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悪役令嬢、煽る

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「女子供に手をあげるなんて、騎士どころか男の風上にも置けない方ですこと」

 メイソンが振り上げた手は、私の発言と共にピタリと止まった。

「なっ・・・」

「きっとワイアット騎士団長様も、お褒めくださるでしょうね?」

 嫌味たっぷりに言うと、メイソンは顔を顰めたけど、さすがに私に言い返す度胸はなかったみたい。

 そりゃそうでしょ。
メイソンも一応?ワイアット侯爵家の嫡男だけど、私は筆頭公爵家の娘。

 それにワイアット侯爵様は、清廉で騎士の中の騎士と言っていいくらいまっすぐな方。

 女子供に手をあげたなんて知ったら、メイソンはボッコボコに殴られた上に、剣も取り上げられるだろうし、廃籍もされるでしょうね。

 私に父親に自分の所業をバラされたら、とビビってるってこと。

 もちろん、バラすわよ。

 シシリーがメイソンと婚約したのは、ワイアット侯爵家からの申し込みで、身分が上の侯爵家からの申し込みを断り辛かったのと、ワイアット侯爵夫妻が立派な方だったから。

 この両親の息子なら、と思えたのと、メイソンが騎士になる夢を持っていることで、腐ることはないだろうと思えたからだそう。

 確かにメイソンは脳筋だから、当主業は無理だと思うし、剣の腕は確かに良い。

 一応は、乙女ゲームの攻略対象だから、ちょっと直情的なところはあるけど、その分まっすぐな愛情を向けていた・・・ヒロインには。

 そう。
メイソンの良さは、ヒロイン限定なのよ。

 乙女ゲームの場合は、それで良いと思う。婚約者がいない状態だもの。

 でもラノベ版になって、悪役令嬢を出すためなのか婚約者が出来ると・・・

 総じて全員が、屑になったわ。

 当然よね。婚約者がいながら他の女性に傾倒するんだもの。

 挙げ句に、婚約者に婚約破棄を突きつけるのよ。

 悪役令嬢がしたことは正しくないかもしれないけど、発端はお前らだ!って言いたいわよ。

 浮気しておきながら、自分の行動を正当化するんじゃないわよ。

 そんなことを考えていたからだと思う。

 少々、辛辣な言い方をしてしまった。

「ワイアット侯爵様はどうおっしゃるかしら。婚約者がいながら、他のご令嬢と懇意にしているなんて人として最低ですわ。そんな殿方と婚約なんて、プライウッド様もおかわいそうに」

「ッ!ふ、ふざけるなぁっ!」

「ふざけてるのはどっちだい?」

 怒りから私に向かって振り上げられた手が、私に当たる前に掴まれた。

「メイソン。きみ、誰に向かって手をあげてるの?」

 冷ややかな声と裏腹に、掴まれた腕はギリギリと捻りあげられていく。

「いっ・・・イダダダダダダ!はっ、離せっ!う、腕が折れるっ!」

 体格差で言うなら、メイソンの方ががっしりしているのに、カイルは容易くメイソンの腕を捻りあげていた。

 おおっ。かっこいい。
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