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第一章
兄妹会議
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「あーっ! やっぱりアルの奴、ティアナを選んだのかぁぁぁ」
あたしの目の前でガックリと項垂れるタクトお兄様。パーティーから帰宅した後、夕食の時間にお父様から婚約決定の知らせを受けての反応だ。湯浴みを済ませ、後は眠るだけの状態でタクトお兄様の部屋に子供達三人だけ集まっていた。部屋の隅にはタクトお兄様専属の執事が立っている。あたし専属のメイドとスクトお兄様専属の執事は部屋の外の廊下で待機している。
「アル殿下はティアナを気に入ってたからね、仕方ないよ」
タクトお兄様程ではないが、スクトお兄様も何故か大きな溜息をついている。
「あんなに会わせない様にしてたのに……」
え、そうなんだ。そんな事全然知らなかったわ。どうりで一度もお話した事なかったのね。
「無理だよ~どっちみち会わない訳にはいかないんだし」
どうやら二人の兄達は、殿下との婚約をあまり喜んではいない様だ。あたしも別に喜んではいないのだけど。公爵令嬢として王室との婚約は、それは大変名誉な事で喜ばしい事なのではあるが。何だろう、素直に喜べない。
パーティでの殿下のよく分からない行動を見たせいだろうか? いや、殿下は凄くカッコ良くて素敵な方だと思うのに。おかしいな、あたしが変なのかな? カッコ良いのにな。
「あのー、タクトお兄様」
「なんだい?」
「アルスト殿下とは今日初めてお会いしたと思うのですが…何故わたくしを気に入って下さってるのでしょうか?」
そうなのだ。お兄様達と殿下はお友達だけど、あたしは殿下と接点が無い。屋敷に殿下が遊びに来られてる時も、お邪魔してはいけないからと、あたしは自室で過ごす様にしていた筈だ。
「そ、それは……」
タクトお兄様が眉間に皺を寄せて難しい表情をした。スクトお兄様はそれを見て苦笑いする。
「タクトがアル殿下にティアナの話をしまくったせいなんだよ」
「いや、だって、アルには女の兄妹が居ないから、妹ってどんなかんじなの? って聞かれてさ。アレコレ話してる内にアルがどんどん興味を持ち出して……」
「僕は途中で止めたんだけどねー」
「その後、アルは偶然庭で遊ぶティアナを見掛けたらしいんだ。ティアナは今より幼くて覚えてないと思うけど、一緒にクッキーを食べたとか言ってた」
「えっ! 以前、殿下にお会いしてるんですか? わたくし」
かなり驚いた。だってそんな記憶ないし、殿下の方も今日ご挨拶した時に『初めまして』っておっしゃってたもの。
「うん、そうらしいよー。前触れ無しで訪問があった時に会ったって言ってた。アル殿下がたまたま持っていたクッキーをあげたら、美味しそうに頬張るティアナに一目惚れして、そこから遊びに来る度にティアナに会わせろって煩くって」
「冗談じゃ無いよ全く。誰が可愛い妹をあんな変態王子にやるもんか」
「へ、へんたい…?」
「あ、いや、ちょっとだけ、おかしいってゆーか」
「おかしい……」
一瞬、あのパーティーでの光景が目に浮かぶ。
「おかしいんだけど、王子としては完璧というか…」
「頭の回転も早いし、見た目もハイクラスだしねー。ただ、おかしいのだけが残念というか」
「「うーん…」」
同時に唸る双子兄様。
な、なんだか少し不安になった様な。選ばれたからには殿下の婚約者としてふさわしい女性になれる様に頑張ろうと思うのですが…。
それにしても。殿下とクッキー……。全然覚えてないのよねー。覚えてないくらい幼かったあたしに一目惚れされた殿下…。うん、記憶に全く無い。でもそんなに美味しいクッキーを下さるなんて、やっぱり素敵な方なんではないかな? あたしはそう脳内補正をかけて、殿下と次に会う機会を楽しみにしてみる事にした。
あたしの目の前でガックリと項垂れるタクトお兄様。パーティーから帰宅した後、夕食の時間にお父様から婚約決定の知らせを受けての反応だ。湯浴みを済ませ、後は眠るだけの状態でタクトお兄様の部屋に子供達三人だけ集まっていた。部屋の隅にはタクトお兄様専属の執事が立っている。あたし専属のメイドとスクトお兄様専属の執事は部屋の外の廊下で待機している。
「アル殿下はティアナを気に入ってたからね、仕方ないよ」
タクトお兄様程ではないが、スクトお兄様も何故か大きな溜息をついている。
「あんなに会わせない様にしてたのに……」
え、そうなんだ。そんな事全然知らなかったわ。どうりで一度もお話した事なかったのね。
「無理だよ~どっちみち会わない訳にはいかないんだし」
どうやら二人の兄達は、殿下との婚約をあまり喜んではいない様だ。あたしも別に喜んではいないのだけど。公爵令嬢として王室との婚約は、それは大変名誉な事で喜ばしい事なのではあるが。何だろう、素直に喜べない。
パーティでの殿下のよく分からない行動を見たせいだろうか? いや、殿下は凄くカッコ良くて素敵な方だと思うのに。おかしいな、あたしが変なのかな? カッコ良いのにな。
「あのー、タクトお兄様」
「なんだい?」
「アルスト殿下とは今日初めてお会いしたと思うのですが…何故わたくしを気に入って下さってるのでしょうか?」
そうなのだ。お兄様達と殿下はお友達だけど、あたしは殿下と接点が無い。屋敷に殿下が遊びに来られてる時も、お邪魔してはいけないからと、あたしは自室で過ごす様にしていた筈だ。
「そ、それは……」
タクトお兄様が眉間に皺を寄せて難しい表情をした。スクトお兄様はそれを見て苦笑いする。
「タクトがアル殿下にティアナの話をしまくったせいなんだよ」
「いや、だって、アルには女の兄妹が居ないから、妹ってどんなかんじなの? って聞かれてさ。アレコレ話してる内にアルがどんどん興味を持ち出して……」
「僕は途中で止めたんだけどねー」
「その後、アルは偶然庭で遊ぶティアナを見掛けたらしいんだ。ティアナは今より幼くて覚えてないと思うけど、一緒にクッキーを食べたとか言ってた」
「えっ! 以前、殿下にお会いしてるんですか? わたくし」
かなり驚いた。だってそんな記憶ないし、殿下の方も今日ご挨拶した時に『初めまして』っておっしゃってたもの。
「うん、そうらしいよー。前触れ無しで訪問があった時に会ったって言ってた。アル殿下がたまたま持っていたクッキーをあげたら、美味しそうに頬張るティアナに一目惚れして、そこから遊びに来る度にティアナに会わせろって煩くって」
「冗談じゃ無いよ全く。誰が可愛い妹をあんな変態王子にやるもんか」
「へ、へんたい…?」
「あ、いや、ちょっとだけ、おかしいってゆーか」
「おかしい……」
一瞬、あのパーティーでの光景が目に浮かぶ。
「おかしいんだけど、王子としては完璧というか…」
「頭の回転も早いし、見た目もハイクラスだしねー。ただ、おかしいのだけが残念というか」
「「うーん…」」
同時に唸る双子兄様。
な、なんだか少し不安になった様な。選ばれたからには殿下の婚約者としてふさわしい女性になれる様に頑張ろうと思うのですが…。
それにしても。殿下とクッキー……。全然覚えてないのよねー。覚えてないくらい幼かったあたしに一目惚れされた殿下…。うん、記憶に全く無い。でもそんなに美味しいクッキーを下さるなんて、やっぱり素敵な方なんではないかな? あたしはそう脳内補正をかけて、殿下と次に会う機会を楽しみにしてみる事にした。
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