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第一章

お顔は良いのに

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「つ、疲れたぁ……。」

 屋敷に帰宅したあたしは自室に入るなりベッドにダイブした。ふかふかベッド気持ち良いな。マイリーが昼間に干しておいてくれたのだろう、お日さまの匂いがする。

「皺になりますよ、お嬢様」

 専属メイドのマイリーが苦い顔をしながらも、お茶の用意を猛スピードでこなしていく。十五歳とまだ若いながらも仕事の手際はとても良い。専属になったのはまだ最近だけど、あたしはとても信頼していてマイリーが大好きだ。本人はあまり好んではないみたいだが、少し癖のある金色の髪もマイリーに似合っていて素敵だと思う。仕事中はいつも、クルクルとした髪を綺麗に一つに纏めて結いあげている。あっという間にテーブルには、ホットミルクが用意された。

「それで、王子様とのお茶会はいかがでした?」

 キラキラと期待を込めた瞳でマイリーが尋ねてきた。それもそうだ。王子様の婚約者に選ばれるなんてシンデレラストーリーの王道で女の子なら誰もが憧れるシュチュエーションだ。しかもアルスト殿下はあの容姿だ。彼に恋焦がれるご令嬢は、あたしの周りにも沢山居る。お兄様達に会いに何度も屋敷に訪れているから、マイリーも姿を見掛けた事がある様だ。

「お嬢様が王子様のご婚約者様に選ばれたと聞いた時は自分の事の様に舞い上がりましたわ~。しかも王子様はお嬢様にベタ惚れとのお話! さすがはお嬢様です、王子様を射止めるなんて。あんなにまだ幼いのに既にもう、素敵なお方ですよね~わたくしはお嬢様を誇りに思っておりますわ」
「……」

 盛り上がるマイリーを半目で眺めながら用意してくれたテーブルに移動し、ぬくぬくのホットミルクをコクッと一口飲む。火傷しない様に丁度良い温度に調節されている気遣いに感謝する。

「あれ、お嬢様? お顔がすぐれませんが、王子様と何か御座いましたか? まさかとは思いますが、お嬢様に冷たい対応をされたとか……」
「いいえ、殿下はとても優しく?して下さってますわ。それはもう、ドン引きするほどに……」
「?」

 あたしは先日のパーティーと、今日のお茶会での事を話した。

「それは……なんとまぁ……おかしな、いえ、面白……ゴホン! 少し変わったお方で御座いますね。あんなにお顔は良いのに」

 マイリー。今、面白い方とか言いかけたわね。

「そう、お顔は良いのよ。お兄様曰く王子としては完璧なのに中身が時々『変態』なんだそうよ」
「……お嬢様は王子様の事、あまりお好きではないのですか?」
「うーん、どうなのかしら。正直よく分からないわ。お顔は好みだと思うし、普段は素敵な方に感じるのだけど……」

 嫌い……ではないと思うのよね。というか、殿下の予想のつかない行動に振り回されて恥ずかしくなるから困ると言うか。そう、恥ずかしすぎるのだ。殿下には照れと言うものが無いのだろうか。

「暫く様子を見てみては如何ですか? まぁ、そうは言ってもいずれは婚姻される事は変わらないですが……今は婚約されたばかりですし、王子様もお浮かれになってるだけかもしれませんよ?」
「そ、そうよね!きっと、お浮かれになっているのよね」

 あたしはマイリーの意見に大きく頷いた。
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