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二度目の人生

たったひとりの家族

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 その姿を見た日から、お母様の日記には絶望感が滲み始めていた。

 それでもレティーナがいたことが、お母様にとって唯一の救いだったのだろう。

 それまで書かれていたお父様の名前が消え、レティーナのことばかりが書かれるようになった。

『旦那様とお別れしたら、皇国へ一緒に帰りましょう』

『貴女のおじいさまはとてもお優しい方なのよ』

『皇国は温暖でとても綺麗な花が咲き乱れる国なの』

 お母様は離縁を考えているようだった。
それはそうだろう。

 妻を顧みない夫と暮らして、幸せなわけがない。
 伯爵家にお母様の味方は誰もいなかったのだから、前回の私とは違うのだ。

 だけど、それは叶わなかった。
冬の寒い日、お母様は風邪をこじらせて呆気なく帰らぬ人となったのだ。

 お母様の葬儀の日。
レティーナは初めてお父様を見た。

 突然儚くなった、最愛の妻との別れを悲しむをする男性。

 当時五歳だったレティーナだけど、お母様が悲しむ原因だった父親を、恋しいとは思わなかった。

 だけど、お母様の死を悲しんでいるとそのときは信じた。

 葬儀でお母様の両親、つまりはレティーナの祖父母に「妻はきっと、サムセゾンに帰りたいと思っていると思います。どうかお優しいご両親のもとで眠らせてあげてください」と涙ながらに言っているのを聞いたからだ。

 祖父母は義息子の言葉に感謝を述べ、悲しみながらも愛娘の亡骸と共に、皇国へと帰った。

 レティーナを連れ帰らなかったのは、愛しい妻を亡くした上に愛娘まで手放したくないと父親が言ったからだ。

 だが、男ひとりで育てるのは大変だろうと言った祖父母の言葉に父親が首を横に振ったのは、お金のためだった。

 愛娘と愛しい孫娘が苦労することのないように、毎月皇国から支援金が送られていたのだ。

 つまりはレティーナがいる限り、そのお金は送られて来る。

 それが今もなおレティーナが理由だ。

 レティーナは、最初は父親が自分を思ってくれているのでは、と期待した。

 だが祖父母が帰ったのち、煩わしげに「死なないように管理しておけ」という言葉を使用人に告げ、レティーナを見ようともしない父親に、絶望した。

 それからの日記は、レティーナが引き継いで書いていた。

 父親に、この部屋に閉じ込められたこと。

 自分と年齢の変わらない子供を連れた女性が、屋敷に住み始めたこと。

 食事は固いパンとスープばかりだけど、時々その子供や女性の残り物の肉や魚が付いてくること。

 ためか、食事を残すと体罰を与えられること。

 そこに書かれていたのは、レティーナの家族はいないということだった。
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