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エミリア 転生した事に気付いた日を語る
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わたくしが転生者だと気付いたのは宮殿でのお茶会前日である昨日の事だった。
いつもの様に朝起きて、身支度を済ませたわたくしは大好きなお兄様のお部屋へ押しかけていて、そろそろ朝食の時間となりお兄様と一緒に二階からの階段を降りていた時。あと数段という所まで来た所でウッカリ足を踏み外してしまったのだ。
五歳児のその小さな身体がフワッと空中に投げ出された瞬間、幸いにもわたくしより先に階段を降り切っていたエドワードお兄様が全力でわたくしを受け止めてくれたお陰もあって二人とも怪我一つなし。
だけど空中に浮いた時、ふいにわたくしの頭の中には前世の記憶が流れ込んで来た。あの空中に投げ出される嫌な浮遊感――。それは前世でのわたくしが歩道橋の階段を降りている最中に、誰かに後ろからぶつかられて突き落とされる様な形で階段から落ちた――あの恐怖の感覚が蘇った瞬間だった。(でも落ちた瞬間までで記憶は途切れてるんだけどね)
怪我はないのに泣き出してしまったわたくしは、朝食を食べる事も無く部屋へと戻されてお母様の腕の中でワンワンと泣きじゃくってしまった。暫くして泣きつかれたわたくしは夢の中でも引き続き前世の記憶を思い出していた。
そして目覚めるや否や、わたくしは自分の現状を改めて確認して一人青ざめた。
(ひょっとして今居るこの世界って……何かの乙女ゲームの中なのでは!?)
恐る恐る鏡の中を覗けば髪色は淡いピンクゴールドではあるが、バリッバリのお嬢様縦ロール。大きなつぶらな瞳は透き通る様なコーラルピンク色。ぷっくりとした可愛らしい唇に白いスベスベの肌。顔立ちも整っているというか、誰が見ても可愛いと思える美少女が映っている。
「髪はピンクではあるけど、これはまさしく悪役令嬢な姿では……」
身分も我がシフォン王国の四大公爵家の一つであるレナード公爵家の令嬢。家督を継ぐお兄様は王太子殿下の側近が既に内定しており、親友のごとく仲が良いと聞く。お兄様自体も幼いながらも剣技に長けており将来は護衛騎士の有望株だ。勿論わたくしの兄だけあって美少年。
そして近所に住む幼馴染みは侯爵家ではあるものの宰相を父親に持ち、本人もメチャクチャ頭が良い癖にガリ勉ではないという。羨ましい才能を持ってる上に、これまた知的さが隠しきれない美少年だったりする。
あと、わたくし自身は面識はないけれど魔術に長けた伯爵家の嫡男が物凄い魔力持ちで、更にこちらもイケメンだとの噂を耳にした事がある。
(王太子に騎士、宰相候補、魔術師……ここまで来るときっとわたくしが知らないだけで、これまたイケメンな大商会の息子とか居る筈だわ)
鏡の中の自分を見つめながら、ぐぬぬ……と呻き声を上げる。イケメンだらけの主要人物たち。益々疑惑は確信へと変わっていく。
「はっ! ヒロインも居る筈ですわ! 登場するのはきっと王立学園に入学してからでしょうから今は良いとしても……」
このまま流れに任せていたら明日のお茶会でまず王太子の婚約者になり、そして王太子からは嫌われたまま成長して……
「いやぁぁぁ、王太子はヒロインまっしぐら確定ですわっ!」
頭を抱えてベッドの中へと潜り込む。
(ダ、ダメですわ。下手したら断罪されて、良くて修道院送りか国外追放。最悪は処刑の運命ですわ)
なんとか悪役令嬢の道から外れなければ。一番良いのは王太子と婚約しない事だろう。それが出来なければ、ヒロイン登場までにどうにかして婚約破棄して貰って、何処か王都から遠い場所に嫁ぐのがいい。
ただ今まで色んな乙女ゲームをして来たが、ここがどのゲームの世界かが分からない。エミリア・レナードという名前にも覚えがないし、王太子であるイアンにも見覚えはなかった。
でも中世ヨーロッパにしては前世のわたくしの知ってる世界観とは異なっている。小さな違いは色々あるが一番の違いは魔法があるって事だ。
これだけでもファンタジー世界な訳で。ゲームかなんかの世界な筈だ。
(せめて作品が分かれば……フラグ折りとか絶対必要な筈なのにそれが出来ませんわ)
とにかく分かっている事は、王太子とは関わってはいけないって事だ。
――そう決めたわたくしはベッドから飛び出して翌日のお茶会の為に用意されていた真っ赤なワンピースをクローゼットへしまい、代わりにフリルがふんだんに使われた水色のワンピースを引っ張り出した。
真っ赤なワンピースは自分の希望通りに作って貰った新作だが、この水色のワンピースはお母様がわたくしに似合うと言って押し付けて来たものだ。
原色が好きなわたくしは、どうにも好きになれなくてまだ袖も通していなかった。けど、まずは見た目から変えていこうと思い、鏡の前で自分にワンピースを当ててみせるとお母様の見立て通りなかなか似合いそうだと思った。
「この縦ロールもやめれば、もっと似合いそうですわね」
だがわたくしのこの縦ロールは実は何がどうなっているのか分からないが、この巻かれている状態がデフォルトだ。癖毛といえばそう言えなくもないが……なかなかに謎な髪だ。
「またメイドに頼んで頑張って貰うしかないですわね」
前世だったらストレートパーマとかでサラサラに矯正出来たかもだが、前にもメイドが大奮闘してくれてどうにか出来たのがゆるゆるウェーブヘアだった。ちなみに完成まで一時間かかる。
そんなこんなで朝からメイドが腕を振るって仕上げた“悪役令嬢に見えない令嬢”となって挑んだお茶会だったのだが、散々な結果を出しての帰宅となったエミリアであった。
いつもの様に朝起きて、身支度を済ませたわたくしは大好きなお兄様のお部屋へ押しかけていて、そろそろ朝食の時間となりお兄様と一緒に二階からの階段を降りていた時。あと数段という所まで来た所でウッカリ足を踏み外してしまったのだ。
五歳児のその小さな身体がフワッと空中に投げ出された瞬間、幸いにもわたくしより先に階段を降り切っていたエドワードお兄様が全力でわたくしを受け止めてくれたお陰もあって二人とも怪我一つなし。
だけど空中に浮いた時、ふいにわたくしの頭の中には前世の記憶が流れ込んで来た。あの空中に投げ出される嫌な浮遊感――。それは前世でのわたくしが歩道橋の階段を降りている最中に、誰かに後ろからぶつかられて突き落とされる様な形で階段から落ちた――あの恐怖の感覚が蘇った瞬間だった。(でも落ちた瞬間までで記憶は途切れてるんだけどね)
怪我はないのに泣き出してしまったわたくしは、朝食を食べる事も無く部屋へと戻されてお母様の腕の中でワンワンと泣きじゃくってしまった。暫くして泣きつかれたわたくしは夢の中でも引き続き前世の記憶を思い出していた。
そして目覚めるや否や、わたくしは自分の現状を改めて確認して一人青ざめた。
(ひょっとして今居るこの世界って……何かの乙女ゲームの中なのでは!?)
恐る恐る鏡の中を覗けば髪色は淡いピンクゴールドではあるが、バリッバリのお嬢様縦ロール。大きなつぶらな瞳は透き通る様なコーラルピンク色。ぷっくりとした可愛らしい唇に白いスベスベの肌。顔立ちも整っているというか、誰が見ても可愛いと思える美少女が映っている。
「髪はピンクではあるけど、これはまさしく悪役令嬢な姿では……」
身分も我がシフォン王国の四大公爵家の一つであるレナード公爵家の令嬢。家督を継ぐお兄様は王太子殿下の側近が既に内定しており、親友のごとく仲が良いと聞く。お兄様自体も幼いながらも剣技に長けており将来は護衛騎士の有望株だ。勿論わたくしの兄だけあって美少年。
そして近所に住む幼馴染みは侯爵家ではあるものの宰相を父親に持ち、本人もメチャクチャ頭が良い癖にガリ勉ではないという。羨ましい才能を持ってる上に、これまた知的さが隠しきれない美少年だったりする。
あと、わたくし自身は面識はないけれど魔術に長けた伯爵家の嫡男が物凄い魔力持ちで、更にこちらもイケメンだとの噂を耳にした事がある。
(王太子に騎士、宰相候補、魔術師……ここまで来るときっとわたくしが知らないだけで、これまたイケメンな大商会の息子とか居る筈だわ)
鏡の中の自分を見つめながら、ぐぬぬ……と呻き声を上げる。イケメンだらけの主要人物たち。益々疑惑は確信へと変わっていく。
「はっ! ヒロインも居る筈ですわ! 登場するのはきっと王立学園に入学してからでしょうから今は良いとしても……」
このまま流れに任せていたら明日のお茶会でまず王太子の婚約者になり、そして王太子からは嫌われたまま成長して……
「いやぁぁぁ、王太子はヒロインまっしぐら確定ですわっ!」
頭を抱えてベッドの中へと潜り込む。
(ダ、ダメですわ。下手したら断罪されて、良くて修道院送りか国外追放。最悪は処刑の運命ですわ)
なんとか悪役令嬢の道から外れなければ。一番良いのは王太子と婚約しない事だろう。それが出来なければ、ヒロイン登場までにどうにかして婚約破棄して貰って、何処か王都から遠い場所に嫁ぐのがいい。
ただ今まで色んな乙女ゲームをして来たが、ここがどのゲームの世界かが分からない。エミリア・レナードという名前にも覚えがないし、王太子であるイアンにも見覚えはなかった。
でも中世ヨーロッパにしては前世のわたくしの知ってる世界観とは異なっている。小さな違いは色々あるが一番の違いは魔法があるって事だ。
これだけでもファンタジー世界な訳で。ゲームかなんかの世界な筈だ。
(せめて作品が分かれば……フラグ折りとか絶対必要な筈なのにそれが出来ませんわ)
とにかく分かっている事は、王太子とは関わってはいけないって事だ。
――そう決めたわたくしはベッドから飛び出して翌日のお茶会の為に用意されていた真っ赤なワンピースをクローゼットへしまい、代わりにフリルがふんだんに使われた水色のワンピースを引っ張り出した。
真っ赤なワンピースは自分の希望通りに作って貰った新作だが、この水色のワンピースはお母様がわたくしに似合うと言って押し付けて来たものだ。
原色が好きなわたくしは、どうにも好きになれなくてまだ袖も通していなかった。けど、まずは見た目から変えていこうと思い、鏡の前で自分にワンピースを当ててみせるとお母様の見立て通りなかなか似合いそうだと思った。
「この縦ロールもやめれば、もっと似合いそうですわね」
だがわたくしのこの縦ロールは実は何がどうなっているのか分からないが、この巻かれている状態がデフォルトだ。癖毛といえばそう言えなくもないが……なかなかに謎な髪だ。
「またメイドに頼んで頑張って貰うしかないですわね」
前世だったらストレートパーマとかでサラサラに矯正出来たかもだが、前にもメイドが大奮闘してくれてどうにか出来たのがゆるゆるウェーブヘアだった。ちなみに完成まで一時間かかる。
そんなこんなで朝からメイドが腕を振るって仕上げた“悪役令嬢に見えない令嬢”となって挑んだお茶会だったのだが、散々な結果を出しての帰宅となったエミリアであった。
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