完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな

文字の大きさ
上 下
14 / 69
第一章

信じるだけ

しおりを挟む
 コンコン……。

 夕食後、自室で刺繍をしていると部屋の扉がノックされた。返事をするとタクトお兄様が顔を覗かせた。

「ティアナ、今ちょっと良い?」
「はい、構いませんわ。何かお飲みになりますか?」
「いや大丈夫だよ。少し話がしたいだけだから」

 ソファーセットでタクトお兄様と向かい合って座った。そういえば最近はタクトお兄様もスクトお兄様もご多忙で、こうやってゆっくりお話しするのは久し振りだわ。幼い頃は毎日三人で集まって遊んでいたのが懐かしい。

「それで、どうされたのですか」
「うん……その…………ティアナは何か殿下から聞いている?」
「えっと……それはどういった事ですの?」

 何の事だろう。いぶかしげにタクトお兄様を見ると何か言いにくそうにして顔を歪ませる。

「んー、ほら……あのピンクのご令嬢の事だよ」

 。その言葉にピクンとあたしの肩が跳ねそうになった。

「……ミンスロッティ様が何か?」

 出来るだけ平常を装って言葉を絞り出す。正直あまり話したくない内容だ。

「いや……最近、変じゃないか? アルの奴」
「おかしいのは昔からですわよ、お兄様」
の変じゃなくて! ……最近ティアナをないがしろにしてないか? 昼飯だってお前じゃなく、あのピンク頭と取ってるし。あんなにお前の事好きだって言ってたのに!」
「……そう、ですわねぇ。婚約からもう長いですから、飽きられたのかもしれませんわね」

 無理矢理、口角を上げて笑顔を作ったけど……上手く笑えているかしら。

「お前は、それで……いいのか?」
「わたくしは…………ただ、殿下を信じているだけですわ」

 約半年が経過した現在、お兄様の言う通り殿下はお昼をミンスロッティ様と二人で取る様になっていた。ミンスロッティ様との仲が深まるにつれて、あたしとは段々と距離を置かれる様になられた。屋敷に来る事はあるが、それはお兄様達に用事がある時だけであたしとは会わずに帰られる。学園で偶然すれ違えば挨拶は交わすけれど、それだけ。

 殿下とちゃんとお話し出来るのは恒例の婚約者としてのお茶会のみだ。その時でさえ、前の様な甘い雰囲気にはならない。ただお茶を飲んで、お菓子を食べて、互いの近況を少し話すだけだ。

「婚約者になんかさせなきゃ良かった。おれは絶対あいつを許さないからな」
「お兄様……」
「何かあったら遠慮なくおれに言うんだぞ。いつでも話聞いてやるから」
「そのお言葉だけで十分嬉しいですわ」

 お兄様はあたしの頭をくしゃっと撫でてから部屋を出て行った。親友の殿下の態度が気に入らないのも無理もないのだろう。それだけ信頼している証拠なのよね。あたしは……お兄様に話した様に、ただ殿下を信じるしか出来ない。

◆◇◇◇ ◇◇◇◇ ◇◇◇◆

「またですわよ、ティアナ様」

 友人の公爵令嬢――ロメリアンヌ・エマーソンの視線の向かう方へチラリと顔をやると、学園の噴水広場にあるベンチに仲良く並んで腰かけて談笑している殿下とミンスロッティ様の姿があった。もう見慣れた筈のその光景に胸がチクリとする。

「本当に殿方に節操がありませんわね、あの方。わたくしが注意してきましょうか?」

 ロメリアンヌの隣りに居た侯爵令嬢のジュディ・イーグルが顔をしかめる。それを手に持っていた扇でそっと止めおく。余計な言い争いになるだけだ、それに他の女性かたに笑顔を向ける殿下の姿をこれ以上近くで見たくない。

「放っておきなさい。ミンスロッティ様あの方には何を言っても無駄でしょうから」
「そう言えば、ティアナ様はご存知? 最近はスクト様にも言い寄ってらっしゃるとの噂ですわよ」
「それだけじゃありませんわよ。パワード様やギュンター様、マーベリー先生ともお噂が……」
「本当に嘆かわしいですわ……あんな方が同じ学園の生徒だなんて」
「その通りですわー」

 ロメリアンヌ達の言葉に耳を疑った。ミンスロッティ様は殿下の事が好きなんじゃなかったの?だからあたしに協力させたんじゃなかったのか。心の中にドロドロとした黒い気持ちが沸きあがる。ハッとして、その黒いモノを消し去る様に大きく深呼吸をする。

「ティアナ様、お顔の色が優れませんけど大丈夫ですか?」
「ええ……大丈夫、気にしないで結構よ。さぁ、早く教室に戻りましょう」

 何事も無かったかの様にロメリアンヌとジュディを誘ってその場を離れる。
――心の中が誰かに無理矢理かき回された様に気持ちが悪い。あの黒いモノに飲み込まれてはダメよ……そう心が警笛を鳴らしているのが分かる。誰にも見られない様に震える身体をそっと両手で抑えた。
しおりを挟む
感想 29

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢はモブ化した

F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。 しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す! 領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。 「……なんなのこれは。意味がわからないわ」 乙女ゲームのシナリオはこわい。 *注*誰にも前世の記憶はありません。 ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。 性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。 作者の趣味100%でダンジョンが出ました。

悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます

久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。 その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。 1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。 しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか? 自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと! 自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ? ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ! 他サイトにて別名義で掲載していた作品です。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

生まれ変わりも楽じゃない ~生まれ変わっても私はわたし~

こひな
恋愛
市川みのり 31歳。 成り行きで、なぜかバリバリのキャリアウーマンをやっていた私。 彼氏なし・趣味は食べることと読書という仕事以外は引きこもり気味な私が、とばっちりで異世界転生。 貴族令嬢となり、四苦八苦しつつ異世界を生き抜くお話です。 ※いつも読んで頂きありがとうございます。誤字脱字のご指摘ありがとうございます。

無事にバッドエンドは回避できたので、これからは自由に楽しく生きていきます。

木山楽斗
恋愛
悪役令嬢ラナトゥーリ・ウェルリグルに転生した私は、無事にゲームのエンディングである魔法学校の卒業式の日を迎えていた。 本来であれば、ラナトゥーリはこの時点で断罪されており、良くて国外追放になっているのだが、私は大人しく生活を送ったおかげでそれを回避することができていた。 しかしながら、思い返してみると私の今までの人生というものは、それ程面白いものではなかったように感じられる。 特に友達も作らず勉強ばかりしてきたこの人生は、悪いとは言えないが少々彩りに欠けているような気がしたのだ。 せっかく掴んだ二度目の人生を、このまま終わらせていいはずはない。 そう思った私は、これからの人生を楽しいものにすることを決意した。 幸いにも、私はそれ程貴族としてのしがらみに縛られている訳でもない。多少のわがままも許してもらえるはずだ。 こうして私は、改めてゲームの世界で新たな人生を送る決意をするのだった。 ※一部キャラクターの名前を変更しました。(リウェルド→リベルト)

王子の片思いに気付いたので、悪役令嬢になって婚約破棄に協力しようとしてるのに、なぜ執着するんですか?

いりん
恋愛
婚約者の王子が好きだったが、 たまたま付き人と、 「婚約者のことが好きなわけじゃないー 王族なんて恋愛して結婚なんてできないだろう」 と話ながら切なそうに聖女を見つめている王子を見て、王子の片思いに気付いた。 私が悪役令嬢になれば、聖女と王子は結婚できるはず!と婚約破棄を目指してたのに…、 「僕と婚約破棄して、あいつと結婚するつもり?許さないよ」 なんで執着するんてすか?? 策略家王子×天然令嬢の両片思いストーリー 基本的に悪い人が出てこないほのぼのした話です。

所(世界)変われば品(常識)変わる

章槻雅希
恋愛
前世の記憶を持って転生したのは乙女ゲームの悪役令嬢。王太子の婚約者であり、ヒロインが彼のルートでハッピーエンドを迎えれば身の破滅が待っている。修道院送りという名の道中での襲撃暗殺END。 それを避けるために周囲の環境を整え家族と婚約者とその家族という理解者も得ていよいよゲームスタート。 予想通り、ヒロインも転生者だった。しかもお花畑乙女ゲーム脳。でも地頭は悪くなさそう? ならば、ヒロインに現実を突きつけましょう。思い込みを矯正すれば多分有能な女官になれそうですし。 完結まで予約投稿済み。 全21話。

【完結】引きこもり令嬢は迷い込んできた猫達を愛でることにしました

かな
恋愛
乙女ゲームのモブですらない公爵令嬢に転生してしまった主人公は訳あって絶賛引きこもり中! そんな主人公の生活はとある2匹の猫を保護したことによって一変してしまい……? 可愛い猫達を可愛がっていたら、とんでもないことに巻き込まれてしまった主人公の無自覚無双の幕開けです! そしていつのまにか溺愛ルートにまで突入していて……!? イケメンからの溺愛なんて、元引きこもりの私には刺激が強すぎます!! 毎日17時と19時に更新します。 全12話完結+番外編 「小説家になろう」でも掲載しています。

処理中です...