虐げられ令嬢の最後のチャンス〜今度こそ幸せになりたい

最終章

それから

　ファンブルク王国に戻って、二年が経った。

　ラウルお兄様とリリアナお義姉様には、王太子が生まれて、私は十三歳にして叔母さんになった。

　お父様とお母様は、初孫が可愛くて仕方ないみたいで、デレデレに甘やかしている。

　金髪に青い瞳の甥っ子は、お兄様の赤ちゃんの頃にそっくりらしくて、確かに可愛い。

　リクルと名付けられた甥っ子は可愛い。
可愛いけど、お兄様が私のことを「リクル。レティーナおばちゃんだよ」って言うのはムカついた。

　デリカシーのないお兄様の足を、思い切り踏んで差し上げたわ。

　シスコンはどうなったのよ。
可愛いお嫁さんをもらったら、妹のことなんてどうでもいいのね。

　アルフレッド陛下は、私との婚約を解消した半年後、フルール様と改めて婚約を結んだ。

　そして今年に入ってすぐに、結婚された。

　穏やかで、でも芯の強いフルール様はきっと、アルフレッド陛下の皆んなには見せない弱いところを支えていかれるだろう。

　私はというと・・・

「セレナ。やっぱりブラウンのにしない？」

「ですが・・・」

「なに？僕とお揃いのは嫌なの？」

　王立学園の入学式に着ていくドレスを選んでいた私は、セレナとの会話に割り込んできた声に、ピクリと肩を揺らした。

「あ、アストニア様・・・」

　おそるおそる振り返る私と対照的に、セレナは慣れたもので恭しく礼をしてそのドレス以外を全て片付けて部屋から下がってしまった。

　待って。
置いていかないで。

「こないだ、約束したよね？魔法の制御失敗した時にさ」

「・・・はい」

　アストニア様は、あれからずっと我が国で過ごされている。

　時々、サウスクラウド王国に転移陣を使って戻られているみたいだけど、帰国される様子はない。

　我が国には、魔法を使える人間はいない。
　だから退屈されると思っていたのだけど、逆に物珍しかったみたい。

　私に魔法を教えてくれながら、騎士団の訓練を見たりして過ごされている。

　ファンブルクを気に入ってくれたのは嬉しいけど、帰らなくてもいいのかしら？とお母様にお聞きしたら、アルフレッド陛下は「アイツは言ってもきかないから」と言われたとか。

　サウスクラウド王国では、魔力持ちの方は学園に通うそうだから、その時期には戻られると思っていたら、ファンブルクの学園に通うつもりだとおっしゃるの。

　ファンブルクの学園は、貴族が通うの。
　アストニア様が平民だとは思えないけど、アストニア様が通う価値があるとは思えない。

　だって、貴族の在り方を学ぶ学園だもの。魔法の授業もないし、つまらないんじゃないかしら。