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愚かさに気づく日は来るのか?
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呼び出された国王の執務室で、王弟はため息を吐いた。
そろそろ呼ばれるかもしれないとは思っていたが、目の前の兄と義姉の姿にため息しか出てこない。
前に会ったのは、ヴィクターが学園に入学する一週間前だ。
あの時からまるで何十年もたったかのように、兄夫婦は老け込んでしまった。
「すまんな」
「兄上。ヴィクターは何か悪いものでも拾って食べたのですか?それとも、転んで頭でも打ったのですか?」
悪いものなど口にするわけがない。
王族には毒見役が必ずいるのだ。ヴィクターに毒見の必要なく食べ物を渡せるとしたら、両親である国王夫妻と婚約者のラティエラくらいだろう。
それに、転んで記憶を失くすというのは聞いたことがあるが、常識を失くすというのは聞いたことがない。
弟の言葉に、国王は深いため息を吐いた。
ヴィクターが学園に入学して以来、ため息を吐く回数が確実に増えた。
「頭でも打って記憶を失ったのなら救いようもあるが、どうやら頭の中のネジが全て飛んでいったようでな。もう、どうしようもないのだ」
「兄上・・・」
「お前には苦労をかけるが、やむを得ん」
ヴィクターに兄弟でもいれば、王太子の差し替えをする手もあったが、王妃は産後の肥立が悪く、子を授かることが出来なくなってしまったのだ。
それでも、良くも悪くも素直でまっすぐなヴィクターと、ラティエラという最高の婚約者。
子がひとりでも、心配する必要はないはずだった。
だが、何事にも万が一ということはある。
王家を継げるのは、王家の血を引いている者のみ。
過去の王女が降嫁していることから、ウィスタリア公爵とラティエラも薄くなっているが王家の血を引いている。
だが、当代で一番濃いのは、国王の弟だろう。
弟には、前もって伝えてある。
もしも、ヴィクターが王太子として相応しくないと判断されれば、その時は王弟の子供を王太子として立太子させると。
幸いにも、王弟にはヴィクターの二歳年上と二歳年下の息子がいる。
つまりヴィクターの従兄弟だ。
彼らのどちらかを王太子にする決断が下された。
「速やかに準備を進めてくれ。譲位が終われば、私とヴァイオレットは南の離宮に向かう予定だ。ヴィクターは王籍から抜く。側近たちは、ヴィクターほど阿呆ではなかったようだから側近から外すのみとする。新たな側近の選定は任せる」
「ちょっと待ってください。養子にすれば良いではないですか。あいつらも説明すれば納得しますよ」
「いや。我々が王座にいるままでは、ウィスタリア公爵家への謝罪にならん。王位はお前に任せる。これは決定事項だ」
ついに、王座の入れ替えとなる。
ヴィクターは、己のしたことの愚かさに気づくのだろうか、
そろそろ呼ばれるかもしれないとは思っていたが、目の前の兄と義姉の姿にため息しか出てこない。
前に会ったのは、ヴィクターが学園に入学する一週間前だ。
あの時からまるで何十年もたったかのように、兄夫婦は老け込んでしまった。
「すまんな」
「兄上。ヴィクターは何か悪いものでも拾って食べたのですか?それとも、転んで頭でも打ったのですか?」
悪いものなど口にするわけがない。
王族には毒見役が必ずいるのだ。ヴィクターに毒見の必要なく食べ物を渡せるとしたら、両親である国王夫妻と婚約者のラティエラくらいだろう。
それに、転んで記憶を失くすというのは聞いたことがあるが、常識を失くすというのは聞いたことがない。
弟の言葉に、国王は深いため息を吐いた。
ヴィクターが学園に入学して以来、ため息を吐く回数が確実に増えた。
「頭でも打って記憶を失ったのなら救いようもあるが、どうやら頭の中のネジが全て飛んでいったようでな。もう、どうしようもないのだ」
「兄上・・・」
「お前には苦労をかけるが、やむを得ん」
ヴィクターに兄弟でもいれば、王太子の差し替えをする手もあったが、王妃は産後の肥立が悪く、子を授かることが出来なくなってしまったのだ。
それでも、良くも悪くも素直でまっすぐなヴィクターと、ラティエラという最高の婚約者。
子がひとりでも、心配する必要はないはずだった。
だが、何事にも万が一ということはある。
王家を継げるのは、王家の血を引いている者のみ。
過去の王女が降嫁していることから、ウィスタリア公爵とラティエラも薄くなっているが王家の血を引いている。
だが、当代で一番濃いのは、国王の弟だろう。
弟には、前もって伝えてある。
もしも、ヴィクターが王太子として相応しくないと判断されれば、その時は王弟の子供を王太子として立太子させると。
幸いにも、王弟にはヴィクターの二歳年上と二歳年下の息子がいる。
つまりヴィクターの従兄弟だ。
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「速やかに準備を進めてくれ。譲位が終われば、私とヴァイオレットは南の離宮に向かう予定だ。ヴィクターは王籍から抜く。側近たちは、ヴィクターほど阿呆ではなかったようだから側近から外すのみとする。新たな側近の選定は任せる」
「ちょっと待ってください。養子にすれば良いではないですか。あいつらも説明すれば納得しますよ」
「いや。我々が王座にいるままでは、ウィスタリア公爵家への謝罪にならん。王位はお前に任せる。これは決定事項だ」
ついに、王座の入れ替えとなる。
ヴィクターは、己のしたことの愚かさに気づくのだろうか、
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