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それはずるいですわ

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「ローズ!!」

 後ろから抱きしめて来るその人の胸に顔を埋めました。

 ミントのような爽やかなコロンが胸にいっぱいになって、涙が込み上げてきます。

 貴族が人前で感情を見せるものではありません。だから、涙を見せるなんて駄目なのです。だけど、どうしたらいいんでしょうか。悲しくて、悲しくて、仕方ないんです。

「アルフレッド様・・・」

「ローズ、こっちにおいで。大丈夫だから」

「あ!アルフレッド様ぁ。ローズさんてばひどいんですよぉ」

 私を抱き寄せたアルフレッド様は、媚びたように近づいて来ようとするマルティス男爵令嬢を睨みつけます。

「お前たち!この無礼な令嬢を拘束しろ」

「はっ」

「え?ちょ・・・離しなさいよっ!アルフレッド様ぁ!どうしてっ!」

 ここは王宮です。
王妃様のお茶会ですから、少し離れたところに騎士たちが控えています。
 アルフレッド様の呼びかけで、マルティス男爵令嬢はすぐに拘束されました。

 だけど。
汚れたドレスは元には戻りません。
 私が油断してしまったから・・・

「さあ、ローズ」

 アルフレッド様に手を引かれ、お茶会の会場から離れます。

「ふっ・・・うっ・・・」

 駄目です。貴族たるもの人前で泣いたりしたら・・・

 だけど、アルフレッド様に連れられ、客室に着いた時、堪えきれずに涙がこぼれてしまいました。

「ローズ・・・」

 俯いて泣き出した私に、アルフレッド様は戸惑っています。
 当たり前です。公爵令嬢とあろう者が人前で声を出して泣くなんて。そんな婚約者に呆れてしまったのでしょう。

「泣かないで、ローズ」

「ご、ごめん・・・なさい」

「謝らなくていい。辛いときは泣かせてあげたいけど、ローズの泣き顔を見ていると、僕の胸が潰れそうに苦しいんだ」

 アルフレッド様の大きな手のひらが私の頬を包み込みます。

「ドレスは代わりのものをすぐに用意する。そのシミは王宮のメイドに頼んでみるから」

「王妃様・・・にせっかく贈っていただいたのに」

「確かにローズによく似合っているけどね。だけど、婚約者である僕にも贈らせて欲しいな」

 その言い方はずるいですわ。

 その拗ねたような言い方に、思わず笑みが浮かんでしまいました。

 私が笑ったことで、アルフレッド様はすぐにドレスの用意をメイドに頼んでくれます。

 その日、私は濃いピンクのドレスをお借りして、お茶会に望みました。

 アルフレッド様から事情を聞いて、王妃様は気にしなくていいと言ってくれます。
 すでに来場していたシルヴィア様たちも、心配してくれました。

 マルティス男爵令嬢は、どうなったのでしょうか?騎士に拘束を指示したのはアルフレッド様ですが、どうにも聞ける気がしません。聞いたら地雷を踏みそうです。

 まぁ、今回のことで、彼女が自分の言動を改めればいいと思います。

 ドレスのことは悲しかったですが、怒ってはいません。私が油断していたのがいけなかったのです。

 後日。
綺麗に染み抜きできたピンクブロンドのドレスと、白銀のドレスが送られて来ました。
 白銀のドレスは、まるでウエディングドレスのようで・・・
 私はその日、夜遅くまでそのドレスを眺めていましたー

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