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いつも助けてくれるのは
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「は・・・ると様?」
「誰の許可を得て、この魔王城に足を踏み入れている?」
抱きしめられていて顔が見えない。見えないけど、ハルト様の声が、今まで聞いたことのないくらい冷たくて・・・怖い。
怒ってるの?私があんなこと言ったから。怖くて身動ぎすると、ハルト様はさらに強く私を抱く腕に力を込めた。
「陛下、ご寵姫とお部屋へお戻り下さい。ここは私が」
リアン様の声もする。そして、あの王子の前ではやっぱり名前呼ばないんだ。まぁ、私も知られたくないけど。
「わかった。任せる」
「待て!その女は僕の・・・」
「あなたには学習能力がないのですか?魔王陛下のご寵姫に触れるなと伝えたでしょう?私は同じことを何度も言わせる馬鹿が大嫌いです。少しお仕置きをした方がいいみたいですね?」
転移する直前に、リアン様の不穏な言葉を聞いた気がするけど、私にはその結果を見ることは叶わなかった。
「サクラ」
元いた部屋に転移で連れ戻され、キツく抱きしめられる。
私はよくいえば小柄・・・元いた世界の食生活のせいか貧相な体格なので、そんなに大柄じゃないけど、ハルト様の腕の中にすっぽりと入ってしまう。
なんで抱きしめられているのかわからない。分からないけど、不思議と嫌じゃない。
いつも、私を助けてくれるのは、この魔王陛下。
あのままあの馬鹿に連れ去られていたら、私はあの男のモノにされていたんだろうか。
そう気付いて身を震わせると、ハルト様の大きな手が私の頭を撫でる。
まるで子供をあやすように何度も何度も撫でられて、さっきの恐怖で止まっていた涙がまたあふれた。
「ふっ・・うぅ・・っ」
「サクラ。サクラ、泣くな」
お父さんとお母さんが死んでから、どんなに辛くったって泣いたことなかったのに。だって泣いたりしたらおばさんに迷惑がかかるから。だから、バイト先で何を言われてても、絶対泣いたりしなかったのに。
ハルト様が、私を横抱きで抱き上げて、ソファーに腰掛ける。そのまま私を自分の膝の上に座らせて、顔を覗き込んできた。
ちょ、ちょっと待って。
どうして膝抱っこしてるの?びっくりして涙が止まってしまう。
「泣き止んだか?」
紅い瞳が近い。お父さんの膝に座って頭を撫でてもらったのは、もうずいぶん昔のことだ。
だけど、お父さんと違うことをされ、硬直した。
ハルト様は、私の眦に、頬に、旋毛に唇を押し当てた。
え?え?ええ?
何?なにされてるの?
私がその紅い瞳を見つめると、とろりと蕩けそうに微笑んで、そして、ハッとしたように目を逸らした。
「す、すまない。な、涙を拭おうと・・・」
旋毛に涙は付いてないけど。でも、私はハルト様の言い訳に反論しなかった。
久しぶりに泣いた私は、今は色んなことを考えたくなかった。
「誰の許可を得て、この魔王城に足を踏み入れている?」
抱きしめられていて顔が見えない。見えないけど、ハルト様の声が、今まで聞いたことのないくらい冷たくて・・・怖い。
怒ってるの?私があんなこと言ったから。怖くて身動ぎすると、ハルト様はさらに強く私を抱く腕に力を込めた。
「陛下、ご寵姫とお部屋へお戻り下さい。ここは私が」
リアン様の声もする。そして、あの王子の前ではやっぱり名前呼ばないんだ。まぁ、私も知られたくないけど。
「わかった。任せる」
「待て!その女は僕の・・・」
「あなたには学習能力がないのですか?魔王陛下のご寵姫に触れるなと伝えたでしょう?私は同じことを何度も言わせる馬鹿が大嫌いです。少しお仕置きをした方がいいみたいですね?」
転移する直前に、リアン様の不穏な言葉を聞いた気がするけど、私にはその結果を見ることは叶わなかった。
「サクラ」
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なんで抱きしめられているのかわからない。分からないけど、不思議と嫌じゃない。
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あのままあの馬鹿に連れ去られていたら、私はあの男のモノにされていたんだろうか。
そう気付いて身を震わせると、ハルト様の大きな手が私の頭を撫でる。
まるで子供をあやすように何度も何度も撫でられて、さっきの恐怖で止まっていた涙がまたあふれた。
「ふっ・・うぅ・・っ」
「サクラ。サクラ、泣くな」
お父さんとお母さんが死んでから、どんなに辛くったって泣いたことなかったのに。だって泣いたりしたらおばさんに迷惑がかかるから。だから、バイト先で何を言われてても、絶対泣いたりしなかったのに。
ハルト様が、私を横抱きで抱き上げて、ソファーに腰掛ける。そのまま私を自分の膝の上に座らせて、顔を覗き込んできた。
ちょ、ちょっと待って。
どうして膝抱っこしてるの?びっくりして涙が止まってしまう。
「泣き止んだか?」
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だけど、お父さんと違うことをされ、硬直した。
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え?え?ええ?
何?なにされてるの?
私がその紅い瞳を見つめると、とろりと蕩けそうに微笑んで、そして、ハッとしたように目を逸らした。
「す、すまない。な、涙を拭おうと・・・」
旋毛に涙は付いてないけど。でも、私はハルト様の言い訳に反論しなかった。
久しぶりに泣いた私は、今は色んなことを考えたくなかった。
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