上 下
128 / 144
最終章

初めて恋を知ったら怖くなったの

しおりを挟む
「お母様っ」

 あの後、イヴァン様の手を振り切ってお母様のお部屋へと逃げ込んだ。

 イヴァン様は、追いかけて来なかった。
もしかして呆れられてしまったのかしら?

 そう思った途端に、胸の奥が軋むように痛んだ。

 自分で逃げてきておいて、なんて図々しいの。

 自分の醜さに嫌気がさす。
私って、こんなだった?自分を嫌になることなんてなかったのに。

 抱きついたまま何も言おうとしない私に、お母様は優しく背中をトントンとたたいてくれる。

「どうしたの?レティーナ。アストニア様に好きだと言われたのかしら?」

「え?あ、ど、どうして?」

「ふふっ。だってアストニア様は、レティーナのことを好きだもの。だから、女避けだと言いながら、周囲の令息を牽制するために婚約者になられたのよ」

 どうしてお母様はそんなことが分かるの?
 イヴァン様からお伺いしてたの?
だから婚約者(仮)になることをとめなかったの?

「まぁ直接お伺いしたわけじゃないから、絶対そうだとは言い切れないけれど。でも、アストニア様がレティーナを見る目はとてもお優しいの。レティーナを大切に思ってくれてるのが分かって、親としては嬉しかったわ」

「お母様・・・」

「それに、レティーナもアストニア様のことを好きなのがわかったから、婚約者になることを了承したのよ。アルフレッド陛下のこともあったから、今度婚約する時は絶対にレティーナが恋した相手にしようってみんなで話してたの」

 私が・・・イヴァン様に恋をしてるって、お母様はそう見えたの?

「私は・・・自分の気持ちがよくわかりません。確かにイヴァン様は素敵な方で、お優しいとは思いますが、これが恋なのか私には・・・」

「そうね。レティーナにとっては、初恋だものね。私たちがレティーナが恋をしていると思ったのはね、レティーナがいつもアストニア様を見ていたからよ。いつも視線はアストニア様を探していて、見つけるとすごくホッとした表情になるの。アストニア様とメイドやリリアナが話しかけていると、どこかムッとした顔をしててね。ああ。レティーナは恋をしているんだって思ったの」

「そう、なのですね」

 私は、全然気付いてなかった。自分の気持ちなのに。

 でも、確かにイヴァン様のお姿がないと探してしまっていたわ。

 これが、恋だというの?

 この気持ちが恋だというのなら、私は怖くて仕方がない。

 私は、アズリル殿下やキャス様のように、恋をして強くなれない。

 私は恋を知ったことで、失う怖さに身動きが取れなくなる気がした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結済】逆恨みで婚約破棄をされて虐待されていたおちこぼれ聖女、隣国のおちぶれた侯爵家の当主様に助けられたので、恩返しをするために奮闘する

ゆうき@初書籍化作品発売中
恋愛
偉大な聖女であった母を持つ、落ちこぼれ聖女のエレナは、婚約者である侯爵家の当主、アーロイに人殺しの死神として扱われ、牢に閉じ込められて酷い仕打ちを受ける日々を送っていた。 そんなエレナは、今は亡き母の遺言に従って、必死に耐える日々を送っていたが、同じ聖女の力を持ち、母から教えを受けていたジェシーによってアーロイを奪われ、婚約破棄を突き付けられる。 ここにいても、ずっと虐げられたまま人生に幕を下ろしてしまう――そんなのは嫌だと思ったエレナは、二人の結婚式の日に屋敷から人がいなくなった隙を突いて、脱走を決行する。 なんとか脱走はできたものの、著しく落ちた体力のせいで川で溺れてしまい、もう駄目だと諦めてしまう。 しかし、偶然通りかかった隣国の侯爵家の当主、ウィルフレッドによって、エレナは一命を取り留めた。 ウィルフレッドは過去の事故で右の手足と右目が不自由になっていた。そんな彼に恩返しをするために、エレナは聖女の力である回復魔法を使うが……彼の怪我は深刻で、治すことは出来なかった。 当主として家や家族、使用人達を守るために毎日奮闘していることを知ったエレナは、ウィルフレッドを治して幸せになってもらうために、彼の専属の聖女になることを決意する―― これは一人の落ちこぼれ聖女が、体が不自由な男性を助けるために奮闘しながら、互いに惹かれ合って幸せになっていく物語。 ※全四十五話予定。最後まで執筆済みです。この物語はフィクションです。

継母の心得

トール
恋愛
【本編第一部完結済、2023/10〜第二部スタート ☆書籍化 2024/11/22ノベル5巻、コミックス1巻同時刊行予定☆】 ※継母というテーマですが、ドロドロではありません。ほっこり可愛いを中心に展開されるお話ですので、ドロドロ重い、が苦手の方にもお読みいただけます。 山崎 美咲(35)は、癌治療で子供の作れない身体となった。生涯独身だと諦めていたが、やはり子供は欲しかったとじわじわ後悔が募っていく。 治療の甲斐なくこの世を去った美咲が目を覚ますと、なんと生前読んでいたマンガの世界に転生していた。 不遇な幼少期を過ごした主人公が、ライバルである皇太子とヒロインを巡り争い、最後は見事ヒロインを射止めるというテンプレもののマンガ。その不遇な幼少期で主人公を虐待する悪辣な継母がまさかの私!? 前世の記憶を取り戻したのは、主人公の父親との結婚式前日だった! 突然3才児の母親になった主人公が、良い継母になれるよう子育てに奮闘していたら、いつの間にか父子に溺愛されて……。 オタクの知識を使って、子育て頑張ります!! 子育てに関する道具が揃っていない世界で、玩具や食器、子供用品を作り出していく、オタクが行う異世界育児ファンタジー開幕です! 番外編は10/7〜別ページに移動いたしました。

政略結婚した夫の愛人は私の専属メイドだったので離婚しようと思います

結城芙由奈 
恋愛
浮気ですか?どうぞご自由にして下さい。私はここを去りますので 結婚式の前日、政略結婚相手は言った。「お前に永遠の愛は誓わない。何故ならそこに愛など存在しないのだから。」そして迎えた驚くべき結婚式と驚愕の事実。いいでしょう、それほど不本意な結婚ならば離婚してあげましょう。その代わり・・後で後悔しても知りませんよ? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載中

異世界を満喫します~愛し子は最強の幼女

かなかな
ファンタジー
異世界に突然やって来たんだけど…私これからどうなるの〜〜!? もふもふに妖精に…神まで!? しかも、愛し子‼︎ これは異世界に突然やってきた幼女の話 ゆっくりやってきますー

攻略対象の王子様は放置されました

白生荼汰
恋愛
……前回と違う。 お茶会で公爵令嬢の不在に、前回と前世を思い出した王子様。 今回の公爵令嬢は、どうも婚約を避けたい様子だ。 小説家になろうにも投稿してます。

【完結】悪役令嬢に転生したのでこっちから婚約破棄してみました。

ぴえろん
恋愛
私の名前は氷見雪奈。26歳彼氏無し、OLとして平凡な人生を送るアラサーだった。残業で疲れてソファで寝てしまい、慌てて起きたら大好きだった小説「花に愛された少女」に出てくる悪役令嬢の「アリス」に転生していました。・・・・ちょっと待って。アリスって確か、王子の婚約者だけど、王子から寵愛を受けている女の子に嫉妬して毒殺しようとして、その罪で処刑される結末だよね・・・!?いや冗談じゃないから!他人の罪で処刑されるなんて死んでも嫌だから!そうなる前に、王子なんてこっちから婚約破棄してやる!!

“用済み”捨てられ子持ち令嬢は、隣国でオルゴールカフェを始めました

古森きり
恋愛
産後の肥立が悪いのに、ワンオペ育児で過労死したら異世界に転生していた! トイニェスティン侯爵令嬢として生まれたアンジェリカは、十五歳で『神の子』と呼ばれる『天性スキル』を持つ特別な赤子を処女受胎する。 しかし、召喚されてきた勇者や聖女に息子の『天性スキル』を略奪され、「用済み」として国外追放されてしまう。 行き倒れも覚悟した時、アンジェリカを救ったのは母国と敵対関係の魔人族オーガの夫婦。 彼らの薦めでオルゴール職人で人間族のルイと仮初の夫婦として一緒に暮らすことになる。 不安なことがいっぱいあるけど、母として必ず我が子を、今度こそ立派に育てて見せます! ノベルアップ+とアルファポリス、小説家になろう、カクヨムに掲載しています。

婚約破棄してたった今処刑した悪役令嬢が前世の幼馴染兼恋人だと気づいてしまった。

風和ふわ
恋愛
タイトル通り。連載の気分転換に執筆しました。 ※なろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、pixivに投稿しています。

処理中です...