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五
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ボストンバッグを手渡すたび、心が潤いを取り戻しているような心地になった。
バッグの取っ手を通して繋がる、寒さに悴かじかむお互いの手。いつしか取っ手を介さずとも繋がるようになったのは、春の陽気のせいだったかもしれない。
私は幸せだった。
4月から私たちは高校三年生なりの責務を負いながらも、二人で過ごす時間を大切に扱った。
しとしと雨が降り続いても、暑さに身が焦げそうになっても、木枯らしが吹き荒れても、手は繋がれたまま。
見上げると雪の結晶がこの地に向かって舞い落ち、責務が全うされ得る時期に差し掛かっていた。
会いたくて、会いたくて、雪解け道を走り出す。
いつもは駅で待っている身だけど、今日ばかりは私から向かって行くの。
前方から彼の姿が見えた時、私の足元に大きな水たまりが現れて、カエルのように思いっきり跳んだ。
「見て、見て」
ぴょんぴょん跳ねるような気持ちで、歩いて来る彼に白い紙をかざす。
「受かった、受かった」
待ち合わせを約束したメールの雰囲気から、すでに良い知らせだということは気づかれていただろう。それでも会って伝えたかった。
「おめでとう」
彼は微笑んだ。
もう歩みを止めて目の前にいる彼に、想いをぶつける。
「私、やっと自立できる道が見えてきた気がするのっ」
彼は石像のように微笑みを湛たたえている。
「こうなったら、幼稚園の先生に向かってまっしぐらだよっ」
考えたこともなかった。
「それにね、お父さんが、大学生になったら一人暮らししていいって」
彼が私といた理由。
「そうだ、今まで支えてくれたお返しに料理いっぱい作るね」
だって彼は。
「ずっと誰かの世話になりっぱなしだったけど」
居場所のないおたまじゃくしに慈悲深く水を注ぐ行為が好きで。
「もう、自分でどうにかできるから」
どこにでも行けるカエルには興味がないんだから。
バッグの取っ手を通して繋がる、寒さに悴かじかむお互いの手。いつしか取っ手を介さずとも繋がるようになったのは、春の陽気のせいだったかもしれない。
私は幸せだった。
4月から私たちは高校三年生なりの責務を負いながらも、二人で過ごす時間を大切に扱った。
しとしと雨が降り続いても、暑さに身が焦げそうになっても、木枯らしが吹き荒れても、手は繋がれたまま。
見上げると雪の結晶がこの地に向かって舞い落ち、責務が全うされ得る時期に差し掛かっていた。
会いたくて、会いたくて、雪解け道を走り出す。
いつもは駅で待っている身だけど、今日ばかりは私から向かって行くの。
前方から彼の姿が見えた時、私の足元に大きな水たまりが現れて、カエルのように思いっきり跳んだ。
「見て、見て」
ぴょんぴょん跳ねるような気持ちで、歩いて来る彼に白い紙をかざす。
「受かった、受かった」
待ち合わせを約束したメールの雰囲気から、すでに良い知らせだということは気づかれていただろう。それでも会って伝えたかった。
「おめでとう」
彼は微笑んだ。
もう歩みを止めて目の前にいる彼に、想いをぶつける。
「私、やっと自立できる道が見えてきた気がするのっ」
彼は石像のように微笑みを湛たたえている。
「こうなったら、幼稚園の先生に向かってまっしぐらだよっ」
考えたこともなかった。
「それにね、お父さんが、大学生になったら一人暮らししていいって」
彼が私といた理由。
「そうだ、今まで支えてくれたお返しに料理いっぱい作るね」
だって彼は。
「ずっと誰かの世話になりっぱなしだったけど」
居場所のないおたまじゃくしに慈悲深く水を注ぐ行為が好きで。
「もう、自分でどうにかできるから」
どこにでも行けるカエルには興味がないんだから。
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