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4.雪を溶かす光を覆い尽くそうとする黒い雲の存在
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眠る前にいつも一度は目をやっていたはずの天井をじっと見上げてみると、まるで初めて見るような感覚を与えられた。
この天井の先にあのお姉さんの403号室があるんだ……。
夜が更け、ベッドに寝転びながら今日起こった出来事を反芻する。
一つ目、透也先輩が私の告白らしき言葉に予想外の反応をし、そして付き合うことになる。
そう、付き合うことに……付き合う……?
そんなことが起こり得るの?
確か「付き合う」という言葉は透也先輩の方から口にしたはず。
どうしてこんなちびで子供な私と付き合ってくれるのだろう。
中学生の時の透也先輩の彼女はすらっとした背の高めの子で、精神年齢も高そうだったような。
ああ……、でも訳が分からないほどに嬉しい。
訳が分からない……訳が分からない……。
緩んだ口元を元に戻すことなく、うつらうつらと眠りにひきこまれる。
「今日」という現実世界に別れを告げつつある意識の片隅にこう浮かぶ。
そうだ……あのお姉さん……指輪してたから……結婚してるのかな……。
手には、遠く想いをつのらせる彼からのメッセージを待つ携帯電話が握られていた。
朝になっても何も、受信することなく。
雑踏の中で人と人がすれ違う。
それは日常の中で無意識に繰り返される。
意識することがあるのならば。
それはいつも自分の心が求めている人とすれ違う瞬間。
自分が他の人と話し歩みながらそのような状況になったとしても、まるで空気が感じとっているように心が求めている人のまわりに焦点が合う。
その人のまわりだけ空気の層が厚くなり、私の想いは歩む足に一筋のはかない電流のように流れ、瞳は控えめに確実に姿をとらえた。
行き場のないはかない電流は足のつま先から地面に放出され、すれ違い終わると足は再び日常の歩みを始める。
心に微量の火花をはじけさせながら。
そしてもしそのような存在の相手からも、好意で私の姿をいつも瞳にとらえてくれるようになったなら。
それは今まで相手を目で追い続けたいくつもの瞬間の積み重ねの上に、降り注ぐ光のような奇跡だ。
一人想いながらすれ違ったいくつもの瞬間が雪のように積み重なった過去、二人想い合い目を合わせすれ違う奇跡が光のように輝く現在。
光で雪は溶けてゆく。
「佳代、見た?」
1階にある職員室前の廊下を生徒達が思い思いに通り過ぎる昼休み。
香苗かなえちゃんがよくお昼休みに買う抹茶プリンが、歩く私と彼女の間で袋に入れられたまま揺れている。
「え!み、見たけど……。私にやにやしてる?!」
いくつも行き交う半袖の制服と窓の外に満ちた日差しの調和が取れている。
「ちーがーう。佳代が透也先輩とすれ違う度に見つめ合ってるのはもう知ってるから!そうじゃなくて、まわりにいた友達」
モデルさんのように背が高い彼女は視野が広いかのように、小さな私が気づくことができないことをいつも見つけることができているような気がする。
ただ私が鈍感なだけかもしれないけど。
「透也先輩がいつも一緒にいる人達でしょ?クラスで仲のいい男女5人組」
付き合い始めてから3週間。
透也先輩本人からその友達の話を聞いたことがある私は、あたかもすべてのことを把握しているかのように答えた。
「うん…、その中の一人の女。髪が短い方の。今日確信したんだけど」
学校という場所は至る所で様々な音が反響している。
その溢れかえる音の中で、香苗ちゃんの声が突然存在感を増した。
「その人、佳代と透也先輩の目が合い終わった後で、いつも佳代のこと見てるよ」
雪を溶かす光を覆い尽くそうとする黒い雲の存在。
「感情のない目で」
この天井の先にあのお姉さんの403号室があるんだ……。
夜が更け、ベッドに寝転びながら今日起こった出来事を反芻する。
一つ目、透也先輩が私の告白らしき言葉に予想外の反応をし、そして付き合うことになる。
そう、付き合うことに……付き合う……?
そんなことが起こり得るの?
確か「付き合う」という言葉は透也先輩の方から口にしたはず。
どうしてこんなちびで子供な私と付き合ってくれるのだろう。
中学生の時の透也先輩の彼女はすらっとした背の高めの子で、精神年齢も高そうだったような。
ああ……、でも訳が分からないほどに嬉しい。
訳が分からない……訳が分からない……。
緩んだ口元を元に戻すことなく、うつらうつらと眠りにひきこまれる。
「今日」という現実世界に別れを告げつつある意識の片隅にこう浮かぶ。
そうだ……あのお姉さん……指輪してたから……結婚してるのかな……。
手には、遠く想いをつのらせる彼からのメッセージを待つ携帯電話が握られていた。
朝になっても何も、受信することなく。
雑踏の中で人と人がすれ違う。
それは日常の中で無意識に繰り返される。
意識することがあるのならば。
それはいつも自分の心が求めている人とすれ違う瞬間。
自分が他の人と話し歩みながらそのような状況になったとしても、まるで空気が感じとっているように心が求めている人のまわりに焦点が合う。
その人のまわりだけ空気の層が厚くなり、私の想いは歩む足に一筋のはかない電流のように流れ、瞳は控えめに確実に姿をとらえた。
行き場のないはかない電流は足のつま先から地面に放出され、すれ違い終わると足は再び日常の歩みを始める。
心に微量の火花をはじけさせながら。
そしてもしそのような存在の相手からも、好意で私の姿をいつも瞳にとらえてくれるようになったなら。
それは今まで相手を目で追い続けたいくつもの瞬間の積み重ねの上に、降り注ぐ光のような奇跡だ。
一人想いながらすれ違ったいくつもの瞬間が雪のように積み重なった過去、二人想い合い目を合わせすれ違う奇跡が光のように輝く現在。
光で雪は溶けてゆく。
「佳代、見た?」
1階にある職員室前の廊下を生徒達が思い思いに通り過ぎる昼休み。
香苗かなえちゃんがよくお昼休みに買う抹茶プリンが、歩く私と彼女の間で袋に入れられたまま揺れている。
「え!み、見たけど……。私にやにやしてる?!」
いくつも行き交う半袖の制服と窓の外に満ちた日差しの調和が取れている。
「ちーがーう。佳代が透也先輩とすれ違う度に見つめ合ってるのはもう知ってるから!そうじゃなくて、まわりにいた友達」
モデルさんのように背が高い彼女は視野が広いかのように、小さな私が気づくことができないことをいつも見つけることができているような気がする。
ただ私が鈍感なだけかもしれないけど。
「透也先輩がいつも一緒にいる人達でしょ?クラスで仲のいい男女5人組」
付き合い始めてから3週間。
透也先輩本人からその友達の話を聞いたことがある私は、あたかもすべてのことを把握しているかのように答えた。
「うん…、その中の一人の女。髪が短い方の。今日確信したんだけど」
学校という場所は至る所で様々な音が反響している。
その溢れかえる音の中で、香苗ちゃんの声が突然存在感を増した。
「その人、佳代と透也先輩の目が合い終わった後で、いつも佳代のこと見てるよ」
雪を溶かす光を覆い尽くそうとする黒い雲の存在。
「感情のない目で」
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