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第二章
アルスト殿下の嫉妬
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「もうっ、殿下ったらダメですよあんな所で」
「うん、だからあれからこうして部屋まで我慢したよ。……ちゅっ」
ローゼン公爵家の邸までの道中、馬車の中であたしは抗議の声をあげた。すると殿下は口では「ごめん、ごめん」と言いながらもあたしを膝の上に乗せて座り、邸へ着くまであたしの髪をずっと撫でていた。その手の感触が気持ち良くて、あたしも殿下へと身を預けて心臓の鼓動を聞いていた。
邸へ到着すると驚いて出迎えた執事長や侍女のマイリーへアルスト殿下は「茶は後で良い。呼ぶまで部屋へ入るな」と申しつけて、あたしを抱きかかえたまま私室から続く奥の寝室まで連れて来られた。殿下はあたしをそっとベッドの上におろし、あたしは壁ドンならぬベッドドン(床ドン)? されている。
「壁ドン、されたって?」
「いえ……あたしの勘違いだったみたいです。エイダン殿下はお疲れだっただけで……」
「……それでもこんな風に、アイツの腕の中に居たんだよね?」
「…………はい」
アルスト殿下はあたしを見下ろしながら、少し切なそうなお顔をされている。こんな表情を見るのは初めてかもしれない。
「本当に何もされてない?」
「さ、されてません」
「髪にも触れてない?」
「はい」
アルスト殿下はあたしの髪を一房持ち上げ、あたしを見つめながらその髪に口づけを落される。いつもなら匂いを嗅がれるのに、その普通な行動が逆に見慣れないせいか変にドキドキしてしまう。
「ここにも、触れてないよね?」
「んっ……ふ、れてません」
指先でツツーッと首筋を撫でられる。そのままそこへと唇が這わされ、思わず身体がビクリと震える。首筋に強めのキスを受け、ビックリして殿下のお顔を見る。目が合うと殿下は何故か顔を真っ赤にされて、身体を起こされた。そしてベッドの縁へと腰掛けて顔を隠す様に頭を抱えられた。
「……殿下?」
「ごめん、こんな風に嫉妬してティアナにキスマーク付けるだなんて。私はみっともないな」
殿下の言葉に自分の首筋へと手をあてる。さっきのはキスマークを付けたのね……。キスマーク……その言葉に心臓の鼓動が更に早くなった気がする。うわっ……どうしよう、殿下から印を付けて貰ったんだわ。
「そんな事ありません、わたくしは……嬉しかったです」
「……」
振り返ったアルスト殿下はいつもの自信に溢れる表情とは違い、とても不安そうな顔だった。
「殿下が付けて下さった印、胸が苦しくなるくらいに嬉しいです。そんな風に嫉妬して頂いたのは愛して下さっているからでしょう? わたくしは嬉しいです」
「私を……嫌になったりしてないか? カッコ悪いと思ったりしないか」
「なりません。殿下はいつもカッコ良くて素敵です」
あたしが腕を広げて殿下からのハグを待っている姿を見せると困ったような表情を少し見せた後、ぎゅーっと抱きしめて下さった。
「私は君を誰にも渡す気はないからな。君が嫌だと言っても手放してやる事はない」
「はい、わたくしはアルスト殿下のお傍から離れません」
「これからも、キスマーク付けてしまうかもしれないけど……許してくれるか」
「勿論です」
「……ティアナも、私に付けてくれたりするだろうか?」
「ど、努力致します……」
「じゃあ、私の顔に! 頬とか顎とか!」
「……それは、無理ですっ」
とんでもない場所を提案されて却下すると、まずは服で隠れる二の腕で渋々妥協して頂けた。「これから練習を重ねて揃いで首筋に付けようね」なんて言われてしまったけど、あたしと違って殿下の場合は髪で隠す事も出来ないので実現するのはいつになるやら……。
あたしが頑張って二の腕へと付けた印を嬉しそうに撫でながら、アルスト殿下は上機嫌で城へと帰って行かれた。入れ違いに帰宅されたタクトお兄様が「なんか玄関先でキスマーク見せられて自慢されたんだけど!? お前らなにやってるんだよ」とげんなりとした様子であたしの部屋へと入って来られて、あたしは顔から火が噴き出そうになった。殿下はこの後、両陛下やアーサー殿下や城のあちこちで自慢して歩いていたそうで……あたしは暫く恥ずかしくてお城へ行けないと嘆いたのだった。
「うん、だからあれからこうして部屋まで我慢したよ。……ちゅっ」
ローゼン公爵家の邸までの道中、馬車の中であたしは抗議の声をあげた。すると殿下は口では「ごめん、ごめん」と言いながらもあたしを膝の上に乗せて座り、邸へ着くまであたしの髪をずっと撫でていた。その手の感触が気持ち良くて、あたしも殿下へと身を預けて心臓の鼓動を聞いていた。
邸へ到着すると驚いて出迎えた執事長や侍女のマイリーへアルスト殿下は「茶は後で良い。呼ぶまで部屋へ入るな」と申しつけて、あたしを抱きかかえたまま私室から続く奥の寝室まで連れて来られた。殿下はあたしをそっとベッドの上におろし、あたしは壁ドンならぬベッドドン(床ドン)? されている。
「壁ドン、されたって?」
「いえ……あたしの勘違いだったみたいです。エイダン殿下はお疲れだっただけで……」
「……それでもこんな風に、アイツの腕の中に居たんだよね?」
「…………はい」
アルスト殿下はあたしを見下ろしながら、少し切なそうなお顔をされている。こんな表情を見るのは初めてかもしれない。
「本当に何もされてない?」
「さ、されてません」
「髪にも触れてない?」
「はい」
アルスト殿下はあたしの髪を一房持ち上げ、あたしを見つめながらその髪に口づけを落される。いつもなら匂いを嗅がれるのに、その普通な行動が逆に見慣れないせいか変にドキドキしてしまう。
「ここにも、触れてないよね?」
「んっ……ふ、れてません」
指先でツツーッと首筋を撫でられる。そのままそこへと唇が這わされ、思わず身体がビクリと震える。首筋に強めのキスを受け、ビックリして殿下のお顔を見る。目が合うと殿下は何故か顔を真っ赤にされて、身体を起こされた。そしてベッドの縁へと腰掛けて顔を隠す様に頭を抱えられた。
「……殿下?」
「ごめん、こんな風に嫉妬してティアナにキスマーク付けるだなんて。私はみっともないな」
殿下の言葉に自分の首筋へと手をあてる。さっきのはキスマークを付けたのね……。キスマーク……その言葉に心臓の鼓動が更に早くなった気がする。うわっ……どうしよう、殿下から印を付けて貰ったんだわ。
「そんな事ありません、わたくしは……嬉しかったです」
「……」
振り返ったアルスト殿下はいつもの自信に溢れる表情とは違い、とても不安そうな顔だった。
「殿下が付けて下さった印、胸が苦しくなるくらいに嬉しいです。そんな風に嫉妬して頂いたのは愛して下さっているからでしょう? わたくしは嬉しいです」
「私を……嫌になったりしてないか? カッコ悪いと思ったりしないか」
「なりません。殿下はいつもカッコ良くて素敵です」
あたしが腕を広げて殿下からのハグを待っている姿を見せると困ったような表情を少し見せた後、ぎゅーっと抱きしめて下さった。
「私は君を誰にも渡す気はないからな。君が嫌だと言っても手放してやる事はない」
「はい、わたくしはアルスト殿下のお傍から離れません」
「これからも、キスマーク付けてしまうかもしれないけど……許してくれるか」
「勿論です」
「……ティアナも、私に付けてくれたりするだろうか?」
「ど、努力致します……」
「じゃあ、私の顔に! 頬とか顎とか!」
「……それは、無理ですっ」
とんでもない場所を提案されて却下すると、まずは服で隠れる二の腕で渋々妥協して頂けた。「これから練習を重ねて揃いで首筋に付けようね」なんて言われてしまったけど、あたしと違って殿下の場合は髪で隠す事も出来ないので実現するのはいつになるやら……。
あたしが頑張って二の腕へと付けた印を嬉しそうに撫でながら、アルスト殿下は上機嫌で城へと帰って行かれた。入れ違いに帰宅されたタクトお兄様が「なんか玄関先でキスマーク見せられて自慢されたんだけど!? お前らなにやってるんだよ」とげんなりとした様子であたしの部屋へと入って来られて、あたしは顔から火が噴き出そうになった。殿下はこの後、両陛下やアーサー殿下や城のあちこちで自慢して歩いていたそうで……あたしは暫く恥ずかしくてお城へ行けないと嘆いたのだった。
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