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私より大人だわ

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 レーチェル王女は、しばらく俯いて考えたあとしっかりと顔を上げた。

「その告白をすることは、セニヨン公爵令息様のご迷惑になりませんか?また、ホリック様たちとのことに支障を来たしたりしませんか?」

「お兄様に関しては大丈夫です。そして、ホリック様のことは、全員でゆっくり考えましょう」

「・・・私は、セニヨン公爵令息様のことが好き・・・なのかもしれません。情けないことですが、こんな気持ちになったのは初めてなので、はっきり断言することが出来ないのですけど」

 レーチェル王女はまだ八歳だ。
その好きが恋愛の好きかどうかなんて、まだわからないだろう。

 人のことは言えない。
私もまだカイルへの気持ちが、お兄様が亡くした彼女を思う気持ちや、ロイドやサリフィルたちの想いと同じかどうかなんて、わかっていないのだから。

「それで、レーチェル様がお兄様に想いを告げられるとおっしゃるのでしたら、先にお話しておきたいことがあります」

「?」

「セニヨン公爵家嫡男のクリストフお兄様は、十年前に亡くした幼馴染のご令嬢を・・・今も想い続けていらっしゃいます。そのご令嬢一家が、お兄様を守るために亡くなってしまったことが、余計にお兄様を縛っているのです。自分は誰かを好きになってはいけない。幸せになってはいけない。ずっとそう思われているの」

 私の話す内容に、レーチェル王女は目を見開く。

「だから、タチアナ様のことを自分の婚約者にしても良いとおっしゃったわ。自分は相手を愛するつもりはないから、相手を気遣う必要がない方が良いと。だから、レーチェル様が想いを伝えても、お兄様は多分お応えにならないと思います。それでも、想いをお伝えになりますか?」

「・・・」

 自分で言っていて、なんて酷いことを言っているのかと思う。

 相手は八歳の少女だというのに。

 私が自己嫌悪のため、深い穴を掘って埋まろうと思い出した頃、レーチェル王女が顔を上げた。

「はい。お断りされてもかまいません。私は自分の気持ちをちゃんと伝えて、失恋したいと思います。そうしたら・・・ちゃんと次は政略結婚の相手と向き合えると思うんです。この恋を終わらせないと、いつまでも前向きになれない気がするんですよね」

「レーチェル様・・・はお強いですね。私はレーチェル様のこと、尊敬します」

「ふふっ。私はまだまだ子供ですよ。ただ、近くでロイドお兄様の恋を見ていたので、少しマセているのかもしれません」

 きっと、辛いだろうにそう言って笑うレーチェル王女は、私よりも随分と年上な気がした。
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