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第一章
悪役令嬢と王子とヒロイン アルストSide+ヒロインSide
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最近、なんだか俺の周りが妙だ。先日のタックル令嬢……いや、パチェット男爵令嬢がやたらと俺の周りをウロチョロする。今もティアナと食堂で昼食を楽しんでいたのだが、突然ピンクの髪を揺らしながら現れた。
「アル様ぁ~! クッキー焼いたんですぅ~、一緒に食べませんか?」
「いや、甘い物苦手だから(嘘だけど)気持ちだけ頂くよ」
「えー、そうですかぁ~残念ですぅ。……そんな設定あったかしら、確かクッキーもケーキも召し上がってた筈なんだけど」
男爵令嬢は何かブツブツ呟きながら、ぷくぅ!と頬を膨らませて、俺の横に勝手に座る。手に持っていた包みを解き、中からクッキーを摘んでポリポリと食べ始めた。
「……ミンスロッティ様、勝手に殿下の隣に座るのは不敬ですわよ」
食後のお茶を飲んでいたティアナがジロリと一瞥し、パチェット男爵令嬢に苦言を呈す。
「ティアナ様こわ~い! 助けて、アル様」
うるうると涙を瞳に溜めた男爵令嬢が助けを求めて俺の腕に縋り付いて来た。やたらと人懐っこい彼女を無視して、向かいに座るティアナの頬を撫でる。あぁ、今日もティアナのほっぺはスベスベで触り心地が良いな~。こちらを恥ずかしそうに見つめて来るティアナにニッコリと微笑み返すと、顔を赤らめて視線を逸らされる。
「あぁ、もうっ、反応が可愛すぎるよ。頬を食べても良い?」
「だっ、ダメです!」
「残念。じゃあ、その可愛い頬に口付けは許してくれるかい?」
「……お、お好きになさいませ!」
許しを貰ったので俺は立ち上がり、テーブル越しにティアナの頬にキスの雨を降らす。周りのテーブルから黄色い悲鳴が上がるが気にも留めず、柔らかな頬の感触を楽しむ。このまま舐めたらダメかなぁ。
「…………ちょっと、無視しないで下さいよ~。なに二人の世界に入ってるんですか」
ピンク頭が何やら喚いているが今はこの可愛い婚約者殿を愛でるのが忙しいんだ。むしろ、俺とティアナの世界に入ってくるな。
「むう……分かりましたよぉ。今日はもういいですぅ~」
すごすごとクッキーの包みを持って食堂から出て行くのを横目で確認すると、ティアナの隣りに移動した。今度はティアナの顔のあちこちにキスを落として行く。黄色い悲鳴が更に増えた。
「でっ、殿下⁉︎ ダメです、皆んなの目がっ! いつもは人目がある所では、しなかっ……」
「うん、でももう、解禁で良いかなーって」
「えええええ⁉︎」
「だってティアナも私の事、好きでしょ?」
そう。先日ティアナが急に泣き出したあの日。俺はティアナの気持ちを初めてちゃんと、彼女の口から聞く事が出来た。今まではティアナの反応から何とな~く嫌われては無いだろう、くらいには思っていたけど……。離れたくないと俺の腕の中で泣くティアナを見て、押し倒したくなる衝動を必死に抑えた俺を褒めて欲しい。
出逢ってから十年以上、アタックし続けた甲斐があったよね。帰りの馬車の中で従者のデペッシュから『鼻の下が伸びに伸びきってる』と怒られたのは誰にも内緒だ。相変わらず失礼な奴だなアイツは。
「……うぅ…………はい、お慕いしてます」
消え入りそうな声で答えるティアナに、心の中で身悶える。それを長年培った王子スマイルで誤魔化しながら頭を優しく撫でて、抱きしめたい衝動を耐える。あぁ、可愛い。毎日毎日、ティアナは可愛い。
◆◇◇◇ ◇◇◇◇ ◇◇◇◆
「もうっ、なんなのよ! アル様、全然こっちになびいてくれない」
食堂から人気のない裏庭に出たミンスロッティは悔しくて地団駄を踏んだ。わたしの指示通りにティアナ様は悪役令嬢らしく、厳しく注意したりはしてくれてるけど……それだけじゃ駄目だわ。虐めてくれないと。またティアナ様に教え込まないとね。それと……
「気になるのは何であんなにアル様はティアナ様にデレデレなのかしら」
ゲームでのアル様は、もっと王子オーラが強いと言うか……少なくとも人前でイチャイチャなんてしてなかったわ。
アル様だけでなく、他の攻略対象者達も何だか纏ってる雰囲気が若干違う。それが顕著なのは、通称タクスクコンビと呼ばれていたティアナの双子の兄達で。タクトはもっと脳筋な筈なのが少しぶっきらぼうな騎士様になってるし。未来の宰相と呼ばれたクール担当のスクトは物腰柔らかな知的な青年になっている。
アル様含め、この三人はキャラ背景にあったトラウマ的なモノが全く感じられない。ヒロインは各攻略対象者の抱えているトラウマ的なものを、持ち前の明るさと愛嬌で解決して愛を育んでいくのだ。トラウマが見当たらなければ、それも出来ない。
「……誰かが既に解決して……る?」
否定されたが、やっぱりティアナ様も転生者なんじゃないかしら。学園に入る前に、身近に居る三人の抱えていた問題を解決したのかもしれない。
「侮れないわね……さすが悪役令嬢だわ」
これは作戦をもっと練らないといけないわ。わたしの一推しのアル様を悪役令嬢になんか渡さない。だってヒロインはわたしなんだから。
「アル様ぁ~! クッキー焼いたんですぅ~、一緒に食べませんか?」
「いや、甘い物苦手だから(嘘だけど)気持ちだけ頂くよ」
「えー、そうですかぁ~残念ですぅ。……そんな設定あったかしら、確かクッキーもケーキも召し上がってた筈なんだけど」
男爵令嬢は何かブツブツ呟きながら、ぷくぅ!と頬を膨らませて、俺の横に勝手に座る。手に持っていた包みを解き、中からクッキーを摘んでポリポリと食べ始めた。
「……ミンスロッティ様、勝手に殿下の隣に座るのは不敬ですわよ」
食後のお茶を飲んでいたティアナがジロリと一瞥し、パチェット男爵令嬢に苦言を呈す。
「ティアナ様こわ~い! 助けて、アル様」
うるうると涙を瞳に溜めた男爵令嬢が助けを求めて俺の腕に縋り付いて来た。やたらと人懐っこい彼女を無視して、向かいに座るティアナの頬を撫でる。あぁ、今日もティアナのほっぺはスベスベで触り心地が良いな~。こちらを恥ずかしそうに見つめて来るティアナにニッコリと微笑み返すと、顔を赤らめて視線を逸らされる。
「あぁ、もうっ、反応が可愛すぎるよ。頬を食べても良い?」
「だっ、ダメです!」
「残念。じゃあ、その可愛い頬に口付けは許してくれるかい?」
「……お、お好きになさいませ!」
許しを貰ったので俺は立ち上がり、テーブル越しにティアナの頬にキスの雨を降らす。周りのテーブルから黄色い悲鳴が上がるが気にも留めず、柔らかな頬の感触を楽しむ。このまま舐めたらダメかなぁ。
「…………ちょっと、無視しないで下さいよ~。なに二人の世界に入ってるんですか」
ピンク頭が何やら喚いているが今はこの可愛い婚約者殿を愛でるのが忙しいんだ。むしろ、俺とティアナの世界に入ってくるな。
「むう……分かりましたよぉ。今日はもういいですぅ~」
すごすごとクッキーの包みを持って食堂から出て行くのを横目で確認すると、ティアナの隣りに移動した。今度はティアナの顔のあちこちにキスを落として行く。黄色い悲鳴が更に増えた。
「でっ、殿下⁉︎ ダメです、皆んなの目がっ! いつもは人目がある所では、しなかっ……」
「うん、でももう、解禁で良いかなーって」
「えええええ⁉︎」
「だってティアナも私の事、好きでしょ?」
そう。先日ティアナが急に泣き出したあの日。俺はティアナの気持ちを初めてちゃんと、彼女の口から聞く事が出来た。今まではティアナの反応から何とな~く嫌われては無いだろう、くらいには思っていたけど……。離れたくないと俺の腕の中で泣くティアナを見て、押し倒したくなる衝動を必死に抑えた俺を褒めて欲しい。
出逢ってから十年以上、アタックし続けた甲斐があったよね。帰りの馬車の中で従者のデペッシュから『鼻の下が伸びに伸びきってる』と怒られたのは誰にも内緒だ。相変わらず失礼な奴だなアイツは。
「……うぅ…………はい、お慕いしてます」
消え入りそうな声で答えるティアナに、心の中で身悶える。それを長年培った王子スマイルで誤魔化しながら頭を優しく撫でて、抱きしめたい衝動を耐える。あぁ、可愛い。毎日毎日、ティアナは可愛い。
◆◇◇◇ ◇◇◇◇ ◇◇◇◆
「もうっ、なんなのよ! アル様、全然こっちになびいてくれない」
食堂から人気のない裏庭に出たミンスロッティは悔しくて地団駄を踏んだ。わたしの指示通りにティアナ様は悪役令嬢らしく、厳しく注意したりはしてくれてるけど……それだけじゃ駄目だわ。虐めてくれないと。またティアナ様に教え込まないとね。それと……
「気になるのは何であんなにアル様はティアナ様にデレデレなのかしら」
ゲームでのアル様は、もっと王子オーラが強いと言うか……少なくとも人前でイチャイチャなんてしてなかったわ。
アル様だけでなく、他の攻略対象者達も何だか纏ってる雰囲気が若干違う。それが顕著なのは、通称タクスクコンビと呼ばれていたティアナの双子の兄達で。タクトはもっと脳筋な筈なのが少しぶっきらぼうな騎士様になってるし。未来の宰相と呼ばれたクール担当のスクトは物腰柔らかな知的な青年になっている。
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「……誰かが既に解決して……る?」
否定されたが、やっぱりティアナ様も転生者なんじゃないかしら。学園に入る前に、身近に居る三人の抱えていた問題を解決したのかもしれない。
「侮れないわね……さすが悪役令嬢だわ」
これは作戦をもっと練らないといけないわ。わたしの一推しのアル様を悪役令嬢になんか渡さない。だってヒロインはわたしなんだから。
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