完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな

文字の大きさ
上 下
13 / 69
第一章

変化の始まり

しおりを挟む
「なんでこんな事になっちゃったんだろう……」

 先日、殿下への恋心に初めて気付いてしまった。恋なんてしてないと思っていた。なのにミンスロッティ様に殿下を取られてしまう……そう思ったら急に悲しくなった。殿下がいつも傍に居てくれる事が当たり前になっていて、失くしそうになって初めて自分の気持ちに気付くなんて滑稽だ。あたしを散々甘やかしてくれる殿下。なのにあたしは、殿下のその好意に甘えるだけで何も返していない。

 あの日――。あたしが泣き疲れて眠ってしまう迄、殿下は傍に居てくれた。

◆◇◇◇ ◇◇◇◇ ◇◇◇◆

『大丈夫だよ……何も心配する事はない。少し時間は掛かるが、私が君の不安は全て消してあげるから。だから心配せずにその“悪役令嬢”とやらを演じていればいい』
『でも、そんな事したら……殿下はわたくしを嫌いになって断罪するのでしょう?』
『ならないよ、なる訳がない。この私がティアナ以外を好きになるなんて君は思うの?』
『…………』

 どう答えていいのか分からず、殿下の綺麗なエメラルドグリーンの瞳を見つめる。殿下が他の人を好きになるなんて事は、この十年間お傍に居たのだからあり得ないと分かっている筈。なのに、どうしようもない不安が押し寄せて来るのだ。殿下はと結ばれる――のだと。

 ヒロインという言葉の意味はよく分からないのに、それが胸に刻み込まれている。悪役令嬢だって、何故こんなに嫌なのにしないといけないのか自分でも分からない。大好きな殿下を何故ミンスロッティ様に譲らなきゃいけないのだろう……。あたしはおかしくなってしまったのだろうか。

 頭の中でグルグルとまとまらない思考を巡らせていると、殿下はあたしの手を引いてソファーへと向かった。そしてあたしを横抱きにしてそのまま座り、あたしの身体は殿下の膝の上に乗せられた。ビックリして固まるあたしの頬を愛しそうに撫でる殿下の手が温かくて、優しくて……。あまりの心地良さにその手へ頬をすりすりとすり寄せてみると、殿下は一瞬大きく瞳を見開いたかと思うと何かお辛そうに身体を震わせた後『ふう……っ』と一息呼吸を整えられて……いつもの涼やかな殿下に戻られた。耳だけが何故か赤いのは気のせいかな。

『あんまり可愛い事すると抑えが効かなくなってしまうよ、ティアナ』
『……! な、なんか分からないですが、気をつけます……』
『うん。ねぇ……ティアナ、今はただ私を信じるんだ。私を信じて、そして待っていて。この命に誓ってティアナを裏切る事は絶対しないから』

 強い決意を瞳に宿した殿下に、あたしは頷いた。

◆◇◇◇ ◇◇◇◇ ◇◇◇◆

 あの日から、あたしはミンスロッティ様を皆の見ている前で窘める事が日常になってしまった。勿論、淑女らしからぬ言動をあまりにもされているので、クラスメイトとして、そして筆頭公爵家であるローゼン公爵家の令嬢としては見て見ぬ振りが出来ないのもあるのだけど。それでも、思ってもいない様なキツイ言葉がスラスラと口から出てしまう事に自分でも驚いた。今迄でも礼儀のなっていないご令嬢などにたまには注意をする事はあったけど、元々あまり親しくない様な方々には興味が無かった為関わる事自体を避けていた。

 なのにミンスロッティ様の事となると、何故か衝動的に口を出してしまうのだ。それも冷たい態度で――。あたしの周りに居る仲良しの令嬢達も今迄と違うその態度に驚いている様だが、一番驚いているのは自分自身だった。口に出してから“そんな事言いたくないのに”と後悔する事も多くあまりに辛辣な言葉を発してしまった時は、ミンスロッティ様は涙を浮かべて走り去ってしまう事がある。けどミンスロッティ様には悪いが、泣きたいのはこちらの方だ。これじゃ本当に小説の中に出てくる悪役令嬢そのものだわ。

 あたしと殿下との仲はあまり変化は無いけれど、ミンスロッティ様がやたらと殿下の周りに出没する様になっている。最初は興味も無さそうにあしらわれていた殿下だったけど、ここの所楽しそうにミンスロッティ様とお話しされてる姿を見掛ける事が増えた。その度に、胸がギュっと締め付けられる様に痛むのだ。――大丈夫、大丈夫。殿下は信じてくれ、とそうおっしゃったのだ。

きっと……大丈夫…………。
しおりを挟む
感想 29

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢はモブ化した

F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。 しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す! 領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。 「……なんなのこれは。意味がわからないわ」 乙女ゲームのシナリオはこわい。 *注*誰にも前世の記憶はありません。 ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。 性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。 作者の趣味100%でダンジョンが出ました。

悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます

久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。 その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。 1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。 しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか? 自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと! 自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ? ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ! 他サイトにて別名義で掲載していた作品です。

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

王子の片思いに気付いたので、悪役令嬢になって婚約破棄に協力しようとしてるのに、なぜ執着するんですか?

いりん
恋愛
婚約者の王子が好きだったが、 たまたま付き人と、 「婚約者のことが好きなわけじゃないー 王族なんて恋愛して結婚なんてできないだろう」 と話ながら切なそうに聖女を見つめている王子を見て、王子の片思いに気付いた。 私が悪役令嬢になれば、聖女と王子は結婚できるはず!と婚約破棄を目指してたのに…、 「僕と婚約破棄して、あいつと結婚するつもり?許さないよ」 なんで執着するんてすか?? 策略家王子×天然令嬢の両片思いストーリー 基本的に悪い人が出てこないほのぼのした話です。

逃げて、追われて、捕まって

あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。 この世界で王妃として生きてきた記憶。 過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。 人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。 だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。 2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ 2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。 **********お知らせ*********** 2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。 それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。 ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

悪役令嬢に成り代わったのに、すでに詰みってどういうことですか!?

ぽんぽこ狸
恋愛
 仕事帰りのある日、居眠り運転をしていたトラックにはねられて死んでしまった主人公。次に目を覚ますとなにやら暗くジメジメした場所で、自分に仕えているというヴィンスという男の子と二人きり。  彼から話を聞いているうちに、なぜかその話に既視感を覚えて、確認すると昔読んだことのある児童向けの小説『ララの魔法書!』の世界だった。  その中でも悪役令嬢である、クラリスにどうやら成り代わってしまったらしい。  混乱しつつも話をきていくとすでに原作はクラリスが幽閉されることによって終結しているようで愕然としているさなか、クラリスを見限り原作の主人公であるララとくっついた王子ローレンスが、訪ねてきて━━━━?!    原作のさらに奥深くで動いていた思惑、魔法玉(まほうぎょく)の謎、そして原作の男主人公だった完璧な王子様の本性。そのどれもに翻弄されながら、なんとか生きる一手を見出す、学園ファンタジー!  ローレンスの性格が割とやばめですが、それ以外にもダークな要素強めな主人公と恋愛?をする、キャラが二人ほど、登場します。世界観が殺伐としているので重い描写も多いです。読者さまが色々な意味でドキドキしてくれるような作品を目指して頑張りますので、よろしくお願いいたします。  完結しました!最後の一章分は遂行していた分がたまっていたのと、話が込み合っているので一気に二十万文字ぐらい上げました。きちんと納得できる結末にできたと思います。ありがとうございました。

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。

木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。 彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。 こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。 だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。 そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。 そんな私に、解放される日がやって来た。 それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。 全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。 私は、自由を得たのである。 その自由を謳歌しながら、私は思っていた。 悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。

処理中です...