36 / 36
魔女
しおりを挟む
「随分と久しぶりじゃの」
エレノアに連れられてエミリアとエドワードはようやく安堵の息を吐いてその場に崩れ落ちた。ここに辿り着くまで散々な目にあった為、既に疲労困憊だったのは言うまでもない。
「ふふ、会えて嬉しいわ。アマンダ」
息も絶え絶えに地べたに座り込む子供達とは対象的にエレノアはいつもと変わらず、のほほんとした雰囲気で魔女との再会を喜んでいる。
「エレノアは相変わらずじゃの。それに反してこっちのはなんじゃ……情けない」
エミリアとエドワードにチラリと視線をやりながら魔女アマンダは呆れた様に溜息を溢す。惑わしの森の魔女というから、さぞ恐ろしい見た目の老婆だと思っていたが実際目の前に居るのは黒ローブに身を包んだ可愛らしい少女だった。
見た感じではエミリア達と歳も変わらなそうで真っ赤な長い艶やかな髪は両サイドの高い位置から編み込まれ、その先端は床に着きそうになるほどの長さで可愛らしいタータンチェック柄のリボンを付けている。
切れ長の鋭い黄金色の瞳はエミリア達からすぐにエレノアへと戻り、旧友との再会に嬉しそうな表情を浮かべているのが分かる。
「ここに来る迄に色々とモンスターと出くわしたから疲れちゃったみたい」
「修行が足りんのぉ」
見た目と話し方が相反している様に思うが、よくよく見るとアマンダの耳は天に向かって長く伸びており、それだけでも普通の人間ではない事を表していた。
「……アマンダさんて、もしかしてエルフですの?」
「……ああ」
隣で一緒にへばっている兄へコッソリと問いかけると頷きながら返答が帰ってきた。その答えにエミリアはなるほどな、と一人納得する。
森に住むエルフは人間とは違い非常に長寿な種族だ。パッと見は人間と変わらない見た目だが特徴的な長い耳が彼女をエルフだと象徴していた。恐らく見た目よりはずっと歳上なのだろう。
「それでね、金色キノコの解毒剤が欲しいのだけど……お願い出来ないかしら?」
「金色キノコとな? あのキノコの毒は一般には流通しておらぬ筈じゃが何があった」
早速本題の話が始まった事に気付き、エミリアは慌ててアマンダへ軽く頭を下げて挨拶をした。
「初めましてアマンダ様。わたくしエレノアの娘、エミリアと申します。ここからは、わたくしが説明させて頂いても宜しいでしょうか?」
「うむ、話してくれ」
アマンダはエミリアの申し出を快く承知してくれた。母にばかり頼ってはいけないとエミリアは精一杯心を込めてアマンダに解毒剤が必要な経緯を説明してみせた。
「わたくしは、どうしても王太子を助けたいのです。必要ならば何でも致します、どうか解毒剤をわたくしに下さいませんか」
「……なるほどのぉ。理由は理解した。解毒剤もくれてやらん事もない」
「本当ですの!?」
「しかし、引っかかるのが誰が王太子に毒矢を向けたかじゃな……」
勿論一国の王太子であるからには命を狙われる可能性は常にあって当然ではある。イアンには歳の離れた弟王子も居るし、他にも王位継承権を持つ王族は幾人も存在している。
その中のいずれかが狙った可能性も無きにあらずだが、現状では王太子派以外に敵対する様な大きな派閥は存在していない筈だ。特に現王の治安する世代になってからは、外交も良好で我が国は戦争も無く平和な時代を送っている。
「実は心当たりが無くもないのだけど……カティは今居るかしら?」
エレノアが見知らぬ誰かの名前を呼ぶや否や、どこからともなく若いエルフの青年が姿を表した。
アマンダと同じく真っ赤な髪が印象的なとても美しい青年で、片耳にはキラリと光るクリスタルのピアスをしている。服装はローブではないがアマンダと同じく全身黒色で纏めたのか、シンプルなシャツとズボン姿だ。
「……ボクはここ。エレノア会いたかった」
カティという青年は、エレノアを見つめながら少し寂しげな表情を浮かべて微笑んだ。
エレノアに連れられてエミリアとエドワードはようやく安堵の息を吐いてその場に崩れ落ちた。ここに辿り着くまで散々な目にあった為、既に疲労困憊だったのは言うまでもない。
「ふふ、会えて嬉しいわ。アマンダ」
息も絶え絶えに地べたに座り込む子供達とは対象的にエレノアはいつもと変わらず、のほほんとした雰囲気で魔女との再会を喜んでいる。
「エレノアは相変わらずじゃの。それに反してこっちのはなんじゃ……情けない」
エミリアとエドワードにチラリと視線をやりながら魔女アマンダは呆れた様に溜息を溢す。惑わしの森の魔女というから、さぞ恐ろしい見た目の老婆だと思っていたが実際目の前に居るのは黒ローブに身を包んだ可愛らしい少女だった。
見た感じではエミリア達と歳も変わらなそうで真っ赤な長い艶やかな髪は両サイドの高い位置から編み込まれ、その先端は床に着きそうになるほどの長さで可愛らしいタータンチェック柄のリボンを付けている。
切れ長の鋭い黄金色の瞳はエミリア達からすぐにエレノアへと戻り、旧友との再会に嬉しそうな表情を浮かべているのが分かる。
「ここに来る迄に色々とモンスターと出くわしたから疲れちゃったみたい」
「修行が足りんのぉ」
見た目と話し方が相反している様に思うが、よくよく見るとアマンダの耳は天に向かって長く伸びており、それだけでも普通の人間ではない事を表していた。
「……アマンダさんて、もしかしてエルフですの?」
「……ああ」
隣で一緒にへばっている兄へコッソリと問いかけると頷きながら返答が帰ってきた。その答えにエミリアはなるほどな、と一人納得する。
森に住むエルフは人間とは違い非常に長寿な種族だ。パッと見は人間と変わらない見た目だが特徴的な長い耳が彼女をエルフだと象徴していた。恐らく見た目よりはずっと歳上なのだろう。
「それでね、金色キノコの解毒剤が欲しいのだけど……お願い出来ないかしら?」
「金色キノコとな? あのキノコの毒は一般には流通しておらぬ筈じゃが何があった」
早速本題の話が始まった事に気付き、エミリアは慌ててアマンダへ軽く頭を下げて挨拶をした。
「初めましてアマンダ様。わたくしエレノアの娘、エミリアと申します。ここからは、わたくしが説明させて頂いても宜しいでしょうか?」
「うむ、話してくれ」
アマンダはエミリアの申し出を快く承知してくれた。母にばかり頼ってはいけないとエミリアは精一杯心を込めてアマンダに解毒剤が必要な経緯を説明してみせた。
「わたくしは、どうしても王太子を助けたいのです。必要ならば何でも致します、どうか解毒剤をわたくしに下さいませんか」
「……なるほどのぉ。理由は理解した。解毒剤もくれてやらん事もない」
「本当ですの!?」
「しかし、引っかかるのが誰が王太子に毒矢を向けたかじゃな……」
勿論一国の王太子であるからには命を狙われる可能性は常にあって当然ではある。イアンには歳の離れた弟王子も居るし、他にも王位継承権を持つ王族は幾人も存在している。
その中のいずれかが狙った可能性も無きにあらずだが、現状では王太子派以外に敵対する様な大きな派閥は存在していない筈だ。特に現王の治安する世代になってからは、外交も良好で我が国は戦争も無く平和な時代を送っている。
「実は心当たりが無くもないのだけど……カティは今居るかしら?」
エレノアが見知らぬ誰かの名前を呼ぶや否や、どこからともなく若いエルフの青年が姿を表した。
アマンダと同じく真っ赤な髪が印象的なとても美しい青年で、片耳にはキラリと光るクリスタルのピアスをしている。服装はローブではないがアマンダと同じく全身黒色で纏めたのか、シンプルなシャツとズボン姿だ。
「……ボクはここ。エレノア会いたかった」
カティという青年は、エレノアを見つめながら少し寂しげな表情を浮かべて微笑んだ。
118
お気に入りに追加
1,117
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(3件)
あなたにおすすめの小説

【完結】100日後に処刑されるイグワーナ(悪役令嬢)は抜け毛スキルで無双する
みねバイヤーン
恋愛
せっかく悪役令嬢に転生したのに、もう断罪イベント終わって、牢屋にぶち込まれてるんですけどー。これは100日後に処刑されるイグワーナが、抜け毛操りスキルを使って無双し、自分を陥れた第一王子と聖女の妹をざまぁする、そんな物語。
廃妃の再婚
束原ミヤコ
恋愛
伯爵家の令嬢としてうまれたフィアナは、母を亡くしてからというもの
父にも第二夫人にも、そして腹違いの妹にも邪険に扱われていた。
ある日フィアナは、川で倒れている青年を助ける。
それから四年後、フィアナの元に国王から結婚の申し込みがくる。
身分差を気にしながらも断ることができず、フィアナは王妃となった。
あの時助けた青年は、国王になっていたのである。
「君を永遠に愛する」と約束をした国王カトル・エスタニアは
結婚してすぐに辺境にて部族の反乱が起こり、平定戦に向かう。
帰還したカトルは、族長の娘であり『精霊の愛し子』と呼ばれている美しい女性イルサナを連れていた。
カトルはイルサナを寵愛しはじめる。
王城にて居場所を失ったフィアナは、聖騎士ユリシアスに下賜されることになる。
ユリシアスは先の戦いで怪我を負い、顔の半分を包帯で覆っている寡黙な男だった。
引け目を感じながらフィアナはユリシアスと過ごすことになる。
ユリシアスと過ごすうち、フィアナは彼と惹かれ合っていく。
だがユリシアスは何かを隠しているようだ。
それはカトルの抱える、真実だった──。

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~
夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」
弟のその言葉は、晴天の霹靂。
アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。
しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。
醤油が欲しい、うにが食べたい。
レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。
既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・?
小説家になろうにも掲載しています。

【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~
降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。

【完結】母になります。
たろ
恋愛
母親になった記憶はないのにわたしいつの間にか結婚して子供がいました。
この子、わたしの子供なの?
旦那様によく似ているし、もしかしたら、旦那様の隠し子なんじゃないのかしら?
ふふっ、でも、可愛いわよね?
わたしとお友達にならない?
事故で21歳から5年間の記憶を失くしたわたしは結婚したことも覚えていない。
ぶっきらぼうでムスッとした旦那様に愛情なんて湧かないわ!
だけど何故かこの3歳の男の子はとても可愛いの。
悪役令嬢は推し活中〜殿下。貴方には興味がございませんのでご自由に〜
みおな
恋愛
公爵家令嬢のルーナ・フィオレンサは、輝く銀色の髪に、夜空に浮かぶ月のような金色を帯びた銀の瞳をした美しい少女だ。
当然のことながら王族との婚約が打診されるが、ルーナは首を縦に振らない。
どうやら彼女には、別に想い人がいるようで・・・

【完結】引きこもり令嬢は迷い込んできた猫達を愛でることにしました
かな
恋愛
乙女ゲームのモブですらない公爵令嬢に転生してしまった主人公は訳あって絶賛引きこもり中!
そんな主人公の生活はとある2匹の猫を保護したことによって一変してしまい……?
可愛い猫達を可愛がっていたら、とんでもないことに巻き込まれてしまった主人公の無自覚無双の幕開けです!
そしていつのまにか溺愛ルートにまで突入していて……!?
イケメンからの溺愛なんて、元引きこもりの私には刺激が強すぎます!!
毎日17時と19時に更新します。
全12話完結+番外編
「小説家になろう」でも掲載しています。
逃げて、追われて、捕まって
あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。
この世界で王妃として生きてきた記憶。
過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。
人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。
だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。
2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ
2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。
**********お知らせ***********
2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。
それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。
ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
長年自分を貶めてきた相手に対して優しすぎるぞエミリア…
かもしれませんね〜。
ちょっとお人好し過ぎて損するタイプなエミリアです(>人<;)
エミリア多大なる初恋泥棒になりそうな予感が…(笑)
しかも本人に自覚なし笑
ランキングから来ました😃
6歳にして驚異的なスパダリ臭漂う完璧キラキラ腹黒王子が、5歳の女の子(転生者)を堕とすと断言。必死で逃げようと試みるリアと腹黒殿下の攻防が、面白くて可愛過ぎます😆
序盤でこれだから、先々はもっと色々ありそうで、楽しみですね☺️
リアの想定している「ヒロイン」が本当に出現するなら、殿下がどうやって排除するのかというのも見処かなと思います☺️
続き、楽しみにお待ちしています✨
感想ありがとう御座います。
腹黒イアン王子、大人顔負けな口説きっぷりです笑
対するエミリアはイアンの事が嫌いではない為、逃げなきゃいけないのにイアンのペースに振り回されてグダグダ感満載です。
そして既に暴走しているエミリアですが、これから更に暴走していく様子を楽しんで頂けたら嬉しいです。
ヒロイン・・・果たして居るのでしょうかね?(°▽°)