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第一章
運命
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翌日の放課後。今度はあたしの方からミンスロッティ様にお時間を頂いて、再び食堂に来ていた。お借りしていた本を返して、悪役令嬢というものを詳しく教えて頂いていた。
「えーと、それで。ミンスロッティ様はどなたに恋をしていらっしゃいますの?」
「は? そんなの、殿下に決まってるじゃないですかー。何言ってるんですかティアナ様」
「え……お相手は殿下なのですか?」
ミンスロッティ様は信じられない! という様な表情をされて口をポカンと開けた。
「でなきゃティアナ様に協力を頼んだりしませんよ~。とにかくティアナ様は、わたくしを虐めて下さればそれで良いんです。それと並行してわたくしは殿下との仲を深めていきますので!」
「殿下と……」
殿下に近づいて来るご令嬢は今迄も何人かいらしたけど殿下はスマートにそれを交わしていたし。あたしもいつもの事だと、たいして気にも止めていなかった。だけど何だかこのミンスロッティ様は、いつものとは違う様な気がして……心の何処で何かがザワリとする。
「……あの、ミンスロッティ様。やっぱりわたくし、協力は出来ませんわ」
「えー、何でですか!」
「まさかお相手が殿下とは思って無かったので謝ります。さすがに王族と交わされた婚約を勝手な都合で破る事は出来ません。お相手のいらっしゃらない他の殿方との恋の応援でしたら喜んで……」
「な……によ、それ。やっぱりティアナ様、殿下の事好きなんですね!」
「え、いえ、そういう事じゃ」
ミンスロッティ様は小さな身体をプルプルと震わせてキッ! と悔しそうな顔でこちらを睨みつけて来た。
「あなたは悪役令嬢なのよ! なのに殿下とラブラブなんて許せない」
ミンスロッティ様があたしの手を握る。最初は温もりを感じたその手から、徐々に冷気の様なものがミンスロッティ様の手を通して流れ込んで来た。
く…らり……。
一瞬、目眩を感じて軽く首を振る。
「協力してくれるでしょう? ティアナ様」
「きょう……りょく」
「そう、貴方は悪役令嬢なのだから。運命に逆らってはいけないわ」
「あくやくれいじょう……」
「えぇ、そうよティアナ様。だから頑張って殿下との婚約破棄を目指して頂戴」
頭がボーっとして上手く回らない。視界にはニヤリと微笑むミンスロッティ様の顔が見えるだけ。
『悪役令嬢』――その言葉が心の奥底に刻み込まれて行く。
そう、あたしは悪役令嬢にならなきゃいけない。それが持って生まれた運命なのだから。
◆◇◇◇ ◇◇◇◇ ◇◇◇◆
「お帰りなさいませ、お嬢様」
気がつくと、自宅に帰っていた。いつの間に馬車に乗ったのだろうか。確かミンスロッティ様と食堂に居た筈……。
「先程殿下から先触れが参りまして、もう少ししたらこちらに到着されるそうですよ」
「え……殿下が?」
マイリーと話しながら着ていた制服を脱いでワンピースに着替える。鏡の前に座り、髪をセットし直して貰う。それを待っていたかの様に、執事長が殿下の到着を知らせに来た。
「突然すまないね、ティアナ」
部屋に通して貰うと、マイリーがお茶のセットを手早く済ませて部屋から下がった。殿下は制服姿なので学園からそのまま、こちらに寄られた様だ。恐らく今迄、生徒会業務をされて遅くなられたのだろう。
「いいえ、お気になさらずに」
部屋のソファーへと案内しようとすると、殿下はあたしをグイッと引き寄せて自分の腕の中に抱き留めた。そのままギュッと抱きしめられる。
「殿……下?」
「少しだけティアナを補充させて。帰ったら山積みの書類が今日は待っていてね。王太子も楽じゃないよ」
……トクン…トクン…………。
二人の心臓の鼓動が心地良いリズムを奏でる。嗅ぎ慣れた殿下のコロンの香りと、髪を撫でる手が気持ち良い……のに、何故か急にポロポロと涙が溢れた。
「え、どうしたの、ティアナ。嫌だった?」
慌てた殿下が心配そうに顔を覗き込んでくる。自分でも何故涙が止まらないのか分からなくて、ただただ首を振る。
「殿下……殿下……」
「うん、うん、どうしたんだい」
その温もりを離したくなくて、あたしは自分から殿下の身体に抱き付いた。こんな事初めてだ。
「殿下、どうしよう……わたくし、殿下を失いたくありません。お傍から離れたくないのです」
「私がティアナから離れる訳がないだろう」
「運命……なのです。わたくしが悪役令嬢、だ、からっ」
「……悪役令嬢?」
ピクリ、とアルストの眉がはねたのをあたしは知らない。
「大丈夫だよ、安心して。私がそんな運命薙ぎ払うから」
そう言って殿下はあたしの額にキスを落とした。
「えーと、それで。ミンスロッティ様はどなたに恋をしていらっしゃいますの?」
「は? そんなの、殿下に決まってるじゃないですかー。何言ってるんですかティアナ様」
「え……お相手は殿下なのですか?」
ミンスロッティ様は信じられない! という様な表情をされて口をポカンと開けた。
「でなきゃティアナ様に協力を頼んだりしませんよ~。とにかくティアナ様は、わたくしを虐めて下さればそれで良いんです。それと並行してわたくしは殿下との仲を深めていきますので!」
「殿下と……」
殿下に近づいて来るご令嬢は今迄も何人かいらしたけど殿下はスマートにそれを交わしていたし。あたしもいつもの事だと、たいして気にも止めていなかった。だけど何だかこのミンスロッティ様は、いつものとは違う様な気がして……心の何処で何かがザワリとする。
「……あの、ミンスロッティ様。やっぱりわたくし、協力は出来ませんわ」
「えー、何でですか!」
「まさかお相手が殿下とは思って無かったので謝ります。さすがに王族と交わされた婚約を勝手な都合で破る事は出来ません。お相手のいらっしゃらない他の殿方との恋の応援でしたら喜んで……」
「な……によ、それ。やっぱりティアナ様、殿下の事好きなんですね!」
「え、いえ、そういう事じゃ」
ミンスロッティ様は小さな身体をプルプルと震わせてキッ! と悔しそうな顔でこちらを睨みつけて来た。
「あなたは悪役令嬢なのよ! なのに殿下とラブラブなんて許せない」
ミンスロッティ様があたしの手を握る。最初は温もりを感じたその手から、徐々に冷気の様なものがミンスロッティ様の手を通して流れ込んで来た。
く…らり……。
一瞬、目眩を感じて軽く首を振る。
「協力してくれるでしょう? ティアナ様」
「きょう……りょく」
「そう、貴方は悪役令嬢なのだから。運命に逆らってはいけないわ」
「あくやくれいじょう……」
「えぇ、そうよティアナ様。だから頑張って殿下との婚約破棄を目指して頂戴」
頭がボーっとして上手く回らない。視界にはニヤリと微笑むミンスロッティ様の顔が見えるだけ。
『悪役令嬢』――その言葉が心の奥底に刻み込まれて行く。
そう、あたしは悪役令嬢にならなきゃいけない。それが持って生まれた運命なのだから。
◆◇◇◇ ◇◇◇◇ ◇◇◇◆
「お帰りなさいませ、お嬢様」
気がつくと、自宅に帰っていた。いつの間に馬車に乗ったのだろうか。確かミンスロッティ様と食堂に居た筈……。
「先程殿下から先触れが参りまして、もう少ししたらこちらに到着されるそうですよ」
「え……殿下が?」
マイリーと話しながら着ていた制服を脱いでワンピースに着替える。鏡の前に座り、髪をセットし直して貰う。それを待っていたかの様に、執事長が殿下の到着を知らせに来た。
「突然すまないね、ティアナ」
部屋に通して貰うと、マイリーがお茶のセットを手早く済ませて部屋から下がった。殿下は制服姿なので学園からそのまま、こちらに寄られた様だ。恐らく今迄、生徒会業務をされて遅くなられたのだろう。
「いいえ、お気になさらずに」
部屋のソファーへと案内しようとすると、殿下はあたしをグイッと引き寄せて自分の腕の中に抱き留めた。そのままギュッと抱きしめられる。
「殿……下?」
「少しだけティアナを補充させて。帰ったら山積みの書類が今日は待っていてね。王太子も楽じゃないよ」
……トクン…トクン…………。
二人の心臓の鼓動が心地良いリズムを奏でる。嗅ぎ慣れた殿下のコロンの香りと、髪を撫でる手が気持ち良い……のに、何故か急にポロポロと涙が溢れた。
「え、どうしたの、ティアナ。嫌だった?」
慌てた殿下が心配そうに顔を覗き込んでくる。自分でも何故涙が止まらないのか分からなくて、ただただ首を振る。
「殿下……殿下……」
「うん、うん、どうしたんだい」
その温もりを離したくなくて、あたしは自分から殿下の身体に抱き付いた。こんな事初めてだ。
「殿下、どうしよう……わたくし、殿下を失いたくありません。お傍から離れたくないのです」
「私がティアナから離れる訳がないだろう」
「運命……なのです。わたくしが悪役令嬢、だ、からっ」
「……悪役令嬢?」
ピクリ、とアルストの眉がはねたのをあたしは知らない。
「大丈夫だよ、安心して。私がそんな運命薙ぎ払うから」
そう言って殿下はあたしの額にキスを落とした。
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