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第二章
ローゼン公爵家の夜会
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そのセンセーショナルな事件は我がローゼン公爵家で開かれた夜会で起こった。
「ロメリアンヌ・エマーソン! お前、どういうつもりだ!?」
ホールに響き渡るほどの大きな声でザッカリー・バーベンス公爵令息は突然傍にやって来て叫び出した。非難の声を向けられた相手であるロメリアンヌは、果実水の入ったグラスを片手にキョトンとしている。その態度に余計に腹が立ったのか、ザッカリーは更に声を荒げる。
「な、なんの事でしょう……ザッカリー様」
「とぼけるな。私のエスコート無しに何故この夜会に参加しておるのだ」
そう言って険しい顔をこちらに向けるザッカリーの腕には、しっかりと何処かの令嬢がくっ付いている。あのご令嬢は確か伯爵家の方だったかしら。あたしがジロリとそのご令嬢を観察すると、こそこそっとザッカリーの後ろへと隠れた。
「貴方からのエスコートを断られてしまいましたので、他の方にお願いしただけです。それに、これはいつもの事ではありませんか」
「そうではない、何故私の代わりをあの方が務めておるのだ」
視線を向けるのは少し離れた場所で、アルスト殿下やタクトお兄様たちと談笑されていたアーサー殿下だ。今夜のロメリアンヌはアーサー殿下がエスコートして下さったのだ。
「わたくしが困ってた所を、たまたまアーサー殿下に助けて頂いただけです」
「私に恥をかかせる気か!」
散々な言い分にあたしはスッと持っていた扇子で、ロメリアンヌへと詰め寄るザッカリーを牽制する。
「……ザッカリー様。元から貴方がロメリアンヌをエスコートして頂いていれば問題は起きなかったのではありませんか? それをいつも放棄しておいて、恥もなにもありませんわ」
「ぐっ……私が何故こんな地味で面白くもない女をエスコートせねばならぬのだ。エスコートして欲しければ私に相応しくなるよう努力して欲しいものだな」
「――随分な言いようだな、ザッカリー」
それまで黙って見ていたアーサー殿下が眉間にシワを寄せながらこちらへと歩いて来た。ロメリアンヌを庇うように前に立たれる。アルスト殿下もそっとあたしの傍へと近寄って来られた。タクトお兄様は何か護衛の方へと合図を送られているようだ。
「……いくらアーサー殿下だからと言って、人の婚約者を勝手にエスコートするだなんて有り得ませんよ」
「だが貴殿は婚約者として何もしておらぬそうだな。自分の婚約者ならば、その相手を美しく着飾るのも当然の務めであろう。それを全て放棄し、自分で磨けとは良い身分だな。それにロメリアンヌ嬢は貴殿の力を借りなくても充分美しいと思うぞ」
「なっ……」
「それと……何だ、その後ろに隠れておるご令嬢は。自分は不貞を働いておいて言う事だけは立派だな」
「ひっ!」
隠れていたにも関わらず、指摘を受けた令嬢は小さく悲鳴をあげて何処かへと逃げて行かれた。年下のアーサー殿下に言いくるめられて、ザッカリーはぷるぷると怒りで身体を震わせている。そこへタクトお兄様が数人の護衛を連れてやって来られた。
「ザッカリー、今日はその辺でもう帰れ! 今夜は特別な夜会なんだ、ぶち壊すな」
そう、今夜の夜会の主催者はタクトお兄様の婚約者のアスチルゼフィラ様だったりする。我が公爵家へ嫁入りするにあたって、花嫁修業の一環で当家の夜会や茶会の主催を今から練習しているのだ。そんなアスチルゼフィラ様は、タクトお兄様の後ろで青い顔をしてこちらの様子を見ておられる。
「はっ! 言われなくても帰らせて貰うよ。ロメリアンヌ! 後でエマーソン家へ抗議させて貰うからな」
鼻息を荒くしたザッカリーは護衛たちに見送られながら、ホールを出て行かれた。
「皆さま本当に、申し訳ありませんでした!」
ロメリアンヌが頭を下げるが、彼女が悪い訳ではない。自分より高位な方にエスコートされた事に、ザッカリーが怒り勝手に八つ当たりをしてきたようなものだ。それにロメリアンヌはいつも従兄弟の方にエスコートを頼み、夜会などへ参加をしているので今日に限った事では無いのだ。いつもなら何も文句を言わず、鼻で笑っておられるのに今夜はよほど頭に血が上ったらしい。
「気にしないで下さい。何かあれば私が守りますから」
「アーサー殿下……」
ロメリアンヌとアーサー殿下の傍から、いつの間にか皆そっと離れて行き……二人はそのまま仲良く談笑を始めた。あたしはアルスト殿下とその様子を遠くから覗き見している。
「ロメリアンヌの婚約者がアーサー殿下でしたら良かったのに……」
「あぁ、案外似合いかもしれんな」
「まぁ、珍しいですわね殿下がそんな事を仰るだなんて」
「そうか? これでも弟想いな兄なんだよ」
アルスト殿下はあたしの手の甲へとキスをすると「ティアナ。私ともう一曲踊ってくれませんか?」とダンスに誘って下さった。あたしは勿論それを受けて、楽しいダンスのひと時を過ごした。
「ロメリアンヌ・エマーソン! お前、どういうつもりだ!?」
ホールに響き渡るほどの大きな声でザッカリー・バーベンス公爵令息は突然傍にやって来て叫び出した。非難の声を向けられた相手であるロメリアンヌは、果実水の入ったグラスを片手にキョトンとしている。その態度に余計に腹が立ったのか、ザッカリーは更に声を荒げる。
「な、なんの事でしょう……ザッカリー様」
「とぼけるな。私のエスコート無しに何故この夜会に参加しておるのだ」
そう言って険しい顔をこちらに向けるザッカリーの腕には、しっかりと何処かの令嬢がくっ付いている。あのご令嬢は確か伯爵家の方だったかしら。あたしがジロリとそのご令嬢を観察すると、こそこそっとザッカリーの後ろへと隠れた。
「貴方からのエスコートを断られてしまいましたので、他の方にお願いしただけです。それに、これはいつもの事ではありませんか」
「そうではない、何故私の代わりをあの方が務めておるのだ」
視線を向けるのは少し離れた場所で、アルスト殿下やタクトお兄様たちと談笑されていたアーサー殿下だ。今夜のロメリアンヌはアーサー殿下がエスコートして下さったのだ。
「わたくしが困ってた所を、たまたまアーサー殿下に助けて頂いただけです」
「私に恥をかかせる気か!」
散々な言い分にあたしはスッと持っていた扇子で、ロメリアンヌへと詰め寄るザッカリーを牽制する。
「……ザッカリー様。元から貴方がロメリアンヌをエスコートして頂いていれば問題は起きなかったのではありませんか? それをいつも放棄しておいて、恥もなにもありませんわ」
「ぐっ……私が何故こんな地味で面白くもない女をエスコートせねばならぬのだ。エスコートして欲しければ私に相応しくなるよう努力して欲しいものだな」
「――随分な言いようだな、ザッカリー」
それまで黙って見ていたアーサー殿下が眉間にシワを寄せながらこちらへと歩いて来た。ロメリアンヌを庇うように前に立たれる。アルスト殿下もそっとあたしの傍へと近寄って来られた。タクトお兄様は何か護衛の方へと合図を送られているようだ。
「……いくらアーサー殿下だからと言って、人の婚約者を勝手にエスコートするだなんて有り得ませんよ」
「だが貴殿は婚約者として何もしておらぬそうだな。自分の婚約者ならば、その相手を美しく着飾るのも当然の務めであろう。それを全て放棄し、自分で磨けとは良い身分だな。それにロメリアンヌ嬢は貴殿の力を借りなくても充分美しいと思うぞ」
「なっ……」
「それと……何だ、その後ろに隠れておるご令嬢は。自分は不貞を働いておいて言う事だけは立派だな」
「ひっ!」
隠れていたにも関わらず、指摘を受けた令嬢は小さく悲鳴をあげて何処かへと逃げて行かれた。年下のアーサー殿下に言いくるめられて、ザッカリーはぷるぷると怒りで身体を震わせている。そこへタクトお兄様が数人の護衛を連れてやって来られた。
「ザッカリー、今日はその辺でもう帰れ! 今夜は特別な夜会なんだ、ぶち壊すな」
そう、今夜の夜会の主催者はタクトお兄様の婚約者のアスチルゼフィラ様だったりする。我が公爵家へ嫁入りするにあたって、花嫁修業の一環で当家の夜会や茶会の主催を今から練習しているのだ。そんなアスチルゼフィラ様は、タクトお兄様の後ろで青い顔をしてこちらの様子を見ておられる。
「はっ! 言われなくても帰らせて貰うよ。ロメリアンヌ! 後でエマーソン家へ抗議させて貰うからな」
鼻息を荒くしたザッカリーは護衛たちに見送られながら、ホールを出て行かれた。
「皆さま本当に、申し訳ありませんでした!」
ロメリアンヌが頭を下げるが、彼女が悪い訳ではない。自分より高位な方にエスコートされた事に、ザッカリーが怒り勝手に八つ当たりをしてきたようなものだ。それにロメリアンヌはいつも従兄弟の方にエスコートを頼み、夜会などへ参加をしているので今日に限った事では無いのだ。いつもなら何も文句を言わず、鼻で笑っておられるのに今夜はよほど頭に血が上ったらしい。
「気にしないで下さい。何かあれば私が守りますから」
「アーサー殿下……」
ロメリアンヌとアーサー殿下の傍から、いつの間にか皆そっと離れて行き……二人はそのまま仲良く談笑を始めた。あたしはアルスト殿下とその様子を遠くから覗き見している。
「ロメリアンヌの婚約者がアーサー殿下でしたら良かったのに……」
「あぁ、案外似合いかもしれんな」
「まぁ、珍しいですわね殿下がそんな事を仰るだなんて」
「そうか? これでも弟想いな兄なんだよ」
アルスト殿下はあたしの手の甲へとキスをすると「ティアナ。私ともう一曲踊ってくれませんか?」とダンスに誘って下さった。あたしは勿論それを受けて、楽しいダンスのひと時を過ごした。
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