完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな

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第一章

悪役令嬢にサヨウナラ

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 ダンスパーティから一週間程過ぎた。あの後、殿下と入れ違いにスクトお兄様が魔道士の方を連れて部屋へと入って来られて、その場であたしにかけられていたという“服従”の魔法を解いて下さった。そんな魔法がかけられていたなんて……後になってから怖くなった。ミンスロッティ様に魅了の魔法をかけられていた方々の所にも魔法を解いて回ったらしい。

 その日はそのままスクトお兄様と、慌てて駆け付けて来られたタクトお兄様の二人に馬車へ押し込められて屋敷へと帰ったのだけど。色々な事があったからか、どっと疲れが出たらしくマイリーにお風呂に入れて貰って早目にベッドに入った。あっと言う間に眠りに落ちてしまったのだけど、朝目が覚めてビックリ。あたしは殿下の腕の中で寝ていたのだ。

 夜遅くにコッソリと殿下が訪ねていらしたそうで、そのままいつの間にかあたしの横に潜り込んで眠ってしまわれたらしい。マイリーもさすがに殿下を止める事が出来ず、従者の方も呆れながらマイリーに謝罪をして一旦帰られたそうだ。翌日迎えに来られた従者の方に、何故か殿下の方が怒られていたみたい。時折聞こえて来た会話の中で『変態にも程がある』とかなんとか聞こえた気がしたけど……何の事かあたしにはよく分からなかった。

 ミンスロッティ様は暫くは地下牢へ入れられたままらしい。今回の事でパチェット男爵家はお取り潰しとなり、ミンスロッティ様は貴族籍から抜かれたそうだ。そしていずれは修道院へと送られるとのお話だった。あそこの修道院は一度入ったら出て来れた者は居ないという噂が絶えない、非常に厳しい場所だ。下手したら罪人が送られる更生施設よりも厳しいと言われている。そんな所に送られて大丈夫なのだろうか……。心配するあたしに殿下は『これでも物凄く甘いくらいだよ』とおっしゃっていた。それ程酷い罪を犯したという事らしい。

「ティアナ。アルが来たよ」

 タクトお兄様の声に反応して、あたしは部屋の扉を急いで開けた。廊下にはタクトお兄様と、その後ろに殿下の姿が見え隠れしている。

「えと……何故通せんぼされているのですか? お兄様」

 殿下がこちらの部屋へと入ろうと頑張ってらっしゃるのだけど、ガタイの良いタクトお兄様がそれをひたすら阻止して通さない様にしているのだ。

「そうだ、タクト! お前、どういうつもりだ!」
「お前をティアナの部屋に入れるとロクな事しないだろ。ティアナを毒牙から守ってるんだよ」
「誰が毒牙だ! こら、そこをどけ!」
「やなこった」

 相変わらずな二人のやり取りが見れて、嬉しくて頬が緩んでしまう。あのダンスパーティの翌日、我が屋敷で当たり前の様に朝食を召し上がってる殿下を見てタクトお兄様が凄い剣幕で掴みかかっていた。今まで騙していた事や、あたしと一緒のベッドで寝ていた事など……色々言いたい事がありすぎて、思わず胸倉を掴むお兄様を周りが必死に止めに入った。タクトお兄様はかなり激怒していたけど、どうやら仲直りしたみたいだ。良かった。

「……タクト。なんか外にご令嬢が来ているよ?」
「は? おれに?」

 スクトお兄様がタクトお兄様に来客を知らせにやって来た様だ。

「うん。薄紫色の綺麗な髪の……」
「っ!? す、すぐ行く!」

 誰だか分かったらしく、一瞬で耳まで顔を真っ赤に染めたタクトお兄様が慌てて玄関の方へと駆けて行ってしまった。残されたあたし達三人は、その姿を呆然と見送っていた。

「……なんだ、あいつ耳まで真っ赤だったぞ」
「多分、タクトにも春が来たんじゃないかなぁ……あのご令嬢と一緒に居るのを何度か学園で見掛けた事あるからね」
「まぁ! タクトお兄様に素敵な方が!」

 気が付くと、いつの間にか障害物のなくなったあたしの部屋の中に殿下は入り込んでいる。スクトお兄様は『じゃあ、アル殿下ごゆっくり』と片手をピラピラさせて自室へと向かわれた。部屋ではマイリーが黙々とお茶の用意をしている。その横であたしは殿下のキス攻撃にあっていた。頭の先から額に頬……と徐々にキスの雨が降ってくる。

「あ、あのっ、殿下。ちょっと……待って」
「無理だよ。この半年ティアナ不足で、おかしくなりそうだったんだから」
「それでは殿下、ごゆっくりなさって下さいませ」

 お茶の用意を済ませたマイリーが笑顔で部屋を出て行く姿を確認すると、ひょいっとあたしを抱き上げてベッドへと運ばれる。

「お茶……がっ」
「うん、そんなの後、後」

 ベッドに押し倒されたあたしは、殿下の綺麗な顔に見つめられた。ううぅ……相変わらずお顔が良い。愛おしそうにあたしを見下ろして微笑んだ後、殿下の唇が首筋に触れる。

「ひゃっ!」

 変な声が出て思わず手で口を押さえると、すぐにその手は殿下にほどかれてしまった。胸の鼓動が激しくて、殿下に聞こえてしまいそうだ。

「……ティアナ」
「ひゃ、ひゃい!」

 緊張しすぎて噛んでしまった。恥ずかしくなって唇を噛みしめると、殿下が声を押し殺して笑っているのが見える。

「かっ…………可愛すぎて、どうにかなりそうだよ」

 笑いながら殿下が破顔するから、余計に顔が熱くなる。

「……笑わないで下さい」

 ジロリと睨むと頬にちゅっ! とキスされた。そのまま横に唇が移動して来て、あたしの唇に重ねられる。

「ん……」

 初めて殿下に口づけられて、これ以上にないくらいにあたしは固まってしまった。緊張してガチガチなあたしをほぐすように、何度も何度も唇が重ねられる。どうしよう、何も考えられない……。それからどれくらい時間が経ったのか。殿下が満足する迄口づけられた後、ベッドで横になったままあたしは殿下の腕の中に閉じ込められていた。

「幸せすぎて怖いくらいです……」
「まだまだ、だよ。これからもっと君を幸せにするんだから。この世界で君を見つけた時、私が必ず幸せにすると決めたんだ」
「わたくしは殿下に見つけて貰えて、とても幸せ者ですね」
「君を一生幸せにするのが、私の生涯の目標だからね」
「……殿下も幸せですか? わたくし、殿下を幸せに出来ていますか?」

 抱き寄せる殿下の腕がぎゅっと強くなる。

「世界中で一番、幸せだよ」
「良かった……」

 もう二度と、この温かい腕を誰かに取られるのは嫌だ。守られるだけじゃなく、あたしも殿下を守れる様に強くなりたい。殿下の隣りに居ても、誰からも認めて貰える様なそんな王太子妃になりたい。きっと殿下の傍に居られたら、そんな夢も叶う気がした。

 だってもう悪役令嬢になんかならないのだから――――。
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