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しおりを挟む二人で黒い扉を覗くように下向きに開き、芳ばしい香りをさせた焼き菓子を目で捉える。
夢の終わりが、完成した。
網にのせた「夢の終わり」に、溶かしバターとラム酒を順に表面に塗ってゆく。
「冷めたら、粉砂糖をふるうの」
伏せ目がちでそう呟いた時だった、どこか別の部屋でくつろいでいた祖母が急にキッチンに顔を出したのは。
「リサー、ちょっと出かけてくるわね」
「あっ、うん」
最後の最後に、本当の二人っきりになってしまう……胸が疼いた。
ルカには早く帰ってもらわないと。
「よーし、待てないからもうふるっちゃおうかな」
「そんなに早く食べたいか」
テーブルに片手をついて、私の動作を見守るルカからの締めつけられるような心地良い圧あつ。
終わらせなきゃ、終わらせなきゃ。
丸く平べったい粉ふるいに、空いたもう片方の手で振動を何度も加えていく。
また、戻るの、会うこともない、ただの親友の彼という存在に。
季節はずれの粉雪が金属を打ち付ける音と共に「夢の終わり」を隠してゆく、隠して欲しい、今日という日を。
「もういいんじゃない?」
ルカの言葉に思わず顔を上げて、止めていた息を少し吐き出した。
「はは、そうだね」
「うん、見た目は綺麗綺麗」
「ね」
ほんのしばらく眺めた後、私はケーキナイフを手に取った。
「味はどうかな、もう立ったまま食べよ」
「待てないねぇ」
程良い厚さに、二切れスライスする。
「はい」
私は端の方を、ルカには少しでもドライフルーツが詰まっている方を。
そして、粉砂糖が濃くまぶされたシュト―レンの端を口に含んだ、我ながら不器用に。
「子供みたい」
ルカが何のことを言っているのかは、自分の口の端についてしまったざらつきの感触で分かった。
どうせ私は子供で……。
そう、そうだ、ルカにとって私なんて子供なんだから。
周りの同い年の子や、アニカ……アニカと比べても私なんて幼くて、ルカにとって全然そんな対象なんかじゃないんだから。
そう、妹みたいなものだ、なのに二人っきりだからって意識して。
ばかみた……
男の人の指が自分の唇の端に触れたという瞬間的な感覚に、巡らせていた思いが弾け散る。
経験したことのない指先から伝わる熱は、まるでざらつく粉砂糖を溶かすかのよう。
視線を上げた先に待っていたのは、相も変わらず余裕に満ちて、それでいてとろりとした眼差し。
『逃げて』
誰かの声がする。
『逃げるのよ』
ああ……それが正しいわ、絶対に。
ねえ、でもね、ずっとずっと好きだった人が。
私のことを異性として見てくれてたって。
この瞬間まで、知らなかったのよ。
―――一粒、二粒と涙を零しながら、俺に話し続けた理沙は最後にこう言った。
「親にドイツに捨てられた日に、誓ったのに」
仄暗さを何層も重ね続ける海と空に、制服の白シャツが本来の色を失ってゆく。
「私だけは、絶対誰も、傷つけない……って」
吐露された親友への思いの勢いで、青い目から宙に放たれた涙の粒を見た。
「理沙……」
俺が、もう君を……
「見せたいものがある」
傷つかせないから。
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