聖女だと呼び出しておいて無能ですか?〜捨てられた私は魔王様に溺愛される〜

みおな

文字の大きさ
上 下
25 / 28

処罰の行方《ハルト視点》

しおりを挟む
「やめろ、リアン」

 僕の制止の声に、ピタリとリアンの指が止まった。

「陛下」

「お前の手が汚れることを我が寵姫が望まない」

 殺さない限り、こいつらの前で聖女サクラの名前は出せない。

 僕は、王家の人間などはっきり言ってどうでもいい。生きていようが死のうが知ったことではない。
 そして、僕とリアンの生い立ちを聞いたサクラもあの馬鹿を殺すなとは言わなかった。
 僕もリアンも王家に殺されかけている。その僕らに殺すのはダメとは言えなかったのだろう。

 だから、サクラが望んだのは、僕とリアンが手を下すことだけはしないで欲しい。それだけだった。

「ですが」

「殺すなと言っているわけではない。僕とお前の手を汚さねば、どうなろうと知ったことではない」

 方法などいくらでもある。魔族の手を使わずとも、魔の森には魔物がたくさんいる。怪我を負わせて魔の森に放り出せばすぐにでも魔物に襲われるだろう。

 目の前の国王が僕のことを憎々しげに睨んでいることも、腕と足を折られている様子の王子が声もなく喚いていることも、どうでもよかった。

 僕はサクラの意思をリアンに伝え、リアンを連れてサクラの待つ魔王城へ帰る。それだけだ。

「き、貴様のせいで、我が王家は・・・ひっ!!」

「誰が貴様ですか?あなたもいっそ死にますか?」

 僕に向けられた国王の言葉に、即座にリアンが反応する。殺気を浴びせた途端、ひきつったように床で縮こまった。

 アレが国王でこの国は大丈夫か?いっそ、高位貴族の誰かを国王にした方が良くないか?

 どちらにせよ、後を継ぐ王子はいなくなるわけだしな。

「筆頭公爵が相応しいと思われます。しかも優れた嫡子がいます」

 いや。僕の考えを勝手に読むな。
まぁ、これもか。リアンがいつもの調子に戻ったのなら、それでいいか。

「なら、も喉を潰して捨てるか。これでは国が傾くだろう。王妃はどうする?」

「処分した方がよろしいかと。後々禍根を残しかねません」

「ふむ。来い、ハービック」

 魔力を流し、魔族を呼び出す。
現れたのは、体格のいい厳つい見た目の男だ。
 魔族でも力のある上位魔族は人間の姿そのものに擬態できる。魔族としての牙も角も、羽も尻尾も、全て隠している。
 それは、その力を封じたままでも引けを取らないという証だ。

「お呼びに従い、参上いたしました」

「コレと別室の王妃の喉と両手足を潰し、そちらのと共に魔物の多い森に捨てろ。もうコレらは要らない」

「かしこまりました。結末まで見届けますか?」

「そうだな。時間もかからないだろう。任せる」

 承知したと頭を下げたハービックは、即座に目の前の国王と王子を掴み上げ、その場から姿を消した。

「リアン」

「ありがとうございます、ハルト魔王陛下。これで煩わしくて仕方なかった関係が断ち切れました。これからも我が心は魔王陛下と共に」

「ああ。お前だけはずっとそばにいてくれ。さあ、帰ろう。サクラが待っている」

 きっと、心配でウロウロしながら待っているだろう。

 僕とリアンはその様子を思い浮かべて微笑んだ。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

元聖女だった少女は我が道を往く

春の小径
ファンタジー
突然入ってきた王子や取り巻きたちに聖室を荒らされた。 彼らは先代聖女様の棺を蹴り倒し、聖石まで蹴り倒した。 「聖女は必要がない」と言われた新たな聖女になるはずだったわたし。 その言葉は取り返しのつかない事態を招く。 でも、もうわたしには関係ない。 だって神に見捨てられたこの世界に聖女は二度と現れない。 わたしが聖女となることもない。 ─── それは誓約だったから ☆これは聖女物ではありません ☆他社でも公開はじめました

聖女としてきたはずが要らないと言われてしまったため、異世界でふわふわパンを焼こうと思います!

伊桜らな
ファンタジー
家業パン屋さんで働くメルは、パンが大好き。 いきなり聖女召喚の儀やらで異世界に呼ばれちゃったのに「いらない」と言われて追い出されてしまう。どうすればいいか分からなかったとき、公爵家当主に拾われ公爵家にお世話になる。 衣食住は確保できたって思ったのに、パンが美味しくないしめちゃくちゃ硬い!! パン好きなメルは、厨房を使いふわふわパン作りを始める。  *表紙画は月兎なつめ様に描いて頂きました。*  ー(*)のマークはRシーンがあります。ー  少しだけ展開を変えました。申し訳ありません。  ホットランキング 1位(2021.10.17)  ファンタジーランキング1位(2021.10.17)  小説ランキング 1位(2021.10.17)  ありがとうございます。読んでくださる皆様に感謝です。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

召喚されたら聖女が二人!? 私はお呼びじゃないようなので好きに生きます

かずきりり
ファンタジー
旧題:召喚された二人の聖女~私はお呼びじゃないようなので好きに生きます~ 【第14回ファンタジー小説大賞エントリー】 奨励賞受賞 ●聖女編● いきなり召喚された上に、ババァ発言。 挙句、偽聖女だと。 確かに女子高生の方が聖女らしいでしょう、そうでしょう。 だったら好きに生きさせてもらいます。 脱社畜! ハッピースローライフ! ご都合主義万歳! ノリで生きて何が悪い! ●勇者編● え?勇者? うん?勇者? そもそも召喚って何か知ってますか? またやらかしたのかバカ王子ー! ●魔界編● いきおくれって分かってるわー! それよりも、クロを探しに魔界へ! 魔界という場所は……とてつもなかった そしてクロはクロだった。 魔界でも見事になしてみせようスローライフ! 邪魔するなら排除します! -------------- 恋愛はスローペース 物事を組み立てる、という訓練のため三部作長編を予定しております。

異世界に落ちたら若返りました。

アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。 夫との2人暮らし。 何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。 そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー 気がついたら知らない場所!? しかもなんかやたらと若返ってない!? なんで!? そんなおばあちゃんのお話です。 更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。

悪役令嬢、追放先の貧乏診療所をおばあちゃんの知恵で立て直したら大聖女にジョブチェン?! 〜『医者の嫁』ライフ満喫計画がまったく進捗しない件〜

華梨ふらわー
恋愛
第二王子との婚約を破棄されてしまった主人公・グレイス。しかし婚約破棄された瞬間、自分が乙女ゲーム『どきどきプリンセスッ!2』の世界に悪役令嬢として転生したことに気付く。婚約破棄に怒り狂った父親に絶縁され、貧乏診療所の医師との結婚させられることに。 日本では主婦のヒエラルキーにおいて上位に位置する『医者の嫁』。意外に悪くない追放先……と思いきや、貧乏すぎて患者より先に診療所が倒れそう。現代医学の知識でチートするのが王道だが、前世も現世でも医療知識は皆無。仕方ないので前世、大好きだったおばあちゃんが教えてくれた知恵で診療所を立て直す!次第に周囲から尊敬され、悪役令嬢から大聖女として崇められるように。 しかし婚約者の医者はなぜか結婚を頑なに拒む。診療所は立て直せそうですが、『医者の嫁』ハッピーセレブライフ計画は全く進捗しないんですが…。 続編『悪役令嬢、モフモフ温泉をおばあちゃんの知恵で立て直したら王妃にジョブチェン?! 〜やっぱり『医者の嫁』ライフ満喫計画がまったく進捗しない件~』を6月15日から連載スタートしました。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/500576978/161276574 完結しているのですが、【キースのメモ】を追記しております。 おばあちゃんの知恵やレシピをまとめたものになります。 合わせてお楽しみいただければと思います。

【完結】ニセ聖女と追放されたので、神官長と駆け落ちします〜守護がなくなり魔物が襲来するので戻ってこい? では、ビジネスしましょう〜

恋愛
 婚約者の王太子からニセ聖女の烙印を押された私は喜んで神殿から出ていった。なぜか、神官長でエルフのシンも一緒に来ちゃったけど。  私がいなくなった国は守護していた結界がなくなり、城は魔物に襲来されていた。  是非とも話し合いを、という国王からの手紙に私は再び城へ。  そこで私はある条件と交換に、王を相手にビジネスをする。 ※小説家になろうにも掲載

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!

あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!? 資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。 そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。 どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。 「私、ガンバる!」 だったら私は帰してもらえない?ダメ? 聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。 スローライフまでは到達しなかったよ……。 緩いざまああり。 注意 いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

処理中です...