完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな

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第二章

エマーソン公爵家にて

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「正式な書状が届きました」

 エマーソン公爵家の応接室にて。あたしはロメリアンヌの父であるエマーソン公爵から、先程届けられたばかりのその書状を見せて頂いていた。

「公爵がサインをして貴族院へと提出すれば、これでロメリアンヌとザッカリー様の婚約は破棄されますね」
「はい、そうです」

 実は先日ロメリアンヌは婚約者であるザッカリー・バーベンスが父親のバーベンス公爵と共にエマーソン邸へ訪れており、婚約破棄を申し付けられていた。理由はバーベンス公爵家側の都合による婚約の破棄。

「不貞を働いた事に対する慰謝料請求されてもおかしくないですけど、それを理由にするとお互い様になってしまいますものね」

 ジュディも書面を覗き込みながらそう口にする。ザッカリーがあちこちのご令嬢と仲良くされているのは誰もが知るところだ。

「それに面倒事を起こさず、さっさと婚約破棄をしてしまいたかったのでしょうね。婚約がありますから」
「そうですな、慰謝料だなんだと揉めれば無駄に時間が過ぎてしまいますからな」

 エマーソン公爵も頷いてみせる。

「次の婚約……わたくしなんかが本当にアーサー殿下と婚約しても良いのでしょうか」

 ロメリアンヌが眉を下げてあたし達の顔を見て来た。

「今更なに言ってるのよ、アーサー殿下から事前にプロポーズはされたんでしょう?」
「そ、それは……そうなのだけど……」

 ジュディの言葉にぽっと顔を赤らめるロメリアンヌ。アルスト殿下からこの計画を知らされた時、まずはロメリアンヌの気持ちを本人に確かめる必要があった。ザッカリーと結婚したくないという事はあたしも知ってはいたけど、ロメリアンヌがアーサー殿下の事をどう思っているのかは分からなかった。

 改めてロメリアンヌにアーサー殿下の事を聞いてみると少なからず想いを寄せている事が分かり、二人の婚約話が浮上した。勿論、今回の計画の為にも二人が想い合っているという事は大事なキーポイントとなる。

「なんだか今でも夢みたいで……」

 申し訳なさげな表情を見せるロメリアンヌに、エマーソン公爵は頭を下げる。

「お前は幸せになって良いのだよ、ロメリアンヌ。私の父の為に犠牲にしてしまってすまなかった」
「そんな、とんでもありませんわ。むしろこれから大変な役目を負わせてしまって申し訳ありません、お父様」
「娘の為だ、それくらい何てことないよ」

 今回の計画はとても大がかりなものになっている。王家を筆頭に我がローゼン公爵家、エマーソン公爵家、ダッペラー侯爵家が中心となって秘密裏に動いている。表立って動いているのはアーサー殿下とロメリアンヌの二人だけどね。

◆◇◇◇ ◇◇◇◇ ◇◇◇◆

 エマーソン公爵家を出た後、あたしは少し馬車を走らせて王都の街へと寄り道をした。雑貨屋で新しいインクを買い足したかったのでマイリーと一緒に雑貨屋の前で馬車を降り、可愛い木製の扉を開けて店の中へと入る。

「あれっ、ティアナ! 偶然だね」

 店へ入ってすぐに掛けられた声へと振り向くと、そこにはエイダン殿下がニコニコとした笑顔で立っていた。

「エイダン殿下……」

 まさかこんな所で出会うとは思っていなかったので、驚く。この雑貨屋は外観も、店の品揃えも全てが可愛らしい物ばかりなので男性が訪れる姿は滅多に見ないのだ。

「買い物かい?」
「あ……はい。エイダン殿下は何故……?」
「僕も買い物だよ、もうすぐ君の誕生日だろ? 何かプレゼントを、と思ってね」
「え……」

 エイダン殿下は暫く休学をされた後、元気に学園生活へと戻って来られた。あれからも相変わらず距離が近いのは変わらない。時々アルスト殿下から注意をされたりしているのだが、一向に態度を改める気配が感じられない。それはエスメイジー王女にも言える事だ。

「お気持ちは嬉しいのですが……プレゼントは困ります」
「ええっ、どうして?」
「アルスト殿下から、男性からの贈り物は受け取らないように言われておりますの」
「またアルスト殿下か……」

 エイダン殿下が大きく溜息をついた。

「宝石とかって訳じゃないんだし、友人からのプレゼントくらい言わなければ大丈夫じゃない?」
「そういう訳にはいきませんわ。アルスト殿下との約束ですもの」
「アルスト殿下以外の男性からは一度も贈られた事はないの?」
「父や兄からは頂きますけど……それ以外はありませんわ」

 そういえばアルスト殿下って、何故かあたしの持ち物を全て把握されているのよね。新しく何かを購入しても、すぐにその情報を得られているみたい。この間はクローゼットにあるドレスの枚数も、それぞれの色・形まで当てられて凄いな~と思ったのよね。「どうしてご存知なのですか?」とお聞きしたら「愛の力ってやつかな。ティアナの事で知らない事なんて何もないからね」って仰られて。

 あたしがアルスト殿下とのやり取りを思い出して少し頬を緩めてしまいそうになっていると、侍女のマイリーが「お嬢様、そろそろ参りませんと」と促して来た。

「あ、そうでしたわ。わたくし、そろそろ行きませんと……エイダン殿下、また学園で」
「えっ……あ、うん……」

 残念そうな声を発するエイダン殿下には申し訳ないけど、手早く買い物をして夕食までに邸へ帰らなければいけない。あたしはエイダン殿下に軽く頭を下げて、店の奥のインクや便箋などが置いてある棚の方へと向かった。
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