悪役令嬢?いま忙しいので後でやります

みおな

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聖女からの提案《シオン視点》

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 フローラの言ったその言葉に、僕もソルも、まるで空気さえも凍ってしまったように、辺りは静寂に包まれた。

 フローラは今、なんと言った?
リアナが、可愛いリアナが聖女?

 聖女の文献は、王家にも伝わっている。
代々王となる者にしか開くことのできない扉がある。その奥に厳重に隠された文献。

 僕も立太子した時点では、まだその文献の存在は知らなかった。
 国王陛下である父上のみが知り、開くことのできる扉。

 知らされたのは、聖女であるフローラが婚約者となった時点だ。それは、聖女が妻になるということに対する恩恵のようなものだ。
 聖女が現れ、その聖女が婚約者になった時のみ、王太子の時点での扉への関与が認められる。

 現に、前聖女は王家に嫁がなかったため、父上が扉のことを知らされたのは、国王陛下に即位してからだそうだ。

 その文献の中にある。
『闇の聖女』とは、国に混乱と破滅をもたらす存在。その聖女は、魔族を繁栄させ数百年もの間、世界を混沌に落としたと。

「そんな・・・リアナが・・」

「シオン様?闇の聖女とは一体・・・?」

 立ち上がることもできないほど、打ちのめされる僕を、闇の聖女の意味を知らないソルが不審そうに見つめている。

 ソル・・・
ソル、すまない。

 リアナが闇の聖女であるのならば、僕はリアナに毒杯を飲まさなければならない。
 闇の聖女の力に呑まれてしまう前に、リアナを・・・

 可愛い可愛い、僕の異母妹。
リアナを死なせても、僕は共に逝ってやることができない。
 この国には、後継は僕しかいない。聖女が存在する今、僕がその義務を放棄することはできない。

 せめて、せめて弟でもいれば、共に逝ってやれるのに。
 なんの罪もないリアナを死なせて、僕は生き長らえねばならない。

「大丈夫です」

 絶望に染まる僕の思考に、フローラの声が響いた。 

「フローラ?」

「大丈夫です、シオン様。その道を選ばないために私はおふたりにお話しすることにしたのですから。まずは、闇の聖女についてソル様にも分かるようにお話しますね」

 そして、フローラはソルと僕に『闇の聖女』という存在について語った。
 それは僕の知っている『闇の聖女』そのもので、だけど、文献に載っていない事実も含まれていた。

「覚醒・・・させなければいいの、か?」

「ええ。覚醒してしまえば、闇の聖女は倒すことも封じることも出来ません。私の力など通じず、世界は混沌に沈みます。聖女が再び眠りにつくまでその地獄は続きます」

「どうすればいい?」

「人の悪意に触れさせなければいいのです。悲しませたり苦しませたりしなければいいのです。宿主が絶望した時に闇の聖女は覚醒すると伝えられています。ですから、シオン様にも、そしてソル様にも、リアナ様が笑っていられるように、幸せで生涯を終えられるように、今以上にリアナ様を愛し、守って欲しいのです」

 その覚悟を持って欲しいから、明かしたのだとフローラは続けた。

 大切な異母妹を、リアナを殺さずに済むのならー

 命がけで守る。全ての悪意から遠ざけ、守り抜く。

 そして、ソルもそうだろう。
ソルはリアナのことをずっと想っていた。
 リアナを悲しませる存在など許すわけがない。きっと、これから隠していたリアナへの愛を前面に出して、リアナが困るほどに愛しんでいくだろう。
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