注ぐは、水と

小春佳代

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命に水を注ぐ音がする。

「何してるの?」

私たちはまだ赤と黒のランドセルで色付けられている途中。

「助けてる」

彼が持つプリンのカップから注がれるのは小川の水。

「おたまじゃくし?」

日の光を水面に眩しいほど反射させていた田んぼも、今やすっかり地表を覗かせ。点々と残る小さな水たまりのひとつに、いくつもの黒い小さな命が行く当てもなくつるつると絶えず泳いでいる。

「こいつら、生まれるのが遅かったのかな?」

彼は慈悲深い視線も注ぐ。

「ちょっと前まで他のは、こーんなに広いとこ泳いでたのにね」

私は視線を少し上げ、さらさら風に揺れ広がる緑の稲を眼球に映した。

ふと隣を見ると誰もいない。

彼はまた小川から、プリンのカップに水をくんで戻って来るところだった。

「おたまじゃくし、好きなの?」

命に水を注ぐ音がする。

「嫌いじゃない」

彼は慈悲深い視線も注ぐ。

「……カエルは?」

顔を上げた彼の眼球が、この地に広がる緑色を含んだ。

「あいつらは、だって」

風が止んだ。

「どこにでもいけるだろ?」
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