誰が彼女を殺したか

みおな

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救いの女神〜リリーのその後②〜

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「ただいま~」

 ラティエラが買ってくれた家は、家族三人が暮らすには十分な大きさだった。

 平民として平均な大きさで、小さな庭付き。

 家賃がいらないため、家族三人が働いていれば、リリーの嫁入りの際には十分な持参金を出すことが出来る。

 リリーは後で知ったのだが、ラティエラは両親に小さな宝石の入った箱を渡したそうだ。

 そこには、もし仕事を辞めることになった時、病気をした時、何かあってどうしてもお金が必要になった時に売るように、というメモが入っていた。

 ラティエラなら、大きな宝石を渡すことは簡単である。

 だけどそれを売る時、平民でしかないマゼンダ元男爵たちが犯罪を疑われたり、周囲にあの家にはお金があると思われたりしないために、わざわざ小さなものばかりを集めたのだ。

 リリーたちが、それを一気に売って贅沢な暮らしをしようとしないことを、ラティエラは理解していた。

 もちろんそうして、万が一の時に助けを求めて来たとしたら、ラティエラは手を貸すつもりではある。

 あの宝石は、リリーへの慰謝料である。
 婚約者を諌められなかった公爵令嬢、そして息子を諌めきれなかった王家からの慰謝料。

 リリーたちは、ラティエラの予測通りにその宝石はもしもの時用に各部屋に隠して片付け、家族三人それぞれが自分に出来る仕事を頑張っている。

 いつかリリーが嫁に行く時に、いくつかを残してリリーの嫁入り道具となるだろう。

「おかえり」

「お父さん、今日は早かったね。お母さん、またパンをもらったわ」

「あら、まぁ。毎日ありがたいわね。今日はシチューよ、リリも手伝ってちょうだい」

「はぁい」

 元が貧乏男爵家。
使用人も少なく、母親も使用人を休ませた週末は手料理を振る舞っていた。

 だからこそ、料理をすることも家の掃除や働くことも全く苦ではない。

 むしろ貴族の煩わしい社交がない分、母親はフェリノス王国に来てからイキイキしている。

 それは父親も同じで、ラティエラに紹介された仕事が合っている様子だ。

 何より両親にとって、娘のリリーが毎日笑顔であることが、何よりも嬉しい。

 どれだけ相手が高貴なお方だとしても、そこにリリーの幸せがなければ意味がないのだ。

 リリーは帰りに買って来た便箋を棚の上に置くと、母親を手伝うために台所へと向かう。

 初めてのお給金で、父親にはネクタイ、母親にはスカーフ、そして高級な便箋を買った。

 ラティエラに似合う、薄紫の花柄の便箋。

 先月押し花にしたビオラの花を同封しよう。

 リリーは女神のように美しい人を思い浮かべながら、微笑んだ。
 
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