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第一章
マカロン
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「やぁ、よく来てくれたねティアナ嬢」
殿下との婚約が決まってから約一ヶ月後。あたしは再び王城に来ていた。場所はこの間よりも少しだけ、こじんまりしている別の庭園。パーティ会場だったあちらは色とりどりの花に囲まれた花の楽園だとすれば、今日のこちらは綺麗な池をメインに置いた水の楽園という感じだろうか。池の傍にはお洒落なガゼボがあり、そこに置かれたテーブルセットに案内されて殿下の到着を待っていた。ほどなくして姿を見せた殿下に、あたしは立ち上がり淑女の礼をする。
「アルスト殿下。お招き頂きありがとう御座います」
「気にせず座ってくれ。婚約者同士なのだから気取らなくて構わない」
「はい、ありがとう御座います」
殿下の到着と同時に、手際良くティーセットが並べられていく。テーブルの真ん中にはカラフルなマカロンが置かれて、思わず視線をやってしまう。
「ふふ。今日は(君みたいに)可愛いマカロンを用意してみたよ。ティアナ嬢の口に合うと良いのだが」
そう言って柔らかな笑みを見せる殿下。あぁ、やっぱり素敵な方じゃないか。
「さぁ、遠慮せず食べてくれ。はいっ、あーん」
「へ?」
マカロンを一つ摘み上げて、それをあたしの顔の前に差し出された。あたしは意味が分からず、差し出されているピンクのマカロンと殿下の顔を何度も往復して見る。
「口をあけて。はい、あーん」
「あ、あの、自分で食べれま…す!?」
断ろうと口を開いた所にモニュッとマカロンが突っ込まれる。暫し固まって殿下を見ると、溢れんばかりの笑顔を向けられた。
う……顔が良い……。
殿下の笑顔の眩しさに思わず顔を赤くして、仕方なく突っ込まれているマカロンをかじる。……イチゴ味だ。甘酸っぱくて美味しい。一口かじり取られたマカロンはまだ殿下の手の中にあって、あたしの歯形通りに削られたマカロンの断面を殿下は何やら嬉しそうに眺めている。そしておもむろにソレをポイッと自分の口に放り込んだ。
「!?」
「うん、程よい甘酸っぱさが美味しいね」
今、あたしの食べかけのマカロンを食べたよね?何してんの、この殿下。王子様だよね、マジでちゃんとした王子様だよね?
目が点になっているあたしには気に留めず、殿下は次のマカロンを手に取った。今度はグリーンのマカロンだ。ちょ、ちょっと待ったぁぁぁあ!!
「で、殿下! ここからは自分で食べますから。いえ、自分で食べたいですわ。それはもう、全力で」
必死に次の『あーん』を止める。すると殿下はニッコリと微笑んで、あたしの手を取ってその上にグリーンのマカロンを乗せる。
「うん、だから次だけは君から私に食べさせてくれるかな?」
「は?」
満面の笑みを向けたまま、殿下が口を開ける。な、なんですって!? 今度は殿下の口にこのマカロンを入れろとおっしゃるの? そんな恥ずかしい事出来る訳……。
「それとも次も、その次も、ずーっと私が君に食べさせてあげた方が良い? それはそれで大歓迎だけど」
「ひぇええっ! それはお断り致しますわ」
とんでもない提案を出されて、慌ててあたしはマカロンを殿下の口元に持っていく。ん? 口が開いてくれない。
「あーん、って言って」
「なっ!」
「ほら、早く早く」
「……あ、あーーーん、ですわ殿下」
真っ赤になりながら何とか紡ぎ出した言葉に、殿下は嬉しそうに口を開いてマカロンを口に含む。うっ……こんな変な状況なのに、顔が良いですわ。視界に殿下付きの従者とメイドが何だか頭を抱えながら立っているのが見える。恥ずかしすぎる。
「ティアナ嬢」
「はっ、はいっ」
「今回の私とティアナ嬢との婚約は、分かってはいるだろうがこの国の発展の為の政略結婚だ」
「はい、そうですわね」
「だが私は君を本気で愛しているから父上にお願いをして君との婚約を取り付けて貰ったんだ。ローゼン公爵家が政略結婚の相手先として相応しい家柄で大変助かったよ。でないときっと、もっと君を手に入れるのに苦労しただろう」
さっき迄とは打って変わって真剣な表情で見つめてくる殿下に、あたしはドキリとする。お兄様達が言っていた様に、確かに王子として完璧な方なんだろう。強い信念を感じます。さすがは王族と言うべきなんでしょうか。
「私と共にこの国の為に努力を惜しまず、歩んで行って欲しい」
「はい、喜んで精進いたしますわ」
あぁ、キラキラと殿下が輝いて見えます。素敵です。あたしも殿下の隣に居て恥ずかしくない様に頑張らなくてはいけませんね。
「そしてここに誓うよ。私は君の(可愛い)唇にこれからも全力で美味しいスイーツを(あーん、して)運ぶ事を!」
……あ、やっぱり前言撤回です。殿下の隣に居る事自体が違う意味で恥ずかしいかもしれません。助けてお兄様。そう言えば、さっきのグリーンマカロンは何味だったのかしら?
殿下との婚約が決まってから約一ヶ月後。あたしは再び王城に来ていた。場所はこの間よりも少しだけ、こじんまりしている別の庭園。パーティ会場だったあちらは色とりどりの花に囲まれた花の楽園だとすれば、今日のこちらは綺麗な池をメインに置いた水の楽園という感じだろうか。池の傍にはお洒落なガゼボがあり、そこに置かれたテーブルセットに案内されて殿下の到着を待っていた。ほどなくして姿を見せた殿下に、あたしは立ち上がり淑女の礼をする。
「アルスト殿下。お招き頂きありがとう御座います」
「気にせず座ってくれ。婚約者同士なのだから気取らなくて構わない」
「はい、ありがとう御座います」
殿下の到着と同時に、手際良くティーセットが並べられていく。テーブルの真ん中にはカラフルなマカロンが置かれて、思わず視線をやってしまう。
「ふふ。今日は(君みたいに)可愛いマカロンを用意してみたよ。ティアナ嬢の口に合うと良いのだが」
そう言って柔らかな笑みを見せる殿下。あぁ、やっぱり素敵な方じゃないか。
「さぁ、遠慮せず食べてくれ。はいっ、あーん」
「へ?」
マカロンを一つ摘み上げて、それをあたしの顔の前に差し出された。あたしは意味が分からず、差し出されているピンクのマカロンと殿下の顔を何度も往復して見る。
「口をあけて。はい、あーん」
「あ、あの、自分で食べれま…す!?」
断ろうと口を開いた所にモニュッとマカロンが突っ込まれる。暫し固まって殿下を見ると、溢れんばかりの笑顔を向けられた。
う……顔が良い……。
殿下の笑顔の眩しさに思わず顔を赤くして、仕方なく突っ込まれているマカロンをかじる。……イチゴ味だ。甘酸っぱくて美味しい。一口かじり取られたマカロンはまだ殿下の手の中にあって、あたしの歯形通りに削られたマカロンの断面を殿下は何やら嬉しそうに眺めている。そしておもむろにソレをポイッと自分の口に放り込んだ。
「!?」
「うん、程よい甘酸っぱさが美味しいね」
今、あたしの食べかけのマカロンを食べたよね?何してんの、この殿下。王子様だよね、マジでちゃんとした王子様だよね?
目が点になっているあたしには気に留めず、殿下は次のマカロンを手に取った。今度はグリーンのマカロンだ。ちょ、ちょっと待ったぁぁぁあ!!
「で、殿下! ここからは自分で食べますから。いえ、自分で食べたいですわ。それはもう、全力で」
必死に次の『あーん』を止める。すると殿下はニッコリと微笑んで、あたしの手を取ってその上にグリーンのマカロンを乗せる。
「うん、だから次だけは君から私に食べさせてくれるかな?」
「は?」
満面の笑みを向けたまま、殿下が口を開ける。な、なんですって!? 今度は殿下の口にこのマカロンを入れろとおっしゃるの? そんな恥ずかしい事出来る訳……。
「それとも次も、その次も、ずーっと私が君に食べさせてあげた方が良い? それはそれで大歓迎だけど」
「ひぇええっ! それはお断り致しますわ」
とんでもない提案を出されて、慌ててあたしはマカロンを殿下の口元に持っていく。ん? 口が開いてくれない。
「あーん、って言って」
「なっ!」
「ほら、早く早く」
「……あ、あーーーん、ですわ殿下」
真っ赤になりながら何とか紡ぎ出した言葉に、殿下は嬉しそうに口を開いてマカロンを口に含む。うっ……こんな変な状況なのに、顔が良いですわ。視界に殿下付きの従者とメイドが何だか頭を抱えながら立っているのが見える。恥ずかしすぎる。
「ティアナ嬢」
「はっ、はいっ」
「今回の私とティアナ嬢との婚約は、分かってはいるだろうがこの国の発展の為の政略結婚だ」
「はい、そうですわね」
「だが私は君を本気で愛しているから父上にお願いをして君との婚約を取り付けて貰ったんだ。ローゼン公爵家が政略結婚の相手先として相応しい家柄で大変助かったよ。でないときっと、もっと君を手に入れるのに苦労しただろう」
さっき迄とは打って変わって真剣な表情で見つめてくる殿下に、あたしはドキリとする。お兄様達が言っていた様に、確かに王子として完璧な方なんだろう。強い信念を感じます。さすがは王族と言うべきなんでしょうか。
「私と共にこの国の為に努力を惜しまず、歩んで行って欲しい」
「はい、喜んで精進いたしますわ」
あぁ、キラキラと殿下が輝いて見えます。素敵です。あたしも殿下の隣に居て恥ずかしくない様に頑張らなくてはいけませんね。
「そしてここに誓うよ。私は君の(可愛い)唇にこれからも全力で美味しいスイーツを(あーん、して)運ぶ事を!」
……あ、やっぱり前言撤回です。殿下の隣に居る事自体が違う意味で恥ずかしいかもしれません。助けてお兄様。そう言えば、さっきのグリーンマカロンは何味だったのかしら?
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