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新たな舞台へ

お別れと、え?ええ?

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 お母様とアルフレッド陛下とのお話は、夕方近くに終わり、転移門の撤去もあるので、ファンブルク王国に戻るのは明日、となった。

 私とアルフレッド陛下の婚約は、高位貴族の方々にしか周知されていなかった。

 陛下の成婚は、国民も今か今かと望んでいることらしく、それが婚約したのが八歳も年下の子供で成婚するのが五年も先になるとバレるのはまずいということらしい。

 婚約を白紙に戻す書類にお母様とサインをして、私はアルフレッド陛下の婚約者でなくなった。

 胸の奥が、ほんの少し痛んだ気がした。

 政略結婚だから。王女としての務めだから。
 でも、アルフレッド陛下の私へのお気持ちを嬉しく思わなかったわけじゃない。

 私は過去四回とも、まともに婚約者や夫に愛されなかった。

 だから、ここまで想って下さるアルフレッド陛下となら幸せになれる。

 そう思った。

 その結果が、アルフレッド陛下の御世を揺るがすかもしれない事態を引き起こすところだった。

 もちろん、そうならなかったかもしれない。
 努力し続けていて、時が経てば、みんな私を認めてくれたかもしれない。

 でも、もしかしたらの話だとしても、私は決断したのだ。

 いつかアルフレッド陛下への想いが恋だったと後悔する日が来るとしても、別れを決めたのだ。

 だから、私が俯いていてはいけない。

 アルフレッド陛下に、フルール様に、お世話になった王宮の方々に、アストニア様に、ちゃんと笑顔でお礼を言って、お別れしよう。

 と思っていたのだけど。

「え?アストニア様?」

 アストニア様がカバンを提げて私とお母様の隣にいるの?

 あ。もしかして、アストニア様自らが転移門の撤去を?

「あー、レティーナ嬢。イヴァンがレティーナ嬢は魔法を覚え始めたばかりだから、しばらく様子を見ていないと魔力が暴走するかもしれない、と言うんだ」

「えっ?」

 魔力の暴走?
それって、死亡フラグなのでは?

「も、申し訳ございません。アストニア様にご迷惑をおかけしてしまって」

 それでも自分のことより、他国の方の手と時間を煩わすことを詫びる。

 だけど、アルフレッド陛下は苦笑混じりに首を横に振った。

「イヴァンは、嬉々として付いていくと報告に来たよ。行かせてくれでなく、行くからよろしく、とね。イヴァンはこの国から出たことがない。だから随分と楽しみにしているようだ。こちらこそ迷惑をかけるかもしれないが、よろしくお願いする」

「何もない小さな国ですが、それでも宜しければ」

「イヴァン。定期連絡を怠るなよ」

「分かってる」

 ブスッと応えたアストニア様は、さっさと転移門に魔力を流す。

「レティーナ嬢。元気で」

「はい。アルフレッド陛下もどうかお体を大切になさって下さい」

 差し出された手に、自分のそれを重ねる。
 ずっと繋いでいくつもりだった手は、とても温かかった。


 

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