104 / 144
新たな舞台へ
お別れと、え?ええ?
しおりを挟む
お母様とアルフレッド陛下とのお話は、夕方近くに終わり、転移門の撤去もあるので、ファンブルク王国に戻るのは明日、となった。
私とアルフレッド陛下の婚約は、高位貴族の方々にしか周知されていなかった。
陛下の成婚は、国民も今か今かと望んでいることらしく、それが婚約したのが八歳も年下の子供で成婚するのが五年も先になるとバレるのはまずいということらしい。
婚約を白紙に戻す書類にお母様とサインをして、私はアルフレッド陛下の婚約者でなくなった。
胸の奥が、ほんの少し痛んだ気がした。
政略結婚だから。王女としての務めだから。
でも、アルフレッド陛下の私へのお気持ちを嬉しく思わなかったわけじゃない。
私は過去四回とも、まともに婚約者や夫に愛されなかった。
だから、ここまで想って下さるアルフレッド陛下となら幸せになれる。
そう思った。
その結果が、アルフレッド陛下の御世を揺るがすかもしれない事態を引き起こすところだった。
もちろん、そうならなかったかもしれない。
努力し続けていて、時が経てば、みんな私を認めてくれたかもしれない。
でも、もしかしたらの話だとしても、私は決断したのだ。
いつかアルフレッド陛下への想いが恋だったと後悔する日が来るとしても、別れを決めたのだ。
だから、私が俯いていてはいけない。
アルフレッド陛下に、フルール様に、お世話になった王宮の方々に、アストニア様に、ちゃんと笑顔でお礼を言って、お別れしよう。
と思っていたのだけど。
「え?アストニア様?」
何故アストニア様がカバンを提げて私とお母様の隣にいるの?
あ。もしかして、アストニア様自らが転移門の撤去を?
「あー、レティーナ嬢。イヴァンがレティーナ嬢は魔法を覚え始めたばかりだから、しばらく様子を見ていないと魔力が暴走するかもしれない、と言うんだ」
「えっ?」
魔力の暴走?
それって、死亡フラグなのでは?
「も、申し訳ございません。アストニア様にご迷惑をおかけしてしまって」
それでも自分のことより、他国の方の手と時間を煩わすことを詫びる。
だけど、アルフレッド陛下は苦笑混じりに首を横に振った。
「イヴァンは、嬉々として付いていくと報告に来たよ。行かせてくれでなく、行くからよろしく、とね。イヴァンはこの国から出たことがない。だから随分と楽しみにしているようだ。こちらこそ迷惑をかけるかもしれないが、よろしくお願いする」
「何もない小さな国ですが、それでも宜しければ」
「イヴァン。定期連絡を怠るなよ」
「分かってる」
ブスッと応えたアストニア様は、さっさと転移門に魔力を流す。
「レティーナ嬢。元気で」
「はい。アルフレッド陛下もどうかお体を大切になさって下さい」
差し出された手に、自分のそれを重ねる。
ずっと繋いでいくつもりだった手は、とても温かかった。
私とアルフレッド陛下の婚約は、高位貴族の方々にしか周知されていなかった。
陛下の成婚は、国民も今か今かと望んでいることらしく、それが婚約したのが八歳も年下の子供で成婚するのが五年も先になるとバレるのはまずいということらしい。
婚約を白紙に戻す書類にお母様とサインをして、私はアルフレッド陛下の婚約者でなくなった。
胸の奥が、ほんの少し痛んだ気がした。
政略結婚だから。王女としての務めだから。
でも、アルフレッド陛下の私へのお気持ちを嬉しく思わなかったわけじゃない。
私は過去四回とも、まともに婚約者や夫に愛されなかった。
だから、ここまで想って下さるアルフレッド陛下となら幸せになれる。
そう思った。
その結果が、アルフレッド陛下の御世を揺るがすかもしれない事態を引き起こすところだった。
もちろん、そうならなかったかもしれない。
努力し続けていて、時が経てば、みんな私を認めてくれたかもしれない。
でも、もしかしたらの話だとしても、私は決断したのだ。
いつかアルフレッド陛下への想いが恋だったと後悔する日が来るとしても、別れを決めたのだ。
だから、私が俯いていてはいけない。
アルフレッド陛下に、フルール様に、お世話になった王宮の方々に、アストニア様に、ちゃんと笑顔でお礼を言って、お別れしよう。
と思っていたのだけど。
「え?アストニア様?」
何故アストニア様がカバンを提げて私とお母様の隣にいるの?
あ。もしかして、アストニア様自らが転移門の撤去を?
「あー、レティーナ嬢。イヴァンがレティーナ嬢は魔法を覚え始めたばかりだから、しばらく様子を見ていないと魔力が暴走するかもしれない、と言うんだ」
「えっ?」
魔力の暴走?
それって、死亡フラグなのでは?
「も、申し訳ございません。アストニア様にご迷惑をおかけしてしまって」
それでも自分のことより、他国の方の手と時間を煩わすことを詫びる。
だけど、アルフレッド陛下は苦笑混じりに首を横に振った。
「イヴァンは、嬉々として付いていくと報告に来たよ。行かせてくれでなく、行くからよろしく、とね。イヴァンはこの国から出たことがない。だから随分と楽しみにしているようだ。こちらこそ迷惑をかけるかもしれないが、よろしくお願いする」
「何もない小さな国ですが、それでも宜しければ」
「イヴァン。定期連絡を怠るなよ」
「分かってる」
ブスッと応えたアストニア様は、さっさと転移門に魔力を流す。
「レティーナ嬢。元気で」
「はい。アルフレッド陛下もどうかお体を大切になさって下さい」
差し出された手に、自分のそれを重ねる。
ずっと繋いでいくつもりだった手は、とても温かかった。
18
お気に入りに追加
480
あなたにおすすめの小説
もう我慢しなくて良いですか? 【連載中】
青緑
恋愛
女神に今代の聖女として選定されたメリシャは二体の神獣を授かる。
親代わりの枢機卿と王都を散策中、王子によって婚約者に選ばれてしまう。法衣貴族の娘として学園に通う中、王子と会う事も関わる事もなく、表向き平穏に暮らしていた。
ある辺境で起きた魔物被害を食い止めたメリシャは人々に聖女として認められていく。しかしある日、多くの王侯貴族の前で王子から婚約破棄を言い渡されてしまう。長い間、我儘な王子に我慢してきた聖女は何を告げるのか。
———————————
本作品は七日から十日おきでの投稿を予定しております。
更新予定時刻は投稿日の17時を固定とさせていただきます。
誤字・脱字をお知らせしてくださると、幸いです。
読み難い箇所のお知らせは、何話の修正か記載をお願い致しますm(_ _)m
※40話にて、近況報告あり。
※52話より、次回話の更新をお知らせします。
異世界を満喫します~愛し子は最強の幼女
かなかな
ファンタジー
異世界に突然やって来たんだけど…私これからどうなるの〜〜!?
もふもふに妖精に…神まで!?
しかも、愛し子‼︎
これは異世界に突然やってきた幼女の話
ゆっくりやってきますー
次期女領主の結婚問題
ナナカ
恋愛
幼い頃に決まった婚約者は、私の従妹に恋をした。
そんな二人を円満に結婚させたのは私だ。なのになぜ「悲劇の女」と思い込むのか……。
地方大領主マユロウ伯爵の長女カジュライアは、誰もが認める次期女領主。しかし年下の婚約者は従妹に恋をした。だから円満に二人を結婚させたのに、2年経った今でも「悲劇の女」扱いをされてうんざりしている。
そんなカジュライアに、突然三人の求婚者が現れた。いずれも女領主の夫に相応しいが、野心や下心を隠さず一筋縄ではいかない人物ばかり。求婚者たちに囲まれて収拾がつかないのに、なぜかのどかな日々が続く。しかし心地よい日々の中で求婚者たちの態度が少しずつ変わっていく。
※他所で連載した「すべては運命のままに」を一部改稿したものです
夫が「愛していると言ってくれ」とうるさいのですが、残念ながら結婚した記憶がございません
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
【完結しました】
王立騎士団団長を務めるランスロットと事務官であるシャーリーの結婚式。
しかしその結婚式で、ランスロットに恨みを持つ賊が襲い掛かり、彼を庇ったシャーリーは階段から落ちて気を失ってしまった。
「君は俺と結婚したんだ」
「『愛している』と、言ってくれないだろうか……」
目を覚ましたシャーリーには、目の前の男と結婚した記憶が無かった。
どうやら、今から二年前までの記憶を失ってしまったらしい――。
【完結済】逆恨みで婚約破棄をされて虐待されていたおちこぼれ聖女、隣国のおちぶれた侯爵家の当主様に助けられたので、恩返しをするために奮闘する
ゆうき@初書籍化作品発売中
恋愛
偉大な聖女であった母を持つ、落ちこぼれ聖女のエレナは、婚約者である侯爵家の当主、アーロイに人殺しの死神として扱われ、牢に閉じ込められて酷い仕打ちを受ける日々を送っていた。
そんなエレナは、今は亡き母の遺言に従って、必死に耐える日々を送っていたが、同じ聖女の力を持ち、母から教えを受けていたジェシーによってアーロイを奪われ、婚約破棄を突き付けられる。
ここにいても、ずっと虐げられたまま人生に幕を下ろしてしまう――そんなのは嫌だと思ったエレナは、二人の結婚式の日に屋敷から人がいなくなった隙を突いて、脱走を決行する。
なんとか脱走はできたものの、著しく落ちた体力のせいで川で溺れてしまい、もう駄目だと諦めてしまう。
しかし、偶然通りかかった隣国の侯爵家の当主、ウィルフレッドによって、エレナは一命を取り留めた。
ウィルフレッドは過去の事故で右の手足と右目が不自由になっていた。そんな彼に恩返しをするために、エレナは聖女の力である回復魔法を使うが……彼の怪我は深刻で、治すことは出来なかった。
当主として家や家族、使用人達を守るために毎日奮闘していることを知ったエレナは、ウィルフレッドを治して幸せになってもらうために、彼の専属の聖女になることを決意する――
これは一人の落ちこぼれ聖女が、体が不自由な男性を助けるために奮闘しながら、互いに惹かれ合って幸せになっていく物語。
※全四十五話予定。最後まで執筆済みです。この物語はフィクションです。
攻略対象の王子様は放置されました
白生荼汰
恋愛
……前回と違う。
お茶会で公爵令嬢の不在に、前回と前世を思い出した王子様。
今回の公爵令嬢は、どうも婚約を避けたい様子だ。
小説家になろうにも投稿してます。
見た目が地味で聖女に相応しくないと言われ追放された私は、本来の見た目に戻り隣国の聖女となりました
黒木 楓
恋愛
モルドーラ国には2人の聖女が居て、聖女の私シーファは先輩聖女サリナによって地味な見た目のままでいるよう命令されていた。
先輩に合わせるべきだと言われた私は力を抑えながら聖女活動をしていると、ある日国王に呼び出しを受けてしまう。
国王から「聖女は2人も必要ないようだ」と言われ、モルドーラ国は私を追い出すことに決めたらしい。
どうやらこれはサリナの計画通りのようで、私は国を出て住む場所を探そうとしていると、ゼスタと名乗る人に出会う。
ゼスタの提案を受けて聖女が居ない隣国の聖女になることを決めた私は、本来の見た目で本来の力を使うことを決意した。
その後、どうやら聖女を2人用意したのはモルドーラ国に危機が迫っていたからだと知るも、それに関しては残ったサリナがなんとかするでしょう。
死んで巻き戻りましたが、婚約者の王太子が追いかけて来ます。
拓海のり
恋愛
侯爵令嬢のアリゼは夜会の時に血を吐いて死んだ。しかし、朝起きると時間が巻き戻っていた。二度目は自分に冷たかった婚約者の王太子フランソワや、王太子にべったりだった侯爵令嬢ジャニーヌのいない隣国に留学したが──。
一万字ちょいの短編です。他サイトにも投稿しています。
残酷表現がありますのでR15にいたしました。タイトル変更しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる