残す跡は、恋

小春佳代

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細かく刻まれた夕陽が水面にかれ、きらきらと優しく反射している。

「寒っ」

制服の上から薄茶色のダッフルコートとボリュームのある赤いマフラーで身を包んだ私は、大きな池のある公園のベンチに一人で。

「今日もあいつが余計なことしてきたの」

鴨さんと対話していた。

「真中先輩に、あんなばかが知り合いだと思われ続けるのってひどくない?」

対話?
鴨さんは水面のきらめきの中、夕陽がにじむ西の方にくちばしを向けてぷかぷか浮かんでいるだけだ。

「ひどいよね。そう思うでしょ?ねえ。鴨さん!」

ピコン

音がしたカバンの内ポケットからスマホを取り出そうとした時に手に触れた物、それは。

「もう中でカピカピになってるよ」

思わずそう口にして取り上げたのは、赤く光沢した包み紙に入っているあめ

あれは、入部して初めての他校との練習試合。開始早々私は得意技の小手こてで勝負をしようと、竹刀を持つ自分の手首を小さい範囲で素早く動かし、相手の手首に向けて気持ちと共にぶつかっていった。結果、その技はあっさり竹刀で払いのけられた挙句あげく、相手の勢いのままに面を打たれて負けてしまった。そんな風に一発で勝負が決まってしまった、悔しさと悲しさといったら……。だってHR後はいつも道場までダッシュして、一番乗りで素振すぶりしてたんだもん。努力すれば勝てるんじゃなかったの?

他校の道場から帰るバスに乗る前、落ち込みが滲み出たぎこちない笑顔を抱えていたら、いきなりジャージの肩の部分を引っ張られた。

反射的に振り向くとそこには、赤い光沢物とつまむ指。

指の先に居た真中先輩は、何も言わず。

微笑んだ。

あの時の飴が何ヶ月もカバンの内ポケットに入っている。

食べられないし、捨てられないし。

想いはつのるし、息苦しい。

「ねえ、鴨さん。最近真中先輩と喋ったの、いつだっけ?」
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