上 下
94 / 107

ちょっと待って

しおりを挟む
「カイル、好き・・・」

 思わず言ってしまった言葉に、私自身が固まった。

 確かに好意的に思っていたし、何なら告白しようかとも迷っていたわ。

 でも、この気持ちが恋愛的なものか分からなくて躊躇っていたのに、思わず出た言葉が「好き」だなんて。

「待って。ちょっと待って。違うの。いえ、違わないけど、えと・・・」

「ローズマリア様、落ち着いて下さい。大丈夫です。俺は勘違いしたりしてませんから」

 カイルの言葉に再び固まる。

 勘違い?勘違いって、なに?

「勘違いってなに?私がカイルを好きって言っても自惚れてもくれないってこと?俺は主従関係の信頼だって理解ってますよって?」

 違う。こんなことを言いたいんじゃない。
 だって、私自身が気持ちをはっきり理解していないのに。

 カイルは、私が困らないように言ってくれているだけなのに。

 だけど、少しくらい照れてくれても良いじゃない。

 好きって言ったのに、全然嬉しそうじゃない。

 カイルにとって私は、やっぱり主人でしかないの・・・

 気持ちが、風船が萎むように縮んでいく気がする。

 俯いた私の手を、カイルはそっと握った。

 剣ダコがあって、私より大きくてゴツゴツした手。

 私を守って、ずっと支えてくれた手。

「ごめん。やな言い方した。カイルは私のこと、ずっと支えてくれてるのに」

 私はカイルの気持ちを傷つけてまで、恋愛感情を持って欲しいわけじゃ・・・

 ううん。
本当はきっと、好きになって欲しいんだ。

 主人としてでなく、ひとりの女の子として。

 でも私がそれを望んだら、カイルは無理をしてでもそれを叶えようとしてくれる。

 それは、駄目。
これが恋だとしても、叶わなくてもちゃんといつか諦めることができるはずだから。

「ローズマリア様」

「ごめんね」

「もし・・・俺の勘違いだったなら、そうおっしゃって下さい。ローズマリア様、俺のことを、恋愛的な意味でお好きなのですか?」

 そうよね。
あんな言い方したら気付くわよね。

「・・・あのね、さっきまでは恋愛的な意味かどうか自信がなかったの。カイルのことは信頼してるし、そばにいて欲しいって思うけど、それはヒルデ様やラーナ様が持っている気持ちと同じなのかなって。だけど、思わず言葉が出てしまって・・・そしたら、こうやって手に触れられるのも、その・・・だっ、抱きしめられるのもカイルが良いって。カイルじゃなきゃ嫌だって気付いたの。ごめんなさい」

「どうして謝るんですか?俺はこんなに嬉しいのに」

「え、嬉しい?」

「そこでなんで疑問符なんですか?好きな人に好きって言われたら、嬉しいに決まってるでしょう?」

 え?好きな人?
え?ちょっと待って。

 私はカイルを好きで・・・カイルも私を、好き?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生できる悪役令嬢に転生しました。~執着婚約者から逃げられません!

九重
恋愛
気がつけば、とある乙女ゲームの悪役令嬢に転生していた主人公。 しかし、この悪役令嬢は十五歳で死んでしまう不治の病にかかった薄幸な悪役令嬢だった。 ヒロインをいじめ抜いたあげく婚約者に断罪され、心身ともに苦しみ抜いて死んでしまう悪役令嬢は、転生して再び悪役令嬢――――いや悪役幼女として活躍する。 しかし、主人公はそんなことまっぴらゴメンだった。 どうせ転生できるならと、早々に最初の悪役令嬢の人生から逃げだそうとするのだが…… これは、転生できる悪役令嬢に転生した主人公が、執着婚約者に捕まって幸せになる物語。

そして乙女ゲームは始まらなかった

お好み焼き
恋愛
気付いたら9歳の悪役令嬢に転生してました。前世でプレイした乙女ゲームの悪役キャラです。悪役令嬢なのでなにか悪さをしないといけないのでしょうか?しかし私には誰かをいじめる趣味も性癖もありません。むしろ苦しんでいる人を見ると胸が重くなります。 一体私は何をしたらいいのでしょうか?

転生した元悪役令嬢は地味な人生を望んでいる

花見 有
恋愛
前世、悪役令嬢だったカーラはその罪を償う為、処刑され人生を終えた。転生して中流貴族家の令嬢として生まれ変わったカーラは、今度は地味で穏やかな人生を過ごそうと思っているのに、そんなカーラの元に自国の王子、アーロンのお妃候補の話が来てしまった。

悪役令嬢に仕立て上げられたので領地に引きこもります(長編版)

下菊みこと
恋愛
ギフトを駆使して領地経営! 小説家になろう様でも投稿しています。

断罪されて婚約破棄される予定のラスボス公爵令嬢ですけど、先手必勝で目にもの見せて差し上げましょう!

ありあんと
恋愛
ベアトリクスは突然自分が前世は日本人で、もうすぐ婚約破棄されて断罪される予定の悪役令嬢に生まれ変わっていることに気がついた。 気がついてしまったからには、自分の敵になる奴全部酷い目に合わせてやるしか無いでしょう。

勘当された悪役令嬢は平民になって幸せに暮らしていたのになぜか人生をやり直しさせられる

千環
恋愛
 第三王子の婚約者であった侯爵令嬢アドリアーナだが、第三王子が想いを寄せる男爵令嬢を害した罪で婚約破棄を言い渡されたことによりスタングロム侯爵家から勘当され、平民アニーとして生きることとなった。  なんとか日々を過ごす内に12年の歳月が流れ、ある時出会った10歳年上の平民アレクと結ばれて、可愛い娘チェルシーを授かり、とても幸せに暮らしていたのだが……道に飛び出して馬車に轢かれそうになった娘を庇おうとしたアニーは気付けば6歳のアドリアーナに戻っていた。

悪役令嬢ですが、どうやらずっと好きだったみたいです

朝顔
恋愛
リナリアは前世の記憶を思い出して、頭を悩ませた。 この世界が自分の遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気がついたのだ。 そして、自分はどうやら主人公をいじめて、嫉妬に狂って殺そうとまでする悪役令嬢に転生してしまった。 せっかく生まれ変わった人生で断罪されるなんて絶対嫌。 どうにかして攻略対象である王子から逃げたいけど、なぜだか懐つかれてしまって……。 悪役令嬢の王道?の話を書いてみたくてチャレンジしました。 ざまぁはなく、溺愛甘々なお話です。 なろうにも同時投稿

婚約破棄を告げられた瞬間王子やめろ抗議が始まりました~悪役令嬢はみんなのアイドルだったようです~

荷居人(にいと)
恋愛
「貴様とは婚約破棄だ!そして私はリアンヌと婚約する!」 「ユーザ様……嬉しいです」 ああ、やっぱりヒロインには敵わないんだなぁと、これから起こることを予測して泣きそうになった時だった。 「ふざけるのもいい加減になさいませ!このクソ王子!」 「誰だ!今私を侮辱したのは!不敬罪に……っ」 「私が言いました」 「あー、私も言いました」 「私も言ってしまいましたわ」 これは………なんですの? 婚約破棄シリーズ主人公置いてきぼりに続く第四弾……いつシリーズ化したか、それは私にもわからない。 とりあえず婚約破棄シリーズタグは荷居人をつけました。こちらは好評なため番外編も絶賛公開中です! 可愛らしい血が流れているためR15に。 表紙ははつ様に描いていただきました! たくさんの応援ありがとうございますm(_ _)mご指摘は修正させていただきました。 また、明らかな中傷コメントはおやめください。作品を読んでのご意見ならともかく明らかに暴言と見なされる言葉や自分勝手な強制するような脅迫めいた言い分はアルファポリスのガイドラインの禁止事項にもなります。何事も度が過ぎた行為は私以外の作品でもやめましょう。

処理中です...