虐げられ令嬢の最後のチャンス〜今度こそ幸せになりたい

一度目の人生

興味も愛情もゼロですわ

「何が気に入りませんの？お給金ですか？金額は弁護士さんがバートンから聞いた仕事量から無難な金額を提示してくださったんですけど。なら、お仕事を夫人となられる方にお願いすればいかがですか？私はいつでも離縁に応じましてよ？」

「は？」

　せっかく離縁に応じると言ったのに、旦那様は間抜けな声を出して、そのままポカンとしている。

　もしかして、私に愛されているとか思ってる？

　まさかね。
だって、初夜から花嫁を放置してるような旦那様を好きになる人なんている？
　恋愛結婚だったならともかく、私と旦那様は政略結婚よ？

「旦那様？」

「り、離縁だと？」

「ええ。だって旦那様はええと、ラーナ様がお好きなのでしょう？」

「ララナだ！」

「あら？ごめんなさい。そのララナ様と再婚なさればよろしいじゃないですか。私たちは政略結婚なのですから、もう誰も旦那様にそれを押し付ける方はいらっしゃいませんわ」

　なのに、何が不満なのかしら？
慰謝料はいらないと言ってるんだから、離縁に同意すればいいのに。

　旦那様は、私をずっと睨みつけている。
私に、ボランティアをしろと言いたいのかしら？

　レティーナなら、もしかしたら無償で旦那様に仕えたかもしれないけど、私はお断りだ。

　政略結婚といえど、結婚した限りは正妻として大切にするべきだろう。

　一人息子だから、ただ好きな人と結ばれるというわけにいかなかったとしても、旦那様のレティーナに対する態度は酷すぎる。

「旦那様がサウザンド侯爵家を見捨てて、ラナナ様と一緒になる選択を出来なかったことは同情いたしますけど、それでも最終的に政略結婚を受け入れたのは旦那様ですわよね？私に対する態度が酷いと思いますの。だから、使用人としてお給金さえいただければ働くと言っていますのよ」

「おま、えは、俺のことが好きだろう？なら・・・」

「あら？ご冗談はおやめになって？私は旦那様に全く愛情など持っていませんし、興味もありませんわ」

　むしろ、私からしたら、嫌いな部類だ。
堂々と浮気しといて、妻にはやることはやれってふざけんなって感じだわ。

　私があっさりと否定したからだろう。
旦那様は口が塞がらないみたいだし、何ならこめかみがピクピクと震えている。

「すぐに契約書にサインを、とまでは言いませんけど、サインを下さらなければ夫人としての仕事は致しませんわ。ああ。離婚届でもかまいませんわよ？サインして下さるのは。旦那様にお任せしますわ」

「旦那様。旦那様の自業自得です。奥様は離れに移るまではお仕事には手を付けないとおっしゃっています。遅れて困るものは旦那様に回しますので、お早くお決めください」

　バートンに淡々と言われた旦那様は、そのままバートンに部屋から追い出されたのだった。