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一度目の人生

脱出

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 平穏な日々に、どこか油断があったのかもしれない。

 契約書を交わしてから半年、お給金も払われて、何事もなく暮らせていたから、油断していたのかもしれない。

 その日の湯浴み後、妙に眠たくて、いつもより早く眠りについた。

「・・・様ッ!奥様っ!」

 ぐっすりというより、ドロリとした眠りの沼に浸かっているような、そんな私を起こしたのは、アメリーだった。

「アメリー?」

「奥様ッ!しっかりお目覚めになって下さい!大変ですっ!」

 重たい頭を、どうにか持ち上げる。
アメリーが背に手を入れて、起き上がらせてくれた。

「アメリー、一体・・・」

 なにがあったのと聞こうとして、窓の外が真っ赤なことに目を見開いた。

「え?火・・・?火事ッ?」

「窓や玄関の辺りは火の海です。どこか少しでも火を避けれる場所へお逃げ下さい」

「避けれるっていっても・・・あ、ラナは?」

 私の問いに、アメリーは悲痛な表情を浮かべた。

「奥様。多分・・・多分ですが、奥様に眠り薬を盛ったのはラナです」

「な、何故、ラナが!」

「ラナには病気の母親と、幼い弟妹がいます。おそらく、それを楯に取られたのだと思います」

 じゃあ、それをラナに命令したのは・・・旦那様なの?火を放ったのも?

 そこまで私が嫌いなの?
殺したいほどに?

 悪意で、息が止まりそうになる。

「お風呂に水は?」

「抜かれてしまっていて・・・窓も、格子が熱を持っていて開けれないのです」

 井戸に水を汲みに行こうにも、井戸は外。
 ここにあるのは、水差しくらい。

「とにかく、ハンカチを水で湿らせて、鼻と口を塞ぎましょう」

 煙を吸ったら、動けなくなる。

 とにかく、玄関に向かうしかないわ。
他に出入り口はないもの。

 窓から出るには、炎を防ぎながら格子の鍵を開け、椅子かなにかでガラス窓を破り、火の中窓から飛び出さなきゃならない。

 それなら、まだ玄関のほうがマシだわ。
布団か何かで、火を少しでも防ぎながら、飛び出すしかない。

 玄関は木で出来てるから、もう鍵も意味を成していないはず。

「アメリー、布団をしっかり被って!」

「奥様?」

「強行突破よ。火傷を負うかもしれないけど、このままここにいても死ぬだけだわ」

「でも・・・ゴホッ!ゴホッ、ゴホッ!」

 咳き込むアメリーに、私の部屋の布団を被せ、手を引いて立ち上がらせた。

 隣のアメリーの部屋から布団を取ると、急いで玄関へと向かう。

「もう、あんなに火が・・・」

「私が椅子を扉に向けて投げるから、扉が割れたら、そこへ向かって走るのよ!しっかり布団を被って、髪や服に燃え移らないように。扉を抜けたら布団をすぐに手放すの。いいわね?」

「奥様!私が椅子を投げます」

「駄目よ。私の方が小柄だから、火が大きくなっても逃げやすいわ。さあ、行くわよ!」

 私はダイニングの椅子を扉へと投げつけた。





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