誰が彼女を殺したか

みおな

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ヴィクターから見たラティエラとは?その2

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 愛妾・・・
その言葉に、ヴィクターは激昂した。

 リリーを愛しく思う気持ちを、馬鹿にされたような気がした。

 だから感情の赴くままに、ラティエラを怒鳴りつけた。

「なんと傲慢な考えの女だ!お前など、王妃として相応しくない!リリーの可憐で身も心も美しさに嫉妬しているのか!」

 ヴィクターは物心ついた頃から、ラティエラを知っていた。

 公爵家の令嬢ということで、接する機会も多かった。

 幼い頃は、泣いたり笑ったりと感情豊かだったラティエラも、淑女教育が始まると、常に笑顔を貼り付けたようになった。

 それは、仕方のないことだ。

 ヴィクターも王太子、未来の国王として、感情を顔に出さない教育は受けている。

 狐や狸の騙し合いのような社交界では、些細な表情の変化で、足を掬われることもある。

 それでもラティエラは、二人きりの時だけは花のように笑うことがあった。

 そのラティエラが、能面のような・・・表情の全てが抜け落ちたような、そんな表情かおをした。

 だが、それは一瞬だけで、すぐにいつもの淑女の笑顔に戻る。

 だから、ヴィクターは自分の見間違いかと思った。

 笑顔を浮かべたラティエラは「かしこまりました」と、頭を下げる。

「出過ぎた真似を申しました。わたくしは失礼させていただきます」

 そう言うと、淑女の鑑のようなカーテシーをして、その場から立ち去って行った。

 周囲からは、感嘆のため息がもれる。

「ウィスタリア様・・・なんてお美しいの」

「毅然とした態度。素敵ですわ」

「それに比べ・・・」

 周囲の視線が、自分を蔑んでいる気がして、ヴィクターもすぐにその場から立ち去り、リリーの教室へと向かう。

 だが、すでにリリーの姿はなく、ヴィクターはラティエラが呼び止めたせいだと感じ、一瞬感じた後ろめたい思いなど消え去ってしまった。

 リリーと出会ってから、つまりは入学式から、ヴィクターはラティエラのエスコートをしていない。

 公爵家に迎えにも行っていないし、当然送って行ってもいない。

 そのことを国王夫妻が知ったのは、ウィスタリア公爵家からの婚約の白紙撤回を求める手紙が届いた日、入学式から一ヶ月たった日のことだった。

 手紙を読んで、すぐさまヴィクターを呼び出した。

「父上、お呼びと伺いましたが」

「ヴィクター。お前、ウィスタリア公爵令嬢ラティエラ嬢とちゃんと交流しているのか?」

「・・・ええ。問題はありません」

 そう。問題はない。
ラティエラが何も言ってこないのはだ。

「ヴィクター。ラティエラ嬢を大切にしなさい。彼女は未来のお前の妃。恋をするなとは言わない。だが、王太子妃王妃になれるのは公爵家侯爵家の者のみ。そこをよく理解しなさい」
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