誰が彼女を殺したか

みおな

文字の大きさ
上 下
35 / 39

救いの女神〜リリーのその後①〜

しおりを挟む
「リリちゃん、もう上がっていいわよ」

「はぁい」

 女将さんの声に顔を上げる。

 エプロンを外していると、女将さんが紙袋いっぱいのパンを手渡してくれる。

「これ、持って帰って食べて」

「いつもありがとうございます」

 フェリノス王国の王都にあるパン屋。

 そこで働くのは、かつてリリー・マゼンダ男爵令嬢と呼ばれていた少女だった。

 家族三人でフェリノス王国にやって来たリリーは、リリという平民として暮らし始めた。

 ラティエラは、フェリノス王国で三人が暮らすための家と、父親に商会での下働きの仕事を紹介してくれた。

 母親はレストランの裏方で働き始め、リリーは家の近くのパン屋で働き始めた。

 元々が貧乏男爵家で、働くことに何の抵抗もない。

 生活は貴族であった頃より楽だったし、何より家族三人笑って日々を過ごせる。

 それほどまでに、ジョンブリアン王国でのリリーは追い詰められていた。

 両親も娘の様子に心を痛めた。
だが、たかが男爵風情が王太子に物申すなどできるわけがない。

 娘であるリリーは、親の欲目かもしれないが可愛いと思う。

 だが、男爵家の娘であるリリーがなれるのは、愛妾。側妃にすらなれない。
 
 しかも正妃に後継が生まれたあと、子供を授かれないをされた上でないと娶られない。

 後継に何かあった時のために、処置をされるのは愛妾の方だ。

 それでも娘が王太子殿下を愛しているのなら、子を授かれない日陰の身でも良いと言うのなら、男爵夫妻も我慢しただろう。

 だが王太子殿下の言動は、異常だった。

 筆頭公爵家のご令嬢の婚約者を蔑ろにし、なれるわけもないリリーを王太子妃にすると言う。

 追い詰められたリリーに手を差し出したのは、被害者である婚約者の、ラティエラ・ウィスタリア公爵令嬢だった。

 王太子殿下と婚約を解消したラティエラは、リリーを助けるために死を擬装する案を提示して来た。

 もう死を覚悟していたリリーと男爵夫妻は、藁にもすがる思いでそれを受け入れた。

 結論として、リリーはジョンブリアン王国から東の、海を越えた先のフェリノス王国で暮らすことになった。

 ヴィクターは、両親である元国王夫妻と西の離宮に行くことが決まっている。

 だが、あの国にはヴィクターの他にもリリーを気にかけていた令息がいる。

 ヴィクターの顛末を知った彼らが、愚かな真似はしないと思いたいが、もしものことがあってはいけないからと、ラティエラから他国へ向かうことを勧められた。

 家族三人、生きていけるなら。

 リリーはラティエラの言葉に頷いた。




 

しおりを挟む
感想 80

あなたにおすすめの小説

【完結】この胸が痛むのは

Mimi
恋愛
「アグネス嬢なら」 彼がそう言ったので。 私は縁組をお受けすることにしました。 そのひとは、亡くなった姉の恋人だった方でした。 亡き姉クラリスと婚約間近だった第三王子アシュフォード殿下。 殿下と出会ったのは私が先でしたのに。 幼い私をきっかけに、顔を合わせた姉に殿下は恋をしたのです…… 姉が亡くなって7年。 政略婚を拒否したい王弟アシュフォードが 『彼女なら結婚してもいい』と、指名したのが最愛のひとクラリスの妹アグネスだった。 亡くなった恋人と同い年になり、彼女の面影をまとうアグネスに、アシュフォードは……  ***** サイドストーリー 『この胸に抱えたものは』全13話も公開しています。 こちらの結末ネタバレを含んだ内容です。 読了後にお立ち寄りいただけましたら、幸いです * 他サイトで公開しています。 どうぞよろしくお願い致します。

完結 王族の醜聞がメシウマ過ぎる件

音爽(ネソウ)
恋愛
王太子は言う。 『お前みたいなつまらない女など要らない、だが優秀さはかってやろう。第二妃として存分に働けよ』 『ごめんなさぁい、貴女は私の代わりに公儀をやってねぇ。だってそれしか取り柄がないんだしぃ』 公務のほとんどを丸投げにする宣言をして、正妃になるはずのアンドレイナ・サンドリーニを蹴落とし正妃の座に就いたベネッタ・ルニッチは高笑いした。王太子は彼女を第二妃として迎えると宣言したのである。 もちろん、そんな事は罷りならないと王は反対したのだが、その言葉を退けて彼女は同意をしてしまう。 屈辱的なことを敢えて受け入れたアンドレイナの真意とは…… *表紙絵自作

【完結】返してください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ずっと我慢をしてきた。 私が愛されていない事は感じていた。 だけど、信じたくなかった。 いつかは私を見てくれると思っていた。 妹は私から全てを奪って行った。 なにもかも、、、、信じていたあの人まで、、、 母から信じられない事実を告げられ、遂に私は家から追い出された。 もういい。 もう諦めた。 貴方達は私の家族じゃない。 私が相応しくないとしても、大事な物を取り返したい。 だから、、、、 私に全てを、、、 返してください。

お飾り王妃の愛と献身

石河 翠
恋愛
エスターは、お飾りの王妃だ。初夜どころか結婚式もない、王国存続の生贄のような結婚は、父親である宰相によって調えられた。国王は身分の低い平民に溺れ、公務を放棄している。 けれどエスターは白い結婚を隠しもせずに、王の代わりに執務を続けている。彼女にとって大切なものは国であり、夫の愛情など必要としていなかったのだ。 ところがある日、暗愚だが無害だった国王の独断により、隣国への侵攻が始まる。それをきっかけに国内では革命が起き……。 国のために恋を捨て、人生を捧げてきたヒロインと、王妃を密かに愛し、彼女を手に入れるために国を変えることを決意した一途なヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は他サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID:24963620)をお借りしております。

妹ばかり見ている婚約者はもういりません

水谷繭
恋愛
子爵令嬢のジュスティーナは、裕福な伯爵家の令息ルドヴィクの婚約者。しかし、ルドヴィクはいつもジュスティーナではなく、彼女の妹のフェリーチェに会いに来る。 自分に対する態度とは全く違う優しい態度でフェリーチェに接するルドヴィクを見て傷つくジュスティーナだが、自分は妹のように愛らしくないし、魔法の能力も中途半端だからと諦めていた。 そんなある日、ルドヴィクが妹に婚約者の証の契約石に見立てた石を渡し、「君の方が婚約者だったらよかったのに」と言っているのを聞いてしまう。 さらに婚約解消が出来ないのは自分が嫌がっているせいだという嘘まで吐かれ、我慢の限界が来たジュスティーナは、ルドヴィクとの婚約を破棄することを決意するが……。 ◆エールありがとうございます! ◇表紙画像はGirly Drop様からお借りしました💐 ◆なろうにも載せ始めました ◇いいね押してくれた方ありがとうございます!

【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。

つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。 彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。 なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか? それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。 恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。 その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。 更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。 婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。 生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。 婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。 後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。 「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。

婚約破棄を、あなたのために

月山 歩
恋愛
私はあなたが好きだけど、あなたは彼女が好きなのね。だから、婚約破棄してあげる。そうして、別れたはずが、彼は騎士となり、領主になると、褒章は私を妻にと望んだ。どうして私?彼女のことはもういいの?それともこれは、あなたの人生を台無しにした私への復讐なの?

僕は君を思うと吐き気がする

月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。

処理中です...