誰が彼女を殺したか

みおな

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救いの女神〜リリーのその後①〜

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「リリちゃん、もう上がっていいわよ」

「はぁい」

 女将さんの声に顔を上げる。

 エプロンを外していると、女将さんが紙袋いっぱいのパンを手渡してくれる。

「これ、持って帰って食べて」

「いつもありがとうございます」

 フェリノス王国の王都にあるパン屋。

 そこで働くのは、かつてリリー・マゼンダ男爵令嬢と呼ばれていた少女だった。

 家族三人でフェリノス王国にやって来たリリーは、リリという平民として暮らし始めた。

 ラティエラは、フェリノス王国で三人が暮らすための家と、父親に商会での下働きの仕事を紹介してくれた。

 母親はレストランの裏方で働き始め、リリーは家の近くのパン屋で働き始めた。

 元々が貧乏男爵家で、働くことに何の抵抗もない。

 生活は貴族であった頃より楽だったし、何より家族三人笑って日々を過ごせる。

 それほどまでに、ジョンブリアン王国でのリリーは追い詰められていた。

 両親も娘の様子に心を痛めた。
だが、たかが男爵風情が王太子に物申すなどできるわけがない。

 娘であるリリーは、親の欲目かもしれないが可愛いと思う。

 だが、男爵家の娘であるリリーがなれるのは、愛妾。側妃にすらなれない。
 
 しかも正妃に後継が生まれたあと、子供を授かれないをされた上でないと娶られない。

 後継に何かあった時のために、処置をされるのは愛妾の方だ。

 それでも娘が王太子殿下を愛しているのなら、子を授かれない日陰の身でも良いと言うのなら、男爵夫妻も我慢しただろう。

 だが王太子殿下の言動は、異常だった。

 筆頭公爵家のご令嬢の婚約者を蔑ろにし、なれるわけもないリリーを王太子妃にすると言う。

 追い詰められたリリーに手を差し出したのは、被害者である婚約者の、ラティエラ・ウィスタリア公爵令嬢だった。

 王太子殿下と婚約を解消したラティエラは、リリーを助けるために死を擬装する案を提示して来た。

 もう死を覚悟していたリリーと男爵夫妻は、藁にもすがる思いでそれを受け入れた。

 結論として、リリーはジョンブリアン王国から東の、海を越えた先のフェリノス王国で暮らすことになった。

 ヴィクターは、両親である元国王夫妻と西の離宮に行くことが決まっている。

 だが、あの国にはヴィクターの他にもリリーを気にかけていた令息がいる。

 ヴィクターの顛末を知った彼らが、愚かな真似はしないと思いたいが、もしものことがあってはいけないからと、ラティエラから他国へ向かうことを勧められた。

 家族三人、生きていけるなら。

 リリーはラティエラの言葉に頷いた。




 

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