誰が彼女を殺したか

みおな

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婚約者とは?

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 リリー・マゼンダ。
マゼンダ男爵家の娘で、王太子やラティエラたちと同い年のご令嬢である。

 ピンクブロンドのふわふわとした髪。
 同色の瞳は、ぱっちりしている。

 十人中八人は可愛いと思う容姿をした彼女は、感情豊かな令嬢だった。

 貴族、特に高位貴族になればなるほど、感情をあらわにすることはない。

 それは、相手に付け入る隙を与えてしまうから。

 だから幼い頃から、徹底的にマナーの一環として叩き込まれる。

 だが下位の貴族令嬢の場合は、そこまで神経質にはならない。

 彼女たちが嫁ぐとしても、同等か、せいぜい伯爵家まで。

 常識の範囲内であれば、困ることがないからである。

 だから、リリーの屈託のない笑顔を見た令息たちは、彼女を「可愛い」と思った。

 令嬢たちも、リリーが男爵令嬢ということもあり「愛嬌があるのはいいこと」だと言った。

 政略結婚が主な高位貴族の自分たちと違い、リリーは嫁入り先を見つけなければならないのだ。

 愛らしい笑顔に好意を持ってくれる令息を見つけなければならないだろうと、むしろ好意的に見ていた。

 だが、相手が王太子となると話は別である。

 ジョンブリアン王国の王太子ヴィクター。

 彼の婚約者は、公爵令嬢のラティエラである。

 リリーに一目惚れしたらしいヴィクターは、ラティエラを蔑ろにし、リリーを追いかけまわし始めた。

 その時点で、多くの令嬢は眉をしかめた。

 リリーにではなく、ヴィクターにである。

 そして、数日後。
ラティエラがヴィクターに進言する。

「マゼンダ男爵令嬢のことをお好きなのでしたら、婚姻して三年たてば愛妾としてお迎えくださってかまいません。離宮にお迎えし、公務以外は離宮でお過ごしくださることも了承いたします。わたくしとの夜伽も、後継さえ授かれば後は必要ありません。ですから、今は節度ある態度を取って下さいませ」

 ラティエラは、ヴィクターを人目のない場所へ誘導して、二人きりで話をするつもりだった。

 だがヴィクターはそれを聞き入れず、ラティエラは仕方なく周囲に少し離れてくれるように目線で訴えてから、教室の片隅でそうヴィクターに訴えた。

 聞き耳を立てていた級友たちは、ヴィクターの「嫉妬のあまりになんて醜い発言をする女だ!」という呆れた言葉に、あいた口が塞がらない。

 どれだけ可愛らしかろうと、リリーが王太子妃になることはできない。

 リリーを娶ろうと思うなら、ヴィクターは王籍を返上して男爵家に婿入りするか二人して平民になるしかない。

 まさか、王太子がそこまで馬鹿だとは。

 ラティエラが婚約者から下りるのなら、婚約者候補として名が上がってしまうかもしれない。

 まだ婚約者のいない令嬢たちは、その日家に戻り、両親に婚約者を至急探してくれるよう頼むのだった。
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