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どちらもというわけにはいかない

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「おふたりの事情は理解しました。では、私の方の事情もお話いたします。私は、元々はオズワルド公爵家の次女です。三歳年上の姉がいて・・・とても優しく美しい姉です。この国の王太子であるレオナルド殿下も、姉のことを慕っていました。ですが、姉はオズワルド公爵家の嫡子。必然的に婚約者の座は私に来る可能性が高くて・・・私は王太子殿下の婚約者になりたくないのです。そのために叔母の嫁ぎ先であるセニヨン公爵家にお願いして養女にしていただきました。ですが、何故か殿下が私に婚約の打診に訪れたのです。殿下のお気持ちは私には推し量ることは出来ません。ですが、婚約を回避するためにどうしても仮の婚約者が必要なのです」

 言える範囲で、正直に話した。
まさか、レオナルドと婚約した後に聖女となったリリーシアとレオナルドに裏切られて魔王になるんです、とは言えない。

 レオナルドを好きでない私は、二人に裏切られても魔王にはならないかもしれないけど。

 そもそも、レオナルドと婚約したくない。

 アレがゲームの中だけのこととは思えない。

 だってローズマリアの中に、悲しみがある。痛みがある。絶望感がある。

 私に変わったことで、レオナルドへの愛情はなくなったけど、アレがただのゲーム内のことなら、小さいけど憎しみがあるわけない。

 二人はある程度は、お兄様から事情を聞いていたのだろう。

 驚いた様子はなかった。

「この国の王太子殿下は、立派な方だと聞いていたが?」

「そうですね。私と同い年ですが、自分が王太子だということをよく分かっている方だと思います。ですが、人を好きになる気持ちは理屈ではないことは、お二人が一番よくご理解されているのでは?」

 私は、彼らが自分の立場を理解していないとは思えない。

 誰よりもそれを理解しているけど、それ以上にどうしようもなく好きな相手がいるということだろう。

 前世の自分の記憶がない私には、その気持ちを理解することはできないけど、それを否定するつもりもない。

「そうか、そうだな。セニヨン嬢は、誰か想う相手がいるのか?」

「私は・・・これが恋なのかはわかりませんが、できることなら一緒にいたいと思う相手はいます。ただ、私の片想いなので」

 カイルが私を好きかどうかは分からない。

 ローズマリアは、レオナルドのことしか見ていなかったから。

 カイルも自身が仕えるローズマリアに、好きとかそんなことを言ってきたりはしなかった。

 私自身も、カイルを好きだとははっきり言えない。

 ただ、平民になって田舎暮らしをするときに、カイルがいてくれたら良いな、と思うだけだ。
 

 
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