誰が彼女を殺したか

みおな

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あの日の真相④

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 王太子ヴィクターの愛妾になる。

 そんな悲壮な覚悟を決めたリリーに、ラティエラはゆっくりと首を横に振った。

「お待ちになって。わたくし、今日学園で殿下に、そのお話をいたしましたの。そうしたら叱責されましたわ。愛しいリリー様に嫉妬してなんて醜いことを言うのかと。王太子妃に相応しくないと」

「「「は?」」」

 マゼンダ男爵家の三人の声が重なる。

 あまりのことに男爵など、ポカンと口を開けていた。

 一国の王太子に不敬極まりないが、脳内が沸いているのかと疑う発言だ。

 正式な婚約者であるご令嬢が、愛妾という存在を許容し譲歩してくれたというのに、それを嫉妬?

 マゼンダ男爵夫妻は、ゾッとした。

 この国にいたら、自分の娘は王太子殿下に

 なれるわけもない王太子妃として求められて、好きでもない相手に嫁がなければならなくなる。

 愛妾という立場ですら、親としては認めたくはないが、それでもお互いが愛し愛されているのならギリギリ許容できるだろう。

 だが殿下はともかく、リリーは嫌悪すらしている様子なのだ。

 そんなリリーは、嫁がされると決まったら自死を選ぶかもしれない。

 愛らしく可憐な容姿だが、意志が強い娘のことを両親は良く理解していた。

 娘が覚悟を決めた時は、自分たちも一緒に逝こう。

 自分たちが命を絶つことで、王太子殿下を諌めることが出来るなら、こうして娘のために心を砕いてくれるウィスタリア公爵令嬢のためになる。

 マゼンダ男爵夫妻は、顔を見合わせ頷き合った。

「そんな・・・」

「わたくし、両親に殿下との婚約解消をお願いいたしました」

 リリーは絶望したように、その場にへたり込んだ。

 そんなリリーを立たせるように、ラティエラは立ち上がり手を差し伸べる。

 完璧なこの人より、自分を選ぼうとするヴィクターの気持ちが理解できない。

「ウィスタリア様・・・」

「マゼンダ様。提案がございますの」

「はい」



 衝撃的な言葉だったが、リリーは驚かなかった。

 もうそれしか手はないと、自分でも分かっていたからだろう。

 だが、覚悟を決めたようなリリーと、諦めを浮かべたマゼンダ男爵夫妻に、ラティエラはクスクスと笑いだした。

「ふふっ。ふふふっ。男爵令嬢にしておくのは、もったいないですわ。殿下の何倍も聡明で、貴族としてもご立派です。わたくしがお願いしたいのは、殿下にマゼンダ様がのですわ」



 

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