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第一章
変化の始まり
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「なんでこんな事になっちゃったんだろう……」
先日、殿下への恋心に初めて気付いてしまった。恋なんてしてないと思っていた。なのにミンスロッティ様に殿下を取られてしまう……そう思ったら急に悲しくなった。殿下がいつも傍に居てくれる事が当たり前になっていて、失くしそうになって初めて自分の気持ちに気付くなんて滑稽だ。あたしを散々甘やかしてくれる殿下。なのにあたしは、殿下のその好意に甘えるだけで何も返していない。
あの日――。あたしが泣き疲れて眠ってしまう迄、殿下は傍に居てくれた。
◆◇◇◇ ◇◇◇◇ ◇◇◇◆
『大丈夫だよ……何も心配する事はない。少し時間は掛かるが、私が君の不安は全て消してあげるから。だから心配せずにその“悪役令嬢”とやらを演じていればいい』
『でも、そんな事したら……殿下はわたくしを嫌いになって断罪するのでしょう?』
『ならないよ、なる訳がない。この私がティアナ以外を好きになるなんて君は思うの?』
『…………』
どう答えていいのか分からず、殿下の綺麗なエメラルドグリーンの瞳を見つめる。殿下が他の人を好きになるなんて事は、この十年間お傍に居たのだからあり得ないと分かっている筈。なのに、どうしようもない不安が押し寄せて来るのだ。殿下はヒロインと結ばれる――のだと。
ヒロインという言葉の意味はよく分からないのに、それが胸に刻み込まれている。悪役令嬢だって、何故こんなに嫌なのにしないといけないのか自分でも分からない。大好きな殿下を何故ミンスロッティ様に譲らなきゃいけないのだろう……。あたしはおかしくなってしまったのだろうか。
頭の中でグルグルとまとまらない思考を巡らせていると、殿下はあたしの手を引いてソファーへと向かった。そしてあたしを横抱きにしてそのまま座り、あたしの身体は殿下の膝の上に乗せられた。ビックリして固まるあたしの頬を愛しそうに撫でる殿下の手が温かくて、優しくて……。あまりの心地良さにその手へ頬をすりすりとすり寄せてみると、殿下は一瞬大きく瞳を見開いたかと思うと何かお辛そうに身体を震わせた後『ふう……っ』と一息呼吸を整えられて……いつもの涼やかな殿下に戻られた。耳だけが何故か赤いのは気のせいかな。
『あんまり可愛い事すると抑えが効かなくなってしまうよ、ティアナ』
『……! な、なんか分からないですが、気をつけます……』
『うん。ねぇ……ティアナ、今はただ私を信じるんだ。どんな事があっても私を信じて、そして待っていて。この命に誓ってティアナを裏切る事は絶対しないから』
強い決意を瞳に宿した殿下に、あたしは頷いた。
◆◇◇◇ ◇◇◇◇ ◇◇◇◆
あの日から、あたしはミンスロッティ様を皆の見ている前で窘める事が日常になってしまった。勿論、淑女らしからぬ言動をあまりにもされているので、クラスメイトとして、そして筆頭公爵家であるローゼン公爵家の令嬢としては見て見ぬ振りが出来ないのもあるのだけど。それでも、思ってもいない様なキツイ言葉がスラスラと口から出てしまう事に自分でも驚いた。今迄でも礼儀のなっていないご令嬢などにたまには注意をする事はあったけど、元々あまり親しくない様な方々には興味が無かった為関わる事自体を避けていた。
なのにミンスロッティ様の事となると、何故か衝動的に口を出してしまうのだ。それも冷たい態度で――。あたしの周りに居る仲良しの令嬢達も今迄と違うその態度に驚いている様だが、一番驚いているのは自分自身だった。口に出してから“そんな事言いたくないのに”と後悔する事も多くあまりに辛辣な言葉を発してしまった時は、ミンスロッティ様は涙を浮かべて走り去ってしまう事がある。けどミンスロッティ様には悪いが、泣きたいのはこちらの方だ。これじゃ本当に小説の中に出てくる悪役令嬢そのものだわ。
あたしと殿下との仲はあまり変化は無いけれど、ミンスロッティ様がやたらと殿下の周りに出没する様になっている。最初は興味も無さそうにあしらわれていた殿下だったけど、ここの所楽しそうにミンスロッティ様とお話しされてる姿を見掛ける事が増えた。その度に、胸がギュっと締め付けられる様に痛むのだ。――大丈夫、大丈夫。殿下は信じてくれ、とそうおっしゃったのだ。
きっと……大丈夫…………。
先日、殿下への恋心に初めて気付いてしまった。恋なんてしてないと思っていた。なのにミンスロッティ様に殿下を取られてしまう……そう思ったら急に悲しくなった。殿下がいつも傍に居てくれる事が当たり前になっていて、失くしそうになって初めて自分の気持ちに気付くなんて滑稽だ。あたしを散々甘やかしてくれる殿下。なのにあたしは、殿下のその好意に甘えるだけで何も返していない。
あの日――。あたしが泣き疲れて眠ってしまう迄、殿下は傍に居てくれた。
◆◇◇◇ ◇◇◇◇ ◇◇◇◆
『大丈夫だよ……何も心配する事はない。少し時間は掛かるが、私が君の不安は全て消してあげるから。だから心配せずにその“悪役令嬢”とやらを演じていればいい』
『でも、そんな事したら……殿下はわたくしを嫌いになって断罪するのでしょう?』
『ならないよ、なる訳がない。この私がティアナ以外を好きになるなんて君は思うの?』
『…………』
どう答えていいのか分からず、殿下の綺麗なエメラルドグリーンの瞳を見つめる。殿下が他の人を好きになるなんて事は、この十年間お傍に居たのだからあり得ないと分かっている筈。なのに、どうしようもない不安が押し寄せて来るのだ。殿下はヒロインと結ばれる――のだと。
ヒロインという言葉の意味はよく分からないのに、それが胸に刻み込まれている。悪役令嬢だって、何故こんなに嫌なのにしないといけないのか自分でも分からない。大好きな殿下を何故ミンスロッティ様に譲らなきゃいけないのだろう……。あたしはおかしくなってしまったのだろうか。
頭の中でグルグルとまとまらない思考を巡らせていると、殿下はあたしの手を引いてソファーへと向かった。そしてあたしを横抱きにしてそのまま座り、あたしの身体は殿下の膝の上に乗せられた。ビックリして固まるあたしの頬を愛しそうに撫でる殿下の手が温かくて、優しくて……。あまりの心地良さにその手へ頬をすりすりとすり寄せてみると、殿下は一瞬大きく瞳を見開いたかと思うと何かお辛そうに身体を震わせた後『ふう……っ』と一息呼吸を整えられて……いつもの涼やかな殿下に戻られた。耳だけが何故か赤いのは気のせいかな。
『あんまり可愛い事すると抑えが効かなくなってしまうよ、ティアナ』
『……! な、なんか分からないですが、気をつけます……』
『うん。ねぇ……ティアナ、今はただ私を信じるんだ。どんな事があっても私を信じて、そして待っていて。この命に誓ってティアナを裏切る事は絶対しないから』
強い決意を瞳に宿した殿下に、あたしは頷いた。
◆◇◇◇ ◇◇◇◇ ◇◇◇◆
あの日から、あたしはミンスロッティ様を皆の見ている前で窘める事が日常になってしまった。勿論、淑女らしからぬ言動をあまりにもされているので、クラスメイトとして、そして筆頭公爵家であるローゼン公爵家の令嬢としては見て見ぬ振りが出来ないのもあるのだけど。それでも、思ってもいない様なキツイ言葉がスラスラと口から出てしまう事に自分でも驚いた。今迄でも礼儀のなっていないご令嬢などにたまには注意をする事はあったけど、元々あまり親しくない様な方々には興味が無かった為関わる事自体を避けていた。
なのにミンスロッティ様の事となると、何故か衝動的に口を出してしまうのだ。それも冷たい態度で――。あたしの周りに居る仲良しの令嬢達も今迄と違うその態度に驚いている様だが、一番驚いているのは自分自身だった。口に出してから“そんな事言いたくないのに”と後悔する事も多くあまりに辛辣な言葉を発してしまった時は、ミンスロッティ様は涙を浮かべて走り去ってしまう事がある。けどミンスロッティ様には悪いが、泣きたいのはこちらの方だ。これじゃ本当に小説の中に出てくる悪役令嬢そのものだわ。
あたしと殿下との仲はあまり変化は無いけれど、ミンスロッティ様がやたらと殿下の周りに出没する様になっている。最初は興味も無さそうにあしらわれていた殿下だったけど、ここの所楽しそうにミンスロッティ様とお話しされてる姿を見掛ける事が増えた。その度に、胸がギュっと締め付けられる様に痛むのだ。――大丈夫、大丈夫。殿下は信じてくれ、とそうおっしゃったのだ。
きっと……大丈夫…………。
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