメリアンヌ嬢との婚約をアーサー殿下に譲り、その代わりにアーサー殿下を次期国王へと祀り上げるのだ」
「……は? それってクーデター起こすって事じゃねーか!?」
「そうだ」

 オレは驚いて父上を見つめる。ニヤニヤとした黒い笑みを浮かべながら、伸ばした顎鬚を手で撫でている。

「……本気かよ」
「いいか、アルスト殿下は曲者すぎて近寄る事すらままならん。それにローゼン公爵家との繋がりが強すぎる。だがアーサー殿下なら聡明ではあられるが、後ろから上手く操る事が可能だ」
「国家転覆を狙うとは……信じらんねぇ」
「ローゼン公爵家は力を持ち過ぎた。いつまでものさばらせておく訳にもいかん。我が歴史あるバーベンス公爵家こそ、筆頭公爵家に相応しいのだ」

 呆然とした気持ちで父上の話を聞いていたオレだったが、ふとした疑問にぶつかる。

「オレの婚約者はどうなるんだよ、貴族じゃなくなるなんて嫌だぜ」
「うむ…………おお、そうだ。アルスト殿下が消えるなら、ティアナ嬢はどうだ? ローゼン公爵家は潰すが、あの美しいティアナ嬢を消してしまうのは勿体ないな。お前にはワシの所有する侯爵位と領地をやるから、ティアナ嬢を娶れば良い。領地経営も彼女なら任せられるだろうしな」
「ティアナ・ローゼンか……確かに美しい女だ」

 公爵令嬢らしく表面上はキツイ印象も受けるが、アルスト殿下と一緒に居る時に見せる柔らかな雰囲気は魅力的だ。王太子妃教育まで受けた女をオレのモノにする……いいじゃねぇか、ワクワクするぜ。

「まだ確信は持てんからな、本当に仲違いしたかどうかもう暫くは様子見はする。だからお前も今後はアーサー殿下とロメリアンヌ嬢への口出しはするんじゃないぞ、分かったな」
「あぁ、分かったよ」

 ロメリアンヌがアーサー殿下と仲良くしている姿を見るのはしゃくに障るが、もうオレとは関係のない女だと思えばどうでもいい。それにタクトの大事にしているあの妹をオレのモノに出来ると思うと、笑いが止まらない。とうとうタクトを見返してやる時が来たぜ!
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