4 / 17
4
しおりを挟む
ドイツ人の母親によるあの妙な『失踪宣言』の後、しばらくしてその豪邸は空き家になった。
騒ぐなと言われ、自分のせいで何か起こるのが怖かった俺は、両親にだけ事情を説明していたが、一家が丸ごといなくなってしまった後では為なす術がなかった。
もともと理沙の家が近所付き合いしていたのは俺の家族だけだったので、困惑したのは俺ら家族だけで、周りの住人の日常は何事もなかったかのように過ぎて行った。
そしてあの日に部室棟裏で理沙に聞いた話では、どうしてあの母親が娘が失踪しただなんて嘘をついたかと言うと、例えば『留学』だなんて中途半端な嘘をついたとして、俺がそのことに関して質問攻めをしてくるかもしれなかったことがそうとう面倒だったためらしい。
まぁ、すべては父親の命令だったそうだ。
それにしても警察がつく嘘じゃなくないか?
バカな俺や気のいい両親は信じまってたぜ……?
本当に悪い根性してるよなぁ……
なぁ、理沙。一体、今までどんな気持ちで……
「なーつきくんっ」
ドゴン
今朝も、ほら、信号待ちをしているチャリ登校の俺の背中を、意味もなく思いっきり殴る彼女がいる。
幻なんかじゃない。
俺がこの五年間ずっとずっと雲をつかむような思いで探していた、大好きな僕の……。
「でも、普通に痛い……」
「ん?どした?」
「いや、今日もいい天気だなぁと思って……」
理沙が転校して来てから一週間くらい経ったけど、なんだか傷口に触れてしまうような気がして、山ほどある聞きたいことがまだまだ聞けていない。
「って、なんか昔とキャラ変わってないか?」
「すれたんだもん」
「す、すれた……」
そりゃ、すれもするか……。
「理沙」
もし俺があの当時、もう少し頼りになる存在だったら、彼女を守ることができたのだろうか。
「なあに?」
歩行者信号が青緑に染まった。
「一緒に逃げようか?」
俺を見つめる青い目だけが動きを止め、柔らかな風はまつ毛と髪とスカートを揺らす。
「……どこに?」
ありとあらゆるしがらみのない、二人だけの世界に。
君を、連れ去りたい。
騒ぐなと言われ、自分のせいで何か起こるのが怖かった俺は、両親にだけ事情を説明していたが、一家が丸ごといなくなってしまった後では為なす術がなかった。
もともと理沙の家が近所付き合いしていたのは俺の家族だけだったので、困惑したのは俺ら家族だけで、周りの住人の日常は何事もなかったかのように過ぎて行った。
そしてあの日に部室棟裏で理沙に聞いた話では、どうしてあの母親が娘が失踪しただなんて嘘をついたかと言うと、例えば『留学』だなんて中途半端な嘘をついたとして、俺がそのことに関して質問攻めをしてくるかもしれなかったことがそうとう面倒だったためらしい。
まぁ、すべては父親の命令だったそうだ。
それにしても警察がつく嘘じゃなくないか?
バカな俺や気のいい両親は信じまってたぜ……?
本当に悪い根性してるよなぁ……
なぁ、理沙。一体、今までどんな気持ちで……
「なーつきくんっ」
ドゴン
今朝も、ほら、信号待ちをしているチャリ登校の俺の背中を、意味もなく思いっきり殴る彼女がいる。
幻なんかじゃない。
俺がこの五年間ずっとずっと雲をつかむような思いで探していた、大好きな僕の……。
「でも、普通に痛い……」
「ん?どした?」
「いや、今日もいい天気だなぁと思って……」
理沙が転校して来てから一週間くらい経ったけど、なんだか傷口に触れてしまうような気がして、山ほどある聞きたいことがまだまだ聞けていない。
「って、なんか昔とキャラ変わってないか?」
「すれたんだもん」
「す、すれた……」
そりゃ、すれもするか……。
「理沙」
もし俺があの当時、もう少し頼りになる存在だったら、彼女を守ることができたのだろうか。
「なあに?」
歩行者信号が青緑に染まった。
「一緒に逃げようか?」
俺を見つめる青い目だけが動きを止め、柔らかな風はまつ毛と髪とスカートを揺らす。
「……どこに?」
ありとあらゆるしがらみのない、二人だけの世界に。
君を、連れ去りたい。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
ずぶ濡れで帰ったら彼氏が浮気してました
宵闇 月
恋愛
突然の雨にずぶ濡れになって帰ったら彼氏が知らない女の子とお風呂に入ってました。
ーーそれではお幸せに。
以前書いていたお話です。
投稿するか悩んでそのままにしていたお話ですが、折角書いたのでやはり投稿しようかと…
十話完結で既に書き終えてます。
夫の不貞現場を目撃してしまいました
秋月乃衣
恋愛
伯爵夫人ミレーユは、夫との間に子供が授からないまま、閨を共にしなくなって一年。
何故か夫から閨を拒否されてしまっているが、理由が分からない。
そんな時に夜会中の庭園で、夫と未亡人のマデリーンが、情事に耽っている場面を目撃してしまう。
なろう様でも掲載しております。
離婚する両親のどちらと暮らすか……娘が選んだのは夫の方だった。
しゃーりん
恋愛
夫の愛人に子供ができた。夫は私と離婚して愛人と再婚したいという。
私たち夫婦には娘が1人。
愛人との再婚に娘は邪魔になるかもしれないと思い、自分と一緒に連れ出すつもりだった。
だけど娘が選んだのは夫の方だった。
失意のまま実家に戻り、再婚した私が数年後に耳にしたのは、娘が冷遇されているのではないかという話。
事実ならば娘を引き取りたいと思い、元夫の家を訪れた。
再び娘が選ぶのは父か母か?というお話です。
【完結】王女様がお好きなら、邪魔者のわたしは要らないですか?
曽根原ツタ
恋愛
「クラウス様、あなたのことがお嫌いなんですって」
エルヴィアナと婚約者クラウスの仲はうまくいっていない。
最近、王女が一緒にいるのをよく見かけるようになったと思えば、とあるパーティーで王女から婚約者の本音を告げ口され、別れを決意する。更に、彼女とクラウスは想い合っているとか。
(王女様がお好きなら、邪魔者のわたしは身を引くとしましょう。クラウス様)
しかし。破局寸前で想定外の事件が起き、エルヴィアナのことが嫌いなはずの彼の態度が豹変して……?
小説家になろう様でも更新中
【完結】もう辛い片想いは卒業して結婚相手を探そうと思います
ユユ
恋愛
大家族で大富豪の伯爵家に産まれた令嬢には
好きな人がいた。
彼からすれば誰にでも向ける微笑みだったが
令嬢はそれで恋に落ちてしまった。
だけど彼は私を利用するだけで
振り向いてはくれない。
ある日、薬の過剰摂取をして
彼から離れようとした令嬢の話。
* 完結保証付き
* 3万文字未満
* 暇つぶしにご利用下さい
2番目の1番【完】
綾崎オトイ
恋愛
結婚して3年目。
騎士である彼は王女様の護衛騎士で、王女様のことを何よりも誰よりも大事にしていて支えていてお護りしている。
それこそが彼の誇りで彼の幸せで、だから、私は彼の1番にはなれない。
王女様には私は勝てない。
結婚3年目の夫に祝われない誕生日に起こった事件で限界がきてしまった彼女と、彼女の存在と献身が当たり前になってしまっていたバカ真面目で忠誠心の厚い騎士の不器用な想いの話。
※ざまぁ要素は皆無です。旦那様最低、と思われる方いるかもですがそのまま結ばれますので苦手な方はお戻りいただけると嬉しいです
自己満全開の作品で個人の趣味を詰め込んで殴り書きしているため、地雷多めです。苦手な方はそっとお戻りください。
批判・中傷等、作者の執筆意欲削られそうなものは遠慮なく削除させていただきます…
【完結】要らないと言っていたのに今更好きだったなんて言うんですか?
星野真弓
恋愛
十五歳で第一王子のフロイデンと婚約した公爵令嬢のイルメラは、彼のためなら何でもするつもりで生活して来た。
だが三年が経った今では冷たい態度ばかり取るフロイデンに対する恋心はほとんど冷めてしまっていた。
そんなある日、フロイデンが「イルメラなんて要らない」と男友達と話しているところを目撃してしまい、彼女の中に残っていた恋心は消え失せ、とっとと別れることに決める。
しかし、どういうわけかフロイデンは慌てた様子で引き留め始めて――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる