完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな

文字の大きさ
上 下
3 / 69
第一章

兄妹会議

しおりを挟む
「あーっ! やっぱりアルの奴、ティアナを選んだのかぁぁぁ」

 あたしの目の前でガックリと項垂れるタクトお兄様。パーティーから帰宅した後、夕食の時間にお父様から婚約決定の知らせを受けての反応だ。湯浴みを済ませ、後は眠るだけの状態でタクトお兄様の部屋に子供達三人だけ集まっていた。部屋の隅にはタクトお兄様専属の執事が立っている。あたし専属のメイドとスクトお兄様専属の執事は部屋の外の廊下で待機している。

「アル殿下はティアナを気に入ってたからね、仕方ないよ」

 タクトお兄様程ではないが、スクトお兄様も何故か大きな溜息をついている。

「あんなに会わせない様にしてたのに……」

 え、そうなんだ。そんな事全然知らなかったわ。どうりで一度もお話した事なかったのね。

「無理だよ~どっちみち会わない訳にはいかないんだし」

 どうやら二人の兄達は、殿下との婚約をあまり喜んではいない様だ。あたしも別に喜んではいないのだけど。公爵令嬢として王室との婚約は、それは大変名誉な事で喜ばしい事なのではあるが。何だろう、素直に喜べない。

 パーティでの殿下のよく分からない行動を見たせいだろうか? いや、殿下は凄くカッコ良くて素敵な方だと思うのに。おかしいな、あたしが変なのかな? カッコ良いのにな。

「あのー、タクトお兄様」
「なんだい?」
「アルスト殿下とは今日初めてお会いしたと思うのですが…何故わたくしを気に入って下さってるのでしょうか?」

 そうなのだ。お兄様達と殿下はお友達だけど、あたしは殿下と接点が無い。屋敷に殿下が遊びに来られてる時も、お邪魔してはいけないからと、あたしは自室で過ごす様にしていた筈だ。

「そ、それは……」

 タクトお兄様が眉間に皺を寄せて難しい表情をした。スクトお兄様はそれを見て苦笑いする。

「タクトがアル殿下にティアナの話をしまくったせいなんだよ」
「いや、だって、アルには女の兄妹が居ないから、妹ってどんなかんじなの? って聞かれてさ。アレコレ話してる内にアルがどんどん興味を持ち出して……」
「僕は途中で止めたんだけどねー」
「その後、アルは偶然庭で遊ぶティアナを見掛けたらしいんだ。ティアナは今より幼くて覚えてないと思うけど、一緒にクッキーを食べたとか言ってた」
「えっ! 以前、殿下にお会いしてるんですか? わたくし」

 かなり驚いた。だってそんな記憶ないし、殿下の方も今日ご挨拶した時に『初めまして』っておっしゃってたもの。

「うん、そうらしいよー。前触れ無しで訪問があった時に会ったって言ってた。アル殿下がたまたま・・・・持っていたクッキーをあげたら、美味しそうに頬張るティアナに一目惚れして、そこから遊びに来る度にティアナに会わせろって煩くって」
「冗談じゃ無いよ全く。誰が可愛い妹をあんな変態王子にやるもんか」
「へ、へんたい…?」
「あ、いや、ちょっとだけ、おかしいってゆーか」
「おかしい……」

 一瞬、あのパーティーでの光景が目に浮かぶ。

「おかしいんだけど、王子としては完璧というか…」
「頭の回転も早いし、見た目もハイクラスだしねー。ただ、おかしいのだけが残念というか」
「「うーん…」」

 同時に唸る双子兄様。

 な、なんだか少し不安になった様な。選ばれたからには殿下の婚約者としてふさわしい女性になれる様に頑張ろうと思うのですが…。

 それにしても。殿下とクッキー……。全然覚えてないのよねー。覚えてないくらい幼かったあたしに一目惚れされた殿下…。うん、記憶に全く無い。でもそんなに美味しいクッキーを下さるなんて、やっぱり素敵な方なんではないかな? あたしはそう脳内補正をかけて、殿下と次に会う機会を楽しみにしてみる事にした。
しおりを挟む
感想 29

あなたにおすすめの小説

88回の前世で婚約破棄され続けて男性不信になった令嬢〜今世は絶対に婚約しないと誓ったが、なぜか周囲から溺愛されてしまう

冬月光輝
恋愛
 ハウルメルク公爵家の令嬢、クリスティーナには88回分の人生の記憶がある。  前世の88回は全てが男に婚約破棄され、近しい人間に婚約者を掠め取られ、悲惨な最期を遂げていた。  彼女は88回の人生は全て自分磨きに費やしていた。美容から、勉学に運動、果てには剣術や魔術までを最高レベルにまで極めたりした。  それは全て無駄に終わり、クリスは悟った。  “男は必ず裏切る”それなら、いっそ絶対に婚約しないほうが幸せだと。  89回目の人生を婚約しないように努力した彼女は、前世の88回分の経験値が覚醒し、無駄にハイスペックになっていたおかげで、今更モテ期が到来して、周囲から溺愛されるのであった。しかし、男に懲りたクリスはただひたすら迷惑な顔をしていた。

悪役令嬢、第四王子と結婚します!

水魔沙希
恋愛
私・フローディア・フランソワーズには前世の記憶があります。定番の乙女ゲームの悪役転生というものです。私に残された道はただ一つ。破滅フラグを立てない事!それには、手っ取り早く同じく悪役キャラになってしまう第四王子を何とかして、私の手中にして、シナリオブレイクします! 小説家になろう様にも、書き起こしております。

この恋は飴より甘し。 〜 飴よりも甘いツンデレ騎士に愛されてます。〜

渚乃雫
恋愛
ツンデレな幼馴染みは、騎士団副団長になって私に求婚するらしいです。 .☆.。.:*・゚.☆.。.:*・゚ いまだ恋をしたことのない主人公アリスと、 そんな主人公を思い続ける素直になれない幼馴染みの青年ラグス 花と緑と自然が豊かなとある国で、 のんびりした二人の、 じれったい恋の話、です。

悪役令嬢はモブ化した

F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。 しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す! 領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。 「……なんなのこれは。意味がわからないわ」 乙女ゲームのシナリオはこわい。 *注*誰にも前世の記憶はありません。 ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。 性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。 作者の趣味100%でダンジョンが出ました。

転生ガチャで悪役令嬢になりました

みおな
恋愛
 前世で死んだと思ったら、乙女ゲームの中に転生してました。 なんていうのが、一般的だと思うのだけど。  気がついたら、神様の前に立っていました。 神様が言うには、転生先はガチャで決めるらしいです。  初めて聞きました、そんなこと。 で、なんで何度回しても、悪役令嬢としかでないんですか?

不機嫌な悪役令嬢〜王子は最強の悪役令嬢を溺愛する?〜

晴行
恋愛
 乙女ゲームの貴族令嬢リリアーナに転生したわたしは、大きな屋敷の小さな部屋の中で窓のそばに腰掛けてため息ばかり。  見目麗しく深窓の令嬢なんて噂されるほどには容姿が優れているらしいけど、わたしは知っている。  これは主人公であるアリシアの物語。  わたしはその当て馬にされるだけの、悪役令嬢リリアーナでしかない。  窓の外を眺めて、次の転生は鳥になりたいと真剣に考えているの。 「つまらないわ」  わたしはいつも不機嫌。  どんなに努力しても運命が変えられないのなら、わたしがこの世界に転生した意味がない。  あーあ、もうやめた。  なにか他のことをしよう。お料理とか、お裁縫とか、魔法がある世界だからそれを勉強してもいいわ。  このお屋敷にはなんでも揃っていますし、わたしには才能がありますもの。  仕方がないので、ゲームのストーリーが始まるまで悪役令嬢らしく不機嫌に日々を過ごしましょう。  __それもカイル王子に裏切られて婚約を破棄され、大きな屋敷も貴族の称号もすべてを失い終わりなのだけど。  頑張ったことが全部無駄になるなんて、ほんとうにつまらないわ。  の、はずだったのだけれど。  アリシアが現れても、王子は彼女に興味がない様子。  ストーリーがなかなか始まらない。  これじゃ二人の仲を引き裂く悪役令嬢になれないわ。  カイル王子、間違ってます。わたしはアリシアではないですよ。いつもツンとしている?  それは当たり前です。貴方こそなぜわたしの家にやってくるのですか?  わたしの料理が食べたい? そんなのアリシアに作らせればいいでしょう?  毎日つくれ? ふざけるな。  ……カイル王子、そろそろ帰ってくれません?

悪役令嬢に成り代わったのに、すでに詰みってどういうことですか!?

ぽんぽこ狸
恋愛
 仕事帰りのある日、居眠り運転をしていたトラックにはねられて死んでしまった主人公。次に目を覚ますとなにやら暗くジメジメした場所で、自分に仕えているというヴィンスという男の子と二人きり。  彼から話を聞いているうちに、なぜかその話に既視感を覚えて、確認すると昔読んだことのある児童向けの小説『ララの魔法書!』の世界だった。  その中でも悪役令嬢である、クラリスにどうやら成り代わってしまったらしい。  混乱しつつも話をきていくとすでに原作はクラリスが幽閉されることによって終結しているようで愕然としているさなか、クラリスを見限り原作の主人公であるララとくっついた王子ローレンスが、訪ねてきて━━━━?!    原作のさらに奥深くで動いていた思惑、魔法玉(まほうぎょく)の謎、そして原作の男主人公だった完璧な王子様の本性。そのどれもに翻弄されながら、なんとか生きる一手を見出す、学園ファンタジー!  ローレンスの性格が割とやばめですが、それ以外にもダークな要素強めな主人公と恋愛?をする、キャラが二人ほど、登場します。世界観が殺伐としているので重い描写も多いです。読者さまが色々な意味でドキドキしてくれるような作品を目指して頑張りますので、よろしくお願いいたします。  完結しました!最後の一章分は遂行していた分がたまっていたのと、話が込み合っているので一気に二十万文字ぐらい上げました。きちんと納得できる結末にできたと思います。ありがとうございました。

異世界で悪役令嬢として生きる事になったけど、前世の記憶を持ったまま、自分らしく過ごして良いらしい

千晶もーこ
恋愛
あの世に行ったら、番人とうずくまる少女に出会った。少女は辛い人生を歩んできて、魂が疲弊していた。それを知った番人は私に言った。 「あの子が繰り返している人生を、あなたの人生に変えてください。」 「………はぁああああ?辛そうな人生と分かってて生きろと?それも、繰り返すかもしれないのに?」 でも、お願いされたら断れない性分の私…。 異世界で自分が悪役令嬢だと知らずに過ごす私と、それによって変わっていく周りの人達の物語。そして、その物語の後の話。 ※この話は、小説家になろう様へも掲載しています

処理中です...