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一度目の人生

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 その日の午後、アメリーたちと弁護士さんのところへ向かった。

 私は知らなかったが、どうやらレティーナの従兄が弁護士をしているらしく、アメリーが彼のところへ行くことを勧めてくれたのだ。

 当然ながら、私とは初対面なので、ここでも記憶喪失で通した。

「レティーナ。記憶を失うなんて、何か辛いことがあったんじゃないか?病院には?」

「ゼフお兄様、心配いりませんわ。私は元気ですし、記憶がなくて困ることもありません」

「し、しかし・・・」

「それよりも、契約書を作って下さいませ。私は自由になりたいのです」

 どうやらレティーナは、家族とも友好な関係を築いていたようだ。
 従兄の心配している様子は偽りがないように見える。

 ならば、さっさと離婚に向けて相談すればよかったのにと思うけれど、もしかしたら何か理由があるのかもしれない。

 旦那様を好きというのではないだろう。
お飾りの妻であることをあっさりと受け入れたみたいだし、あの使用人部屋にも自ら向かったと聞いた。

 目の前の従兄ゼフは、父親の兄の息子で、子爵家の三男だそうだ。
 成人後は弁護士となり、平民となった。
それでも、元々貴族の彼に頼む貴族も多いらしく、それなりの功績を上げているらしかった。

「・・・記憶がないって話だけど、そういう淡々としたところは、やっぱりレティーナだな。分かった。契約書の内容は?」

「ゼフお兄様。レディに対して失礼でしてよ。まぁ、いいですわ。契約書ですが、まずは白い結婚であること、ですわ」

「白い結婚・・・」

 ゼフお兄様は目を見開いて、アメリーを見る。アメリーが頷いたのを見て、ため息を吐いた。

「つくづくサウザンド侯爵子息・・・いやもう侯爵か。彼はレティーナを馬鹿にしているんだな」

「別にかまいませんわ。むしろ白い結婚なら三年後に離縁できるのですから。いまさら、ちょっかいを出される方が困ります。私、旦那様に全く興味がありませんもの」

「・・・分かった。それだけか?」

「お互いに、お互いの行動や人間関係に口出ししないこと。侯爵夫人としての仕事に関しては、してもかまいませんけどお給金をいただくこと。それから・・・」

「まだあるのか」

 ゼフお兄様の言葉に、キョトンとしてしまう。
 せっかく弁護士に正式な契約書を作ってもらうんだもの。
 思いつく限り書くに決まってるじゃない。

「そうですわね。あとは、お互いの資産はお互いのもので、一切関与しないこと。お給金をいただく限りは、私自身の衣食住のお金は私が賄うということ。ああ。これが一番大切ですわ。三年後に離縁すること。そのくらいかしら?」
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