虐げられ令嬢の最後のチャンス〜今度こそ幸せになりたい

繰り返される人生

４度目の終わり

　そのまま暗い世界に意識が沈んでいった。

　ああ。また今回も駄目だったと、気持ちも沈むのが分かる。

　そして次に目覚めた時、そこは見慣れた真っ白な光に溢れた場所だった。

「また・・・ですか」

　もううんざりだった。
だから、レティーナは背後に立っているだろう人物に、嫌悪感たっぷりに声をかけた。

『ええと、おかしいな・・・今度こそは間違いないはずだったのに』

「そのセリフ、聞き飽きました。もう、いい加減疲れました。こんなことになるくらいなら、いっそ亀にでも生まれ変わった方がマシです。鶴は千年亀は万年とも言いますし、長生きできるでしょ」

『そんなヤケにならずに。本当におかしいな、今度こそ大丈夫だと思ったのに。何かイレギュラーが起きてるのかな』

　今度こそ。
そのセリフを何度聞いたことか。

　大体、最初の時にこの男はこう言ったのだ。

『本来、まだ生のあるはずの君が死んだお詫びに、やり直しの機会を与えるよ。幸せになれる未来をね』

　日本で生まれ育った礼奈は、十五歳の年に高熱を出して倒れた。
　病院で検査を受けたが、ただの風邪だろうと言われた。
　だが熱は下がったり上がったりを繰り返し、礼奈の体力を奪って行った。

　病院の入退院を繰り返し、それでもはっきりとした原因が見つからず、発熱する以外に大きな症状が出ない。

　だが、熱は礼奈の体力を、そして両親の気力を奪って行った。

　十六歳の誕生日の前日に礼奈が命を落としたのは、発熱を繰り返す礼奈の看病に疲れた母親が礼奈の首を絞めたからだ。

　礼奈は抵抗しなかった。
笑顔が消えていく母親をずっと見ていたから。

　そして死んだはずの礼奈に、目の前の男が言ったのだ。

『やり直しの機会を与える』と。

　礼奈は本来なら死ぬはずでなかった。
発熱を繰り返してはいたが、命を失うほどではなく、あと数年耐えたら、その発熱も治る予定だったらしい。

　だが、礼奈は死んだ。
だから目の前の神だと名乗る男は、礼奈にお詫びとしてやり直しの人生を与えるのだと言う。

　自分の娘に手をかけた母を思うと、胸が苦しかった。
　自分がこんなことになっていなければ、母はあんなことをせずに済んだのに。

　だから望んだ。
今度は病気などもせずに、健康でいたいと。
　そして、父と母に苦労をかけることのない人生がいいと。

　礼奈のやり直しの人生は、日本では出来ないらしい。
　だから神と名乗った男が、別の世界に送り込んでくれると言った。

『じゃあ、目を閉じてね。君はレティーナとして生きるんだ。幸せになるためにね』

　礼奈はその言葉に頷き、ゆっくりと目を閉じた。

　そして一度目のやり直しを迎える。