ベルガモットの空言

小春佳代

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何処かで書いたことのあるような物語

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あるところに
自身が二人実在している女がおりました

作り話のような恋慕に
翻弄されていたかと思えば
次の瞬間には
我が子がおかす書き順の間違いを
指摘しているのです

彼女の世界が二つに分かれていったのは
誰某だれそれの影響でも何でもありませんでした

忘れもしないでしょうあの日の感覚
彼女は二人に分裂してしまったのです

使い終わった皿上の泡が
水道水によって綺麗さを取り戻してゆきます

永遠に続いていくかのような靄もやの中
『ごく一般的な人間』として
真っ当にもがいていた彼女の前に
突然現れたもう一人の彼女

「私が全て引き受けるわ」

生まれ出たばかりの彼女に
恐いものは何もありません

「あなたの欲望も悪も全て私が背負うの」



あの薄暗いシンクに現れた幻想が今もなお
舌を出して本人に笑いかけます

「あなたは安心して
理不尽な要求にも負けず
日々の喜びを噛み締めて
任務を遂行すればいいのよ」

幻想が本人のやつれた目元に
そっと指先を触れさせます

「足りない分は
私が得たものから補充してあげるからね」
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