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変態王子Side 侍女と従者の恋物語②
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あれから数日経ったある日、あたしは王都の街へと来ていた。今日はマイリーがデペッシュ卿とデートする日だ。マイリーから事前に行先を聞いており、二人が待ち合わせているカフェの前で殿下の姿を探してみる。
「あ、あれじゃないですかね。お嬢様」
護衛に連れて来た我が公爵家の護衛騎士の一人、ファブルがある一点を指差した。その指が向かう方向を見てみると、ブラウンカラーの丈の長いコートに、ケープを合わせたいわゆるインバネスコートに身を包んだ一人の男性らしき姿が見えた。頭には鹿撃ち帽を被り、口にはパイプらしきものを咥え……そして何故だか分からないけど、手には虫眼鏡を持っている。
……なんだろう、あの恰好。マイリーが言っていた変装とはアレなのかしら。でもあれじゃ逆に悪目立ちしてしまっている様な気がするのだけど。現にその周りでは怪訝そうな顔をしながら人々がひそひそと囁き合っている。
「……殿下?」
「うわぁあああああああああ!? え、ティアナ?」
殿下の方へと歩みを進めると、護衛らしき方々と目が合ったのでそっと人差し指を口に当ててみせるとコクコクと頷いて貰えた。なのでそのまま、こっそりと殿下に近付いて声を掛けたら非常に驚かれたみたいだ。ふふ、驚いた殿下が何だか可愛い。
「こんな所で何をなさってるの?」
「取り敢えず座って、ティアナ!」
慌ててあたしを向かい側の席へと座らせる殿下。今更隠れても遅いと思うんだけどね……デペッシュ卿がこちらを苦い顔して見ておられたし。
「それで、何ですの? そのおかしなお姿は」
「え? 探偵だよ探偵。私は、まずは雰囲気から楽しむタイプなんだ」
「うーん、と……その探偵なお姿で何をなさってるんですの?」
「もちろん観察だよ、観察」
殿下は楽しそうに顔を綻ばせながら生き生きと話される。その楽しそうなお姿に思わず見とれてしまうあたし。あぁ、今日も非常にお顔が良いですわ。
取り敢えず、殿下と一緒になってマイリーとデペッシュ卿のデートの様子を観察する。マイリーがこちらの事が気になってるのか、時々チラチラと見て来るのであたしは少し申し訳ない気持ちになってくる。デペッシュ卿がマイリーに優しく微笑まれたりしてるお姿を見ていると、本当にマイリーの事を想ってらっしゃるんだなぁと感じた。
「ねぇ殿下」
「ん?」
「何で二人のデートの邪魔をしてらっしゃるの?」
「え……別に邪魔なんて……ただ、あのデペッシュがデレてるのが面白くて見てただけなんだけど……あ、店を出るみたいだ」
マイリー達が席を立つと殿下もその後を追おうとした。……ここは、マイリーの為にも殿下を引き留めなくちゃ!
「殿下っ、せっかく会えたのですから……わたくしも殿下とデートがしたいですわ」
「えっ! ……あ、んーっ、あああああああっ、だけど、ううううううっ」
殿下がマイリー達を追いたいけど、あたしを置いていけなくて葛藤されてる様だ。も、もうひと押し?
「お嫌、です……か?」
そう言いながら、殿下のコートの袖をそっと摘まんでみる。途端に殿下が目を大きく見開いて「うっ……」と呻かれた。そして何故か護衛騎士に馬車を店の前まで呼ばせ、それが到着するとあたしをサッと横抱きにされてそのまま店を出て乗り込まれた。
「あ、の……殿下?」
「可愛すぎるだろう! 袖ぎゅっ、て何だよ、可愛いが過ぎるだろう」
あ……どうやら殿下の足留めは成功したみたい。でも何だか殿下のテンションが爆上がりなんだけど。
「デートをしよう! 何処に行きたい? 王都中の店を買い占めるか? それとも遠出したついでに、何処かの領地を取り上げようか」
「買い占めなくていいです! 領地も取り上げちゃダメですっ」
テンション上がり過ぎて発言が怖いです殿下。
「じゃあ、何か食べたい物はあるか? 世界中の何処の店でも連れて行くぞ。いや、店ごと王都に移店させるか」
「デートの為だけに移店させちゃダメですよ、殿下っ」
「それならもう、いっその事いますぐ結婚しよう!」
「結婚はまだ、ダメですっ! 学園を卒業もしてませんし、式の準備もまだ始まってませんわ」
「むう……なら」
まだ何か言いかける殿下の頬にちゅっ、と口づけをする。すると、さっきよりも大きく目を見開いたまま硬直する殿下。
「こうやって、殿下のお傍に居るだけで充分幸せなデートですわ」
「……っ、てぃ……てぃあ……な」
ぎぎぎぎぎ……と、からくり人形の様にこちらに向けられた殿下のお顔は、見た事のない位に真っ赤だった。そしてエメラルドグリーンの瞳の奥が怪しく光った様な気がした。
「……王宮へ向かえ!」
御者へと指示を出し、馬車が走り出した。殿下はあたしに顔を近づけて、顔のあちこちへとキスの雨を降らせてくる。そして顎を掴まれて唇を塞がれ、深く深く口づけをされる。
「もう、私の部屋で一緒に暮らそう! それがいい」
「だ、ダメですってば殿下」
「こんな可愛いティアナと離れているなんて出来ないっ」
その後、殿下の私室に連れ込まれ……あたしを帰そうとしない殿下の元に、タクトお兄様が乗り込んで来たのは言うまでもない事だった。そしてデートを終えたデペッシュ卿にも散々叱られたみたいだった。
取り敢えずは殿下の足留めは成功……だったのかな? うーん。
「あ、あれじゃないですかね。お嬢様」
護衛に連れて来た我が公爵家の護衛騎士の一人、ファブルがある一点を指差した。その指が向かう方向を見てみると、ブラウンカラーの丈の長いコートに、ケープを合わせたいわゆるインバネスコートに身を包んだ一人の男性らしき姿が見えた。頭には鹿撃ち帽を被り、口にはパイプらしきものを咥え……そして何故だか分からないけど、手には虫眼鏡を持っている。
……なんだろう、あの恰好。マイリーが言っていた変装とはアレなのかしら。でもあれじゃ逆に悪目立ちしてしまっている様な気がするのだけど。現にその周りでは怪訝そうな顔をしながら人々がひそひそと囁き合っている。
「……殿下?」
「うわぁあああああああああ!? え、ティアナ?」
殿下の方へと歩みを進めると、護衛らしき方々と目が合ったのでそっと人差し指を口に当ててみせるとコクコクと頷いて貰えた。なのでそのまま、こっそりと殿下に近付いて声を掛けたら非常に驚かれたみたいだ。ふふ、驚いた殿下が何だか可愛い。
「こんな所で何をなさってるの?」
「取り敢えず座って、ティアナ!」
慌ててあたしを向かい側の席へと座らせる殿下。今更隠れても遅いと思うんだけどね……デペッシュ卿がこちらを苦い顔して見ておられたし。
「それで、何ですの? そのおかしなお姿は」
「え? 探偵だよ探偵。私は、まずは雰囲気から楽しむタイプなんだ」
「うーん、と……その探偵なお姿で何をなさってるんですの?」
「もちろん観察だよ、観察」
殿下は楽しそうに顔を綻ばせながら生き生きと話される。その楽しそうなお姿に思わず見とれてしまうあたし。あぁ、今日も非常にお顔が良いですわ。
取り敢えず、殿下と一緒になってマイリーとデペッシュ卿のデートの様子を観察する。マイリーがこちらの事が気になってるのか、時々チラチラと見て来るのであたしは少し申し訳ない気持ちになってくる。デペッシュ卿がマイリーに優しく微笑まれたりしてるお姿を見ていると、本当にマイリーの事を想ってらっしゃるんだなぁと感じた。
「ねぇ殿下」
「ん?」
「何で二人のデートの邪魔をしてらっしゃるの?」
「え……別に邪魔なんて……ただ、あのデペッシュがデレてるのが面白くて見てただけなんだけど……あ、店を出るみたいだ」
マイリー達が席を立つと殿下もその後を追おうとした。……ここは、マイリーの為にも殿下を引き留めなくちゃ!
「殿下っ、せっかく会えたのですから……わたくしも殿下とデートがしたいですわ」
「えっ! ……あ、んーっ、あああああああっ、だけど、ううううううっ」
殿下がマイリー達を追いたいけど、あたしを置いていけなくて葛藤されてる様だ。も、もうひと押し?
「お嫌、です……か?」
そう言いながら、殿下のコートの袖をそっと摘まんでみる。途端に殿下が目を大きく見開いて「うっ……」と呻かれた。そして何故か護衛騎士に馬車を店の前まで呼ばせ、それが到着するとあたしをサッと横抱きにされてそのまま店を出て乗り込まれた。
「あ、の……殿下?」
「可愛すぎるだろう! 袖ぎゅっ、て何だよ、可愛いが過ぎるだろう」
あ……どうやら殿下の足留めは成功したみたい。でも何だか殿下のテンションが爆上がりなんだけど。
「デートをしよう! 何処に行きたい? 王都中の店を買い占めるか? それとも遠出したついでに、何処かの領地を取り上げようか」
「買い占めなくていいです! 領地も取り上げちゃダメですっ」
テンション上がり過ぎて発言が怖いです殿下。
「じゃあ、何か食べたい物はあるか? 世界中の何処の店でも連れて行くぞ。いや、店ごと王都に移店させるか」
「デートの為だけに移店させちゃダメですよ、殿下っ」
「それならもう、いっその事いますぐ結婚しよう!」
「結婚はまだ、ダメですっ! 学園を卒業もしてませんし、式の準備もまだ始まってませんわ」
「むう……なら」
まだ何か言いかける殿下の頬にちゅっ、と口づけをする。すると、さっきよりも大きく目を見開いたまま硬直する殿下。
「こうやって、殿下のお傍に居るだけで充分幸せなデートですわ」
「……っ、てぃ……てぃあ……な」
ぎぎぎぎぎ……と、からくり人形の様にこちらに向けられた殿下のお顔は、見た事のない位に真っ赤だった。そしてエメラルドグリーンの瞳の奥が怪しく光った様な気がした。
「……王宮へ向かえ!」
御者へと指示を出し、馬車が走り出した。殿下はあたしに顔を近づけて、顔のあちこちへとキスの雨を降らせてくる。そして顎を掴まれて唇を塞がれ、深く深く口づけをされる。
「もう、私の部屋で一緒に暮らそう! それがいい」
「だ、ダメですってば殿下」
「こんな可愛いティアナと離れているなんて出来ないっ」
その後、殿下の私室に連れ込まれ……あたしを帰そうとしない殿下の元に、タクトお兄様が乗り込んで来たのは言うまでもない事だった。そしてデートを終えたデペッシュ卿にも散々叱られたみたいだった。
取り敢えずは殿下の足留めは成功……だったのかな? うーん。
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