完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな

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第二章

アルスト殿下とお昼休憩中です

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「あの……エイダン殿下がわたくしに王都の街を案内して欲しいそうなんですけど」
「では私が案内しよう。ティアナは来てはいけないよ」

 昼食を食べ終えた後、アルスト殿下に先程エイダン殿下から頼まれた事をお伺いを立ててみた。そして有無を言わさず予想通りな答えが返ってきた。因みにアルスト殿下はあたしの隣りの席に座り、先ほどからあたしの手の甲や指にキスの雨を降らせている。

 ううっ……殿下の柔らかい唇の感触が気になって仕方がない。

「なんだかやけにエイダン王子はティアナに絡んでる様だね……」
「そ、そうでしょう、か……あっ、殿下……口に含んではダメです……」

 ふいに指先を軽く口に含まれてドキリとする。人目もあるし、さすがに恥ずかしい。

「可愛い……」

 真っ赤になったあたしを見て、アルスト殿下は嬉しそうにあたしを抱き寄せる。殿下の腕の中に包まれると何も考えられなくなってしまう。ただただ、胸がドキドキとしてその心地の良い場所にうっとりとしてしまう。

「……お邪魔かしら」

 頭上からエスメイジー王女の声が聞こえて来た。あたしは驚いて殿下の腕の中から抜け出そうと身じろぎしてみるけど、ぎゅっと包まれている殿下の腕はビクともしない。

「邪魔でしかないな」

 あたしを抱きしめたまま、エスメイジー王女へそう答えるアルスト殿下。さすがに友好国とはいえ、他国の王女へその態度は良くないのではないかと思うのだけど。それにエスメイジー王女にバッチリと抱きしめられている姿を見られているのも何だか落ち着かない。

「アル様! いい加減にわたくしとの婚約、真剣に考えて下さいませ!」

 とんでもない言葉が降って来て、あたしはアルスト殿下の腕の中で固まってしまった。え……どういう事? 周りの生徒たちも驚いたのか、ざわめきがピタリと止む。

「……考えるも何も、何度も断っている筈だが?」
「いいえ、断る事をお断りしたしますわ!」

 エスメイジー王女からの訳の分からない返答に、火照っていたあたしの身体は一瞬で冷えた。

「アルスト殿下、申し訳ありませんが少し離して頂けますか?」
「え……あ、あぁ」

 いつもとは違うあたしの口調にアルスト殿下が少し戸惑いながら、抱きしめていた腕を緩めた。あたしは椅子へと座り直し、サッと髪の乱れを整えてエスメイジー王女へと視線を向けた。

「な、なんですの?」
「どういう事かご説明頂けますか、王女殿下」
「説明? 聞いての通りよ、私はアル様と結婚致しますの。だから貴方は潔く身を引きなさい」
「……アルスト殿下、陛下がそうお決めになられたのですか?」
「そのような話は全く出ておらぬ。これは王女の戯言だ」

 あたしがアルスト殿下の方へ向き直ると、何故か少しビクリとされながら答えられた。

「わ、私が決めたんですからアル様は私のものよ!」
「エスメイジー王女殿下、軽々しくそのような事を仰るのは宜しくないのでは?」
「なんですって? たかが公爵家の令嬢ごときがなにを偉そうに……」
「やめて下さい、姉上!」

 険悪なムードが流れる中、それを中断させたのはエスメイジー王女の弟のエイダン殿下だった。エイダン殿下は慌ててあたし達へと頭を下げられた。

「アルスト殿下、ティアナ嬢、姉上が馬鹿な発言をして申し訳ない」
「な、なによエイダン。邪魔しないでよ」
「黙って下さい姉上。これ以上失態をおかしたら帰国させますよ」
「……っ!」

 どうやらエイダン殿下の方がエスメイジー王女よりも立場が上にあるようで、悔しそうにしながらもエスメイジー王女は口を閉じた。

「王女は相変わらずのようだな。それにエイダン殿下も、少々ティアナに近付きすぎなようだがな」
「……も、申し訳ない。ティアナ嬢があまりにも可愛らしいので調子に乗り過ぎた。今後は気を付けると約束をする」

 思わぬ飛び火にエイダン殿下はバツが悪そうに謝罪をした。そしてそのままエスメイジー王女を連れて食堂を出て行かれた。その姿を見送ったあたしは、食堂に居る生徒たちへと向かって頭を下げた。

「お騒がせして申し訳ありませんでした。どうぞ残りの時間をお楽しみ下さいませ」

 息を呑むようにこちらの様子を伺っていた生徒たちに安堵の空気が広がる。あたしも少々やり過ぎたかもしれない。場を乱して申し訳ない事をしてしまったわ。

「ねぇ、ティアナ」
「はい」

 改めてアルスト殿下と向き直ると、なんとも嬉しそうな顔をされている。……どうしたのかしら。

「もしかしてだけど、さっきは嫉妬してくれたのかい」
「えっ……」

 そういえば、エスメイジー王女に対して冷たい態度を取ってしまったかもしれない。まるで悪役令嬢を演じていた時のように、エスメイジー王女と対峙してしまったような……。

「あ、あれは……お恥ずかしい姿をお見せして申し訳ありません」
「いや、むしろ嬉しかったよ。それに凛としたティアナはとても美しいね。さすが私のティアナだ」
「っ……殿下」

 優しい瞳で見つめて下さるので、あたしは再び顔が火照っていくのを感じる。あぁ、今日もお顔が良いですわ……。
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