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悪役令嬢、キレる

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「ペイジ嬢、大丈夫か?とにかくこちらに」

 ダミアンが濡れたドレスのメロディに手を差し出す。

 その様子に私が頷くと、使用人がすぐに屋敷内へと案内する。

 どうやらカイルの予想通り、ダミアンとメロディの距離が縮まるきっかけにはなったようだ。

 何故なら、ダミアンは頼むでなく、メロディをエスコートして行ったから。

 一方、立ち去ろうとするダミアンを引き止めようと手を伸ばしたマチルダだが、ダミアンは振り返りもせず使用人に案内され屋敷へと入っていく。

 彼らの姿が消えるのを確認して、私はマチルダへと近付く。

「ゾルガー侯爵令嬢。何をなさったか、ご理解されていまして?」

「あ、アデライン様・・・」

「躓くこともあるでしょう。ですが何故、紅茶を手に歩いてらしたの?まさか侯爵令嬢ともあろう方が、お茶会のマナーすら習得していないとでもおっしゃるのかしら?」

 このお茶会は、公爵令嬢である私が主催し、王太子であるダミアンの婚約者候補を選ぶ目的で開催され、王家の離宮を借りて行っている。

 ダミアンの婚約者候補は、能力優先で家格は問わないという体で集めている。

 だけどこの場には、主催者である私はもちろん、その婚約者で公爵令息のカイル、私の兄である公爵家嫡男、その婚約者の侯爵令嬢が揃っているのだ。

 この場でつまらない失態を犯すことがどういう結末を生むのか、それを予想出来なかったのだろうか。

「わ、私は・・・」

「僕の大切なシアが主催してるお茶会で、何してくれてるのかな。もしかして、僕の最愛のシアを貶めるつもりなのかな?」

「ちっ、違いますっ!私は、私はただ、ダミアン様に相応しい相手をと・・・」

「それが自分だとでも言うつもりかしら?お茶会の作法も理解していない方が?私、申し上げておきましたわよね?王太子殿下の婚約者候補は、家格を問わず王太子妃に相応しい能力のある方で、しかも殿下が選ばれた方がなるべきだと」

 としてお茶会への参加を認めたけど、マチルダがこの先ちゃんと勉強してAクラス入りし、周囲に認められる人間になる可能性が全くないとは言えない。

 だから馬鹿な真似をしなければ良いと、一応は思っていたのに。

「家格だけで人を見下すなんて、それはゾルガー侯爵家の総意かしら?」

「あ、アデライン様は、あの男爵令嬢が王太子妃に相応しいと言われるのですか?」

「何を勘違いされてるのか知りませんけど、決めるのは殿下でしてよ?私はあくまでも場を提供したに過ぎませんわ」

 マチルダが救われたように顔を上げたけど、直後に響いた声にその場に崩れ落ちた。

「人を貶めようとする人間を、僕が選ぶことはない」
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