上 下
17 / 55

間違い〜魔王様視点〜

しおりを挟む
「家・・・出?」

 昼食を誘うためにシアンの部屋を訪れた俺に渡されたのは、シアン手書きの置き手紙だった。

 呆然とする主君から手紙を受け取ったメフィストは、厳しい視線をフラウに向けた。

行かせたのですか?答えなさい、フラウ」

 フラウはシアンの侍女であると同時に、護衛でもある。

 シアンを護れる者が来るまでに、その身を呈して守る役目があった。

 シアンの自由を妨げるべきではないが、安全が保障される魔王城から外へ出ることを見逃すべきではない。

 だが、メフィストの厳しい視線にもフラウは顔を下げることはなく、しっかりとした表情で俺を見た。

「罰は後でお受けします。ですが、失礼を承知でお伺いいたします。陛下、再婚をお考えになられましたか?」

「無礼ですよ、フラウ。陛下のお考えに貴女のような身分の者が・・・」

「メフィスト、かまわない。俺はシアンに母親を作ってやりたかった。シアンはまだ母親に甘えたい年頃だろう?」

「姫様が・・・シアン様そう望まれましたか?陛下に母親が欲しいとお願いされましたか?」

 フラウの問いかけに、戸惑った。

 確かにシアンからそんなことをお願いされたことはないが、あの子は聡い子だ。

 我儘になるからと、口にしなかっただけだろう?

 だが、フラウの視線はそうではないと言っていた。

「姫様は、魔王妃様、つまりお母様のことを全く覚えていらっしゃらないそうです。ですが、我々が、そして陛下がいらっしゃることでカケラも寂しいなどと思わないのだそうです。陛下。姫様は再婚を反対して家出なさったわけではありません。姫様にとって、この再婚は『陛下の奥様』を得るためのもの。姫様のお母様を得るためのものではないんです」

 いや。俺は、妻を得たいと思ったわけではない。

 俺にとっての妻はエヴァジェリンだけだ。

 それは再婚相手にもちゃんと説明して、シアンの母親となろうとする者の中から選ぶつもりだった。

「何故、姫様にお尋ねくださらなかったのですか?姫様が、と思うとはお考えにならなかったのですか?」

 目の前が真っ暗になった。

 そうだ。どうして聞かなかったのだろう。
 シアンなら、ちゃんと正直に自分の気持ちを答えてくれたはずなのに。

 邪魔なわけがない。
シアンは俺にとって大切な、かけがえのないものなのに。

「シアンは・・・もう俺の娘ではいたくないのだろうか」

「そういうこともにお聞きください。お戻りいただくよう、ご連絡いたしますから」

 戻って・・・くれるのだろうか?
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

冤罪で山に追放された令嬢ですが、逞しく生きてます

里見知美
ファンタジー
王太子に呪いをかけたと断罪され、神の山と恐れられるセントポリオンに追放された公爵令嬢エリザベス。その姿は老婆のように皺だらけで、魔女のように醜い顔をしているという。 だが実は、誰にも言えない理由があり…。 ※もともとなろう様でも投稿していた作品ですが、手を加えちょっと長めの話になりました。作者としては抑えた内容になってるつもりですが、流血ありなので、ちょっとエグいかも。恋愛かファンタジーか迷ったんですがひとまず、ファンタジーにしてあります。 全28話で完結。

少女漫画の当て馬女キャラに転生したけど、原作通りにはしません!

菜花
ファンタジー
亡くなったと思ったら、直前まで読んでいた漫画の中に転生した主人公。とあるキャラに成り代わっていることに気づくが、そのキャラは物凄く不遇なキャラだった……。カクヨム様でも投稿しています。

我が家に子犬がやって来た!

ハチ助
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

幼馴染パーティーから追放された冒険者~所持していたユニークスキルは限界突破でした~レベル1から始まる成り上がりストーリー

すもも太郎
ファンタジー
 この世界は個人ごとにレベルの上限が決まっていて、それが本人の資質として死ぬまで変えられません。(伝説の勇者でレベル65)  主人公テイジンは能力を封印されて生まれた。それはレベルキャップ1という特大のハンデだったが、それ故に幼馴染パーティーとの冒険によって莫大な経験値を積み上げる事が出来ていた。(ギャップボーナス最大化状態)  しかし、レベルは1から一切上がらないまま、免許の更新期限が過ぎてギルドを首になり絶望する。  命を投げ出す決意で訪れた死と再生の洞窟でテイジンの封印が解け、ユニークスキル”限界突破”を手にする。その後、自分の力を知らず知らずに発揮していき、周囲を驚かせながらも一人旅をつづけようとするが‥‥ ※1話1500文字くらいで書いております

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

夫婦で異世界に召喚されました。夫とすぐに離婚して、私は人生をやり直します

もぐすけ
ファンタジー
 私はサトウエリカ。中学生の息子を持つアラフォーママだ。  子育てがひと段落ついて、結婚生活に嫌気がさしていたところ、夫婦揃って異世界に召喚されてしまった。  私はすぐに夫と離婚し、異世界で第二の人生を楽しむことにした。  

憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

【完結】神様に嫌われた神官でしたが、高位神に愛されました

土広真丘
ファンタジー
神と交信する力を持つ者が生まれる国、ミレニアム帝国。 神官としての力が弱いアマーリエは、両親から疎まれていた。 追い討ちをかけるように神にも拒絶され、両親は妹のみを溺愛し、妹の婚約者には無能と罵倒される日々。 居場所も立場もない中、アマーリエが出会ったのは、紅蓮の炎を操る青年だった。 小説家になろう、カクヨムでも公開していますが、一部内容が異なります。

処理中です...