聖女だと呼び出しておいて無能ですか?〜捨てられた私は魔王様に溺愛される〜

みおな

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処罰の行方《ハルト視点》

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「やめろ、リアン」

 僕の制止の声に、ピタリとリアンの指が止まった。

「陛下」

「お前の手が汚れることを我が寵姫が望まない」

 殺さない限り、こいつらの前で聖女サクラの名前は出せない。

 僕は、王家の人間などはっきり言ってどうでもいい。生きていようが死のうが知ったことではない。
 そして、僕とリアンの生い立ちを聞いたサクラもあの馬鹿を殺すなとは言わなかった。
 僕もリアンも王家に殺されかけている。その僕らに殺すのはダメとは言えなかったのだろう。

 だから、サクラが望んだのは、僕とリアンが手を下すことだけはしないで欲しい。それだけだった。

「ですが」

「殺すなと言っているわけではない。僕とお前の手を汚さねば、どうなろうと知ったことではない」

 方法などいくらでもある。魔族の手を使わずとも、魔の森には魔物がたくさんいる。怪我を負わせて魔の森に放り出せばすぐにでも魔物に襲われるだろう。

 目の前の国王が僕のことを憎々しげに睨んでいることも、腕と足を折られている様子の王子が声もなく喚いていることも、どうでもよかった。

 僕はサクラの意思をリアンに伝え、リアンを連れてサクラの待つ魔王城へ帰る。それだけだ。

「き、貴様のせいで、我が王家は・・・ひっ!!」

「誰が貴様ですか?あなたもいっそ死にますか?」

 僕に向けられた国王の言葉に、即座にリアンが反応する。殺気を浴びせた途端、ひきつったように床で縮こまった。

 アレが国王でこの国は大丈夫か?いっそ、高位貴族の誰かを国王にした方が良くないか?

 どちらにせよ、後を継ぐ王子はいなくなるわけだしな。

「筆頭公爵が相応しいと思われます。しかも優れた嫡子がいます」

 いや。僕の考えを勝手に読むな。
まぁ、これもか。リアンがいつもの調子に戻ったのなら、それでいいか。

「なら、も喉を潰して捨てるか。これでは国が傾くだろう。王妃はどうする?」

「処分した方がよろしいかと。後々禍根を残しかねません」

「ふむ。来い、ハービック」

 魔力を流し、魔族を呼び出す。
現れたのは、体格のいい厳つい見た目の男だ。
 魔族でも力のある上位魔族は人間の姿そのものに擬態できる。魔族としての牙も角も、羽も尻尾も、全て隠している。
 それは、その力を封じたままでも引けを取らないという証だ。

「お呼びに従い、参上いたしました」

「コレと別室の王妃の喉と両手足を潰し、そちらのと共に魔物の多い森に捨てろ。もうコレらは要らない」

「かしこまりました。結末まで見届けますか?」

「そうだな。時間もかからないだろう。任せる」

 承知したと頭を下げたハービックは、即座に目の前の国王と王子を掴み上げ、その場から姿を消した。

「リアン」

「ありがとうございます、ハルト魔王陛下。これで煩わしくて仕方なかった関係が断ち切れました。これからも我が心は魔王陛下と共に」

「ああ。お前だけはずっとそばにいてくれ。さあ、帰ろう。サクラが待っている」

 きっと、心配でウロウロしながら待っているだろう。

 僕とリアンはその様子を思い浮かべて微笑んだ。
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